第8神話(前書き) ヒーロー(?)参上!
ーーネヴァside
ラルバ達に報告を終えて、ラヴァナとマサルに合流しようとしていた。
(マサルとラヴァナはどうなったんだろうか…)
ーーおい、マサル、ラヴァナ聞こえてるか。そっちは大丈夫か?
二人の脳内をと私の脳内を空間で繋いでテレパシーのように伝える。
ーー………
ーーおい?二人とも?聞こえるか?
だが応答は無かった。二人の脳内と自分の脳内の空間を通している筈なのに。
(嫌な予感がする……)
あの二人が聞き逃しなんてする筈がない。
この異常事態に、すぐにマサルとラヴァナの位置をラルバの体内の広大な空間を全てを把握するために集中して、位置の特定を開始した。
「スペクテイター《観察》!!」
そう叫んだ瞬間に、このラルバの体内空間全体の様子が脳内に裂け目を通して頭に流れ込む。
(…まずはさっきの場所から捜してみるか。)
まず、捜す場所として有力なマガミが造った渓谷の近くを中心に探すことにした。
(ここいら中心を探してみるか……?って……!?)
人がうつ伏せに倒れ込んでいた。間違いない、あのワンピースは……
(ラヴァナ……!)
その姿を見た途端に居ても立っても居られず、すぐに瞬間移動をした。
ーーーー
「ラヴァナ大丈夫か!?」
ラヴァナは渓谷の穴にギリギリの所で落ちそうになっていた。反応は無い。
(脈は……!?)
腕の脈の方へ手をかざすと脈拍は薄くなっている。
間違いなくこのままじゃ死んでしまう。
「と、とにかく移動させよう。(お、重いな…)」
体を両腕で抱えて安全な場所に移動させる。そして体を仰向けにさせた。
黒のワンピースには大量の血液が染み付いている。綺麗に3本の爪痕が腹部から足にまで刻まれていて、一刻を争う状況だった。
「おいラヴァナ!しっかりしろ!おい!」
それでも応答はない。私は急いで応急処置にかかる。
(クソ!マガミの奴、一線ついに越えたか!今までは私達に暴力を振るうことなんて無かっただろ!一体なんで……!)
普段は私達に当たること無くラルバに対しての忠誠心は誰にも負けない奴がラルバの意思に反するようなことは、自身の命を天秤に掛けてもしないような奴だ。
だからこんな身勝手な行動をするぐらいの理由があるのかと思ったが、心の中で何回見てもじげんの神に対する馬鹿にされたことへの憎しみだった。
今までもラルバや肉食動物を馬鹿にする輩は確かに居た。
だがそれでもマガミは軽く受け流していた。
相当に感情が溜まって暴走したときでも、私達に手を出さずに物に当たっていたくらいだ。
(じゃあ一体何がマサルの負の感情を高まらせているんだ?なんでマガミは暴走してる?)
そうしてその考えが今やるべき応急処置をしようという意思を乗っ取ろうとした時だった。
「ネ……ヴ……………ァ」
そんな考えに嵌っている最中に、微かな声が私の遠ざかっていた意識をすぐに引き戻す。
「ラヴァナ?ラヴァナ!」
確かに今微かに声が聞こえた。まだ息はある。とにかくまずは止血するもの…
(回復薬は確か……)
そうして裂け目に手を突っ込み、そこから黄色に光る回復薬を取り出す。
次にラヴァナを起こして服とシャツを捲る。
「まずは腹部からだ。にしても相当深いな……。」
臓器も少し見えるほど、ぐちゃぐちゃに崩れている。あの技術でもこの傷は完全に治り切るのだろうか…。
(いや、そんなことを考えている暇はない!やらぬ後悔よりやる後悔だ!)
そうして半分以上の回復役を患部に掛ける。
シュゥゥゥ…!
するとみるみる傷が修復していく。
そして臓器は見えなくなっていき、傷が完全に閉じた。それを見て心配は無くなり安堵した。
「………ん。」
するとラヴァナの口から声が漏れ、ラヴァナは目を開ける。
「う、うーーん………あれネヴァ?って、むぎゃ。」
「はぁぁぁぁ……良かったぁぁぁ。ラヴァナが死んだら誰が私の恋愛相談してくれんのよぉ……!!」
ラヴァナを力強く抱きしめた。
「痛い痛い痛い!(やけに乙女になってるわね。カッコつけるんじゃなくて素のままの方が本当にもっとモテるんじゃ……)」
「い、一回落ち着いてネヴァ!わ、私は大丈夫だから!だから離…れ…て。苦……しい。」
ーーーー数分後
ラヴァナを自室に移動させた。部屋には可愛いぬいぐるみがベッドに置いてあり、綺麗な紫色のコウテイダリアが机の上に飾ってある。
ラヴァナはアニメ調のムカデが描かれている黒いノースリーブと無地の赤色の短パンを着て、クローゼットから出てきた。
「ふぃ〜〜、ありがとねネヴァ。そういやマサルは?」
「いや、私もさっきテレパシーで呼びかけたけど応答が無いんだ。
「そっか………。」
「教えてくれ。私が行っているお前に何があったんだ?」
そう言うとラヴァナはゆっくりと話し始める。
「マガミがさっき地面に大きな割れ目を作ったじゃない?そこに私達はみんな落とされちゃって……」
「マガミが叶夢を確実に殺そうと落下している隙を狙って叶夢を攻撃しようとしてた。」
「でも、私が何とか防いで……ある程度の時間は稼いだんだけど…」
ラヴァナは言いづらそうに言葉を詰まらせる。
「結局…負けたのね。」
「……うん、ごめん。」
申し訳無さそうにラヴァナは謝る。
「私の力不足だ……ホントにごめん。止められなかった。こんな時まで……」
ラヴァナは悔しそうに唇を噛む。
その姿が今は亡きあいつと重なる。
(はぁ……)
「……だーもう。止めなさい!そんな風に謝るの!」
「……!」
懐かしい口調でシラフに話すネヴァに少し驚いたような表情をする。
「そういう謝り方がいっちばんこっちまでなんてコメントすれば良いのか分からないじゃない!」
「で、でも……」
「だーかーらー、もう止められなかったとかは今は良い。それしきで私達は失望したりしないわよ。」
「というか、そんな失望してあーだこーだ言うなんてしょうもないこと一々しないわよ。だからそう気に病まないで。ね?」
懐かしい感じの接し方にラヴァナはなんだか心が安らぐものがあった。
「……あ、ありがと。」
ラヴァナは少しうれしそうに感謝の言葉を伝えた。
その言葉を聞くとともに、ネヴァは笑みを浮かべながらコホンと咳払いをする。
「…じゃ、話に戻るぞ。その後は?マサルと叶夢はどうなった?」
咳払いをした後はいつもの口調へと戻り、さっきの話をまた続ける。
するとラヴァナはすぐに切り替える。
「え、えぇ……私が倒れた少しした後、スペクテイターで何とか叶夢の動向だけは何とかマサルに伝えようとしようと思ったんだけど……」
またもや言いづらそうに言葉を詰まらせる。
なんだ?また……
「叶夢がマガミに渓谷に落とされて……マサルは渓谷の底で倒れてる。」
「…は!?叶夢とマサルは大丈夫なのか!?」
焦りで、変な冷や汗が毛穴からたくさん出てくる。
衝撃的な発言に思わず目を見開いてしまった。
「マサルがリビングに叶夢を転移させてたのは見えた。」
「…い、今はどうなってる?」
「私はその時にもう気絶しかけてて…現実かどうかも分からなかったけど今はラルバとマガミが闘おうとしているのは見えた。」
(…今は叶夢の方はラルバに任せるしかないか…それよりも優先すべきはマサルの救助の方だ。)
「まぁ、お前が無事で何よりだ。傷とかは痛まないか?」
聞いた瞬間にラヴァナが少しふらついたが、なんとか体勢を立て直した。それを見た瞬間に少し不安になってしまった。
「ラヴァナ!?大丈夫か!?」
「うん、大丈夫……。けどちょっと時々目眩がするかも。」
「多分、出血による貧血だろう。安静にして寝ておいた方が良いんじゃないか?」
「いや、まだ歩けるから大丈夫。」
そういって平気そうな顔をしているが、かなりの大量出血だった。流石にこのままではいつばったり倒れてもおかしくない。
「やっぱり自分の部屋で安静にしといた方が……「大丈夫よ。」」
「こんな所で止まっていられないわよ!ラルバと私達の夢のゴールはもうすぐでしょ?こんなところでのほほんと寝そべるくらいなら、意地でもこの足を踏み締めて、夢を掴みに行ってやるわ!」
その覚悟に圧倒されてしまった。そうだ、もうここまで来て一人でも欠けるのがラルバにとっては痛手すぎる。相手は神だ。
このラヴァナの覚悟を変な優しさで無下にするのはリーダーとして駄目だ。
改めて自身に喝を入れてラヴァナと向き合う。
「…分かった。ただちょっと輸血ぐらいはしてもらうぞ。」
「はいはーい。けど輸血パックなんてあそこにあったっけ?」
ラヴァナは軽く返事を返す。
「いやお前の血管の中に裂け目を創って、私の血をお前に流し込む。」
「え?」
ラヴァナの口から素のトーンの声が出てきた。
「なんだ嫌なのか?お前確かA型だったろ。私も同じだから大丈夫だ。」
ラヴァナの血管の中にスペクテイターで血管の位置を把握し、血管内に小さな裂け目を発生させた。
「い、いやそうじゃないけどさぁ…。やけに今日は私に優しくない?いつもだったらあんた自身を犠牲にしてまで助けてくれるなんてこと中々無かったと思うんだけど……」
「そんな気にすることか?別に変じゃないだろ。大切な仲間だから自分の身を呈すのは当然だ。」
なんともアニメとかでしか聞かない、ありがちな臭い発言をネヴァは放つ。
この時、ラヴァナに魔が差す。
「…ふーん…ホントにー?あんたが躊躇なく服を脱がしてたり、ベッドの部屋までお姫様抱っこしてたりしてたけど……私を別の意味で襲うのかと思ったわよ?」
その言葉を聞いた途端に性への耐性の低いネヴァは顔を赤らめた。
「えっ、あっ、い、いやそそんな訳ないでしょ…!なんてこと言うの!もしラルバが脳繋げてたらどうするのよ!」
めちゃくちゃ動揺してしまい口調が変わった。
この時ラヴァナはネヴァの反応を見て、いじろうとするスイッチが入ってしまった。こうなったら中々止められることは出来ない。
「なら良かったわ。男にモテなさすぎてついには、しびれを切らして私とくっつこうとしてるのかと思ったわよ?」
「…あ?」
(来た来た来たーーー!)
いつも通りの反応を見せ、いつもの可愛く、面白い反応が見れる準備は整った。
「ラヴァナお前〜〜〜!!」
そうしてラヴァナはネヴァが怒るのを身構えていて心をワクワクさせた。
(………あれ?)
だが、暫く経ってもラヴァナが怒ったりすることは無く、寧ろ美しい笑顔を見せた。
その笑顔は純粋で誰にも掻き消すことの出来ない特別なものだと思った。
「お前はいつまで経ってもどうしようもない奴だ。私なんかをからかって面白がるような幼稚なやつだ。背も低いし素振りもガキっぽいしな。」
今の発言にラヴァナはムッとした。
確かに何度もいじるのは幼稚かもしれないが、人と接する時はなるべく大人に対応することくらいだってできるのに。
「わ、私は大人だし!少しはどうしようもあるわよ!少なくともあんたよりかは自己満全開で他人に迷惑掛けてないから!」
「まぁ…そうか。確かにな。すごい力の持ち主なのに、いつまで経ってもこんな迷惑かける奴の側にも着いて来てくれる良い奴がどうしようもあるって皆んなに見られるのは必然か……。」
その瞬間ラヴァナの貧血で青白かった顔が段々と赤く火照っているのが分かった。
「きゅ、きゅ、急に何よ!な、何で…今更、そ、そんなの……。」
「およ?ラヴァナどうしたんだよ。お顔が赤くなっておりますが?」
そう言うと更に顔が赤みを帯びていく。
「ち、違うわよ!ネ、ネ、ネヴァの血が巡ってるだけで…!そ、それよりも!早くマサルと叶夢とマガミを助けないと!ほら!行くよ!」
そうして、裂け目を発生させてこの部屋からそそくさと去っていった。
(……かっっわよ!!)
それから暫くの間、ラヴァナに仕返しが出来たことと、ラヴァナの可愛さに魅了されてニヤニヤしまくっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます