第12神話   儀式の準備①

「よし!取り敢えずこれで新品の家具達を置く用意は出来たな。」




 取り敢えずは空間を繋いで、ある程度の瓦礫の山を無くすことが出来た。さて、ここでやるべきことはある程度終わらせた。




「…今、ウランとラルバ大丈夫かなぁ。」




 ラヴァナが皆んなの気持ちを代弁するように心配そうに此方に向けて声をかける。




「…私やっぱり心配だよ。ちょっと電脳城の方まで行って外の様子を……」




 そう言ってラヴァナは裂け目を出現させようとしたその時




ーーおーい、お前ら聞こえるか?




 いつもの聞き慣れた声が耳に入る。




「あれ?ラルバやないか。これまたどうした?」




 最初に反応したのはマサルで、ここにいる全員の脳内に語りかける。


 ラルバがまだ半身をこの世界に残しているのは意外だった。まだ何かやることが…?


 


「ね、ねぇラルバ。そっちの方は今は大丈夫?」




 心配そうにラヴァナはラルバに安否を確認する。ラルバの今の体は半分がこの体内、もう半分がじげんの神達がいる方と分かれているため二つの体を脳だけでも繋ぎさえすればすぐに状況が分かる。

 少し間を置くと私達に対して応答する。




「さっき見てきたが大きなことは起きてはいない。今は大丈夫だ。」




「よ、良かった。」




 計画に支障なく、順調に事が進んでいることに安心した。

 その合間にラルバが口を開く。




 ーーそれよりも、だ。緊急で頼みたいことがある。




「…何だ?」




 先程のラルバがウランに聞いたことと同じようなことを、ネヴァは聞き返す。




「ウラさんから伝達、計画変更だ。今から人間を一体化させる。時間がかかるから手伝ってくれとのことだ。」




「え?もうやるんか?古文書を手に入れた後じゃなくて?」




ーーあぁ。この神を無効化している隙に合体して神通力を蓄えておく。そしたら後からあいつが何かしらの手を打って反撃しようとしても対抗できるだろ?




 成る程。確かにそうすることでじげんの神が何かしらの手を使ったとしてもすぐに対応出来る。だがそれにしては


 


「……なんかウランの奴、やけに警戒してないか?いや、勿論徹底した奴なのは昔からそうだが……」




ーーそれほどまでに警戒しとけってことだ。俺は会議室で待ってる。もう切るぞ。




 それだけ言うともうラルバの声は聞こえなくなっていた。




「…だってさ。あのじげんの神、まだ何かしようとしてるのかな?」




 ラヴァナが今聞いたことを私とマサルに確認するように言う。




「んー…少なくともウラさんが計画変更をしてまで言うぐらいなんやから相当なもんじゃないか?」




「あの状況で出来ることなんてそうそう無いけどなぁ……」




 二人は呑気にじげんの神について雑談する。全く……


 私はそんな二人のおしゃべりを中断させる為に割って入る。




「はいはいお前達、そこでおしまい。ただでさえ準備に時間がかかるのに……」




 ただでさえ一体化というのは多くの下準備がいるというのにそんな悠長に話している暇なんて無いのだ。


 そうしてマサルとラヴァナの腕をガシッと掴む。




「…行くぞ。」




ーーーー




 裂け目から出ると本来会議室にあるべき机や椅子は全て撤去され、真ん中に木製の椅子に座るラルバがポツンといた。




「……お前ら来たか。」




 ラルバは王座に座るように足を組み、座って待ち構えている。




「…覚悟は?」




 ラルバは私達に対して改めて自分達の今からする行動について問う。




「…今更聞く時じゃない。目的を遂行するまで。」




「……よし。」




 そう冷静に返し、ラルバは此方に安心の笑みを見せる。


 


「……マサル、ラヴァナ。やるぞ。」




「お、おう!」「わ、分かってるわよ!」




 ネヴァの強い意志を感じ取った二人はすぐにネヴァの言われるがまま、ラルバを中心として羅針盤の指す東西南北と囲うように位置に着く。


 私が東、ラヴァナが西、マサルが北に位置し、南の位置だけポツンと空いている。




「マガミ………」




 ラヴァナが心淋しそうにマガミの名を呟く。




(…あの薬は傷から優先的に治すからな……疲労まですぐには治せないか。)




 マガミがいない今、厳しい試練になるのは間違いないがもうやるしかない。そう意を決して両手で両頬をパチンと叩く。


 さぁ、ここがら私達の勝負所だ。


 


「はぁぁぁぁ………」




 早速3人で床に向けてくうかんの能力を使う。展開させる場所、形、大きさをイメージする。


 すると、地面に空間の裂け目で作られた模様がどんどんと形成されていく。

 数ミリの微細な模様までそれぞれが作り上げる。


「よし…!いい感じだ!ただもう少しマサル出力あげれるか?」


「お、おう!」


 ラルバが私達にフォローを入れてくれるおかげで気が抜けなくなるのは有り難い。


「ラヴァナはもう少し模様を丁寧に頼む!」


「う、うん!」


 そのおかげもあってか3人の力のおかげで良いスタートダッシュが切れていた。

 だが




「…はぁっ…はぁ……っ!」




 早速体のエネルギーが半端では無いほど消費されていき、ついに私とマサルが息を切らし始めた。


 ラヴァナは昔から体力はある奴だからまだ息は切れていないが顔を見る限り辛いのは間違いない。



「や、やばい……!3人ってこんなキツイんか…!」


 マサルの体が段々と疲労によって沈んでゆく。そう、この儀式はまず対象者を静止させたまま中心に置き、床に裂け目で魔法陣を作らなければならないのだ。

 それもかなり精巧な魔法陣で範囲も大きい為、繊細な作業の為の多大な集中力と気力、エネルギーが必要になる。

 もし少しでも大きさが数ミリずれるだけでこの魔法陣は効能を失ってしまう。

 しかも今回は一人欠けた状態というオマケ付きだ。




「ま、マサル!い、今はとにかく作ることだけを集中しないと!失敗したらまた一からやり直しよ!?」




 ラヴァナはマサルの邪念を振り払うように早口で伝える。

 そんな言葉をかけるラヴァナの額にも汗が滴う。


 


「はぁッ……!!はぁっ…!!」




 私は早くも喋ることすら出来ないほどに疲弊してしまう。


 ネヴァのニット帽内は灼熱地獄へと化していた。

 ニット帽の隙間から吸収しきれていない汗が垂れ流れる。


(ま、まずい。このままじゃ……倒れる…!)


 このまま行くと誰か一人は疲労によってパタリと倒れてしまうだろう。

 だが無情にもまだ半分くらいの完成度である。


「が、頑張れ!頼む!マガミがくるまで辛抱してくれ!!」


 マサルは希望をもたせるように呼びかける。私達も心境としてはそのことを願うことばかりだ。

 ………いやこのまま保つか?


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