第7神話 謎の青年③
数秒経つと俺は椅子に座っていることに気がついた。辺りを見回すとそこはネヴァ達と対談していた洋風な部屋に戻ってきていた。
テーブルに置いてあった物はマガミの裂け目によって全て何処かへ飛ばされてしまっているためまっさらになり、キッチンの方を見るとネヴァの使っていたポットも無くなっていた。
(か、帰ってきた…!)
それを理解した途端に体が脱力してしまい、椅子にズルズルともたれかかった。
(はぁ…はぁ…これは暫く高い場所は無理だな。)
マガミに睨みつけられた時の冷や汗とは違い、変な汗が額を伝う。
(それよりもマサルは何処に行ったんだ。さっきマサルの声だけは聞こえたのに…。)
それでもマサルがこっちに来る気配は無い。
シンとした静かな空気だけが漂う。
(まさか…な。)
(どちらにせよマガミがいつ来るかは分からない。取り敢えず今はここに身を潜めとこう。)
「何て甘ったるい考えをするなよ?」
その声を聞いた瞬間に全身の毛はよだち、もの凄い悪寒に襲われた。
「なっ…!」
「な、…んで?」
後ろを振り向くとマガミがいた。
俺はあまりの恐怖で椅子から転げ落ち、立つことが出来なかった。
それでも逃げようと腕を使って後退りをしながら、掠れた声ながらも口を開いた。
「な、何で俺の場所を分かって…!!?」
マガミはジャッケットを脱いでおり、白の狼のイラストが入ったロングスリーブTシャツ一丁になっていた。
(その赤いのって…)
そして赤い液体のようなものが肩から太腿付近まで浴びていた。だがマガミには掠り傷一つも無い。
ということは間違いない返り血だ。誰のだ?まさかあの人達は……。
想像をしてしまい恐怖で吐き気を催した。
「ボクは空間をあやつれる。つまりはその空間内にあるものだったらなんでも把握、操作できる。例えば…」
その言葉と同時に俺は今まで生きてきて感じたことのない違和感に襲われた。
何かが…何かが俺から遠ざかった気がした。それは距離という意味ではなく、何かが俺の中から欠落した気がした。
「え?」
その原因は両足から来ていると思った。
自然と首が足元に動く。
何故か赤い液体がポタポタと垂れていた。
少し鉄臭く感じる匂いが鼻を突きつける。その瞬間に血だということが分かった。
「へ?」
そう俺の右足が切断されていたのだ。
見た瞬間は理解が追いつかず痛みというものは感じれない。
だが眺めていると徐々に体が理解していき、激痛が襲う。
「っあぁぁぁぁぁぁ!!!」
(痛い…!痛いぃぃ…!止血!何か……止血するもの!)
あまりの激痛により悲鳴を上げた。生温かい血が血溜まりとなり喉がやられているためやかんが沸いたときのような高い音が出た。呼吸使いも荒くなり、目の前の視界が涙でぼやける。
「こんな感じでひとつのくうかんの中にいる、オマエの体を空間ごと切断することができる。」
そう淡々と顔色一つも変えずにまた、見せつけるように床の地面を綺麗に切り取る。
俺は急いで地面を這いつくばりながらもこのサイコパスから逃亡しようと本能が運動神経に呼び掛ける。
(やばい!本当にやばい!こいつ首からとか頭とかの一撃で殺すんじゃなくて足からなのはきっと逃げないようにして、いたぶるからだ!何か!時間稼ぎを…!)
この期に及んでも俺は生き残る確率は無いに近しいのに、それでも知恵を働かせようとする人間の本能的な生に対する執着心はもの凄いものだ。
「ラ…ヴァナ達…は…!?」
俺はマガミに対して少しでも時間を稼ごうと話を振る。
「アイツら?あぁ、取り敢えずマサルはさっきお前を転移させた隙に底に叩きつけてやった。ラヴァナは崖の近くで今もねてるんじゃないかな?」
「…!?」
最悪だ。本当に俺の予想が当たっているとは思いもしなかった。しかも底に叩きつけられたって…
(こ…いつ!殺したのか!?)
「……ふたりとも地面に強く叩きつけてやったから打ちどころがわるかったら死んでるね。間違いなく。」
と、俺のこころの声を明らかに読んだような台詞を吐く。
聞いた途端に生命を脅かされている恐怖だけじゃなく、この人の持つ倫理観に恐怖を覚える。
あんなに親身に考えてくれた仲間を何故あんなに傷つけることができる?
(こ、このクソやろ……!!)
ネヴァに俺が死んだ所やラヴァナとマサルが傷ついているを見せたくない。こんな奴に殺されて自分を攻めてほしくない。
(どうにかしてこいつを何とか…何とか…)
そんなことを考えてもマガミは止まることはない。
「次はもう片方だ。おもいしれ…!」
激昂したマガミを見て、俺は熊や狼といった獣と遭遇した時なんて比にはならない。
この覇気に気圧されて俺は意識を保つことに限界が近かった。
朦朧とする意識の中で俺は激痛が来ることを覚悟しながら目を瞑った。
(………あれ?)
暫く経っても痛みが来ない。
そうして目を開けてみるとそこには後ろ姿を見せていた一人の青年がいた。
「オマエ…!」
マガミが予想外だったのか驚きの表情を見せた。そして俺の方に向けて振り返り、
「大丈夫か、人間?締められた魚みたいな目をしているが?」
涙でぼやけて見えない。一体誰だ?
「お前…なんでココに!?」
「お前を躾ける為にここに来た。流石に今回は見逃してはいけないだろ?」
そうしてマガミを睨みつける。それと同時にマガミは一歩だけ後退りをした。
「どうした肉食動物?高貴な種族はガンガン攻め込むんだろ?退くことを知らないんだろ?前そう言ってたよな?まさかしょうもない嘘を吐くような低俗な種族って訳……ないよなぁ?」
マガミを挑発し、軽蔑するような顔で見つめる。これはマガミのプライドが黙ってはいない。
「ウゥアルァァァァァァァァァ!!!」
予想通りにマガミも雄叫びを上げて、今にも二人の闘いの火蓋が切られる寸前だった。
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