第7神話   謎の青年②

数秒経つと綺麗な空間から開けた世界が広がり、そこは特に何の変哲のない岩肌があった。




「おおっと、開いたけどおぉぉぉぉ!!?」




 自身が浮遊感を急に感じて下を見てみると、そこは先程マガミが創った崖に落ちている最中だった。

 もの凄いスピードで自由落下をしていることによって真っ暗闇に吸い込まれ、どんどんと光が届かなくなってくる。




「うわぁぁぁ!ほんっとに馬鹿だ!!俺何カッコつけてんだよ!その結果落下死って!!ダサすぎるだろ!!嫌だ!!誰か!!助けて〜〜〜!!」



俺の叫び声は虚しくもすぐに消え去り、自由落下は続く。いやーこれは不味い。どうしようか……


「そうやって叫ぶ割には涙の一つも見せない位余裕やないか。」


そういって裂け目からマサルがでてきた。うん、まぁこういう展開になるんだろうなーとは何となく思ってた。




 パリパリパリ!




「うおっ!」




 空間の裂け目の音とともに、マサルが飲み込まれてしまった。




「は?え、いやマサルさん?え、ちょっとマサルさん?マサルさん!?どこ行ったんですか!?」


突如、マサルは俺の目の前からいなくなっていた。この時俺はある最悪の事態に気付く。


(あの裂け目はまさかマガミか!?)


そうだ、確実に俺を殺すなら生き残らせるような障壁なんて取り除きたいに決まっている。

 今更自身のやったことに俺は後悔してしまった。

 

(あぁぁ本当に阿呆過ぎる!ラヴァナやマサルがいるから安心だと思ったのが迂闊だった!自分の言いたいことだけ言って調子こいて死ぬなんてあのキメラに知られたら……)




ーーえぇ…折角拾ってやろうとしたのに前世でも無様に死んで今世は粋がって死ぬのははっきり言うが、俺でも同情してやろう……。




(嫌だぁぁぁぁぁ!!!山田なんかに殺されて死ぬのだけでも思い返すだけでもトラウマなのに、あのキメラに同情されながら憐れに死ぬなんて精神崩壊だ!!頼む!!マサル!!!ラヴァナ!!!ネヴァ!!俺がそんな死に方をしたらあのキメラにだけは言うな!!言ったら本当にお前等をいつでも悍ましい目で見つめてやる!!って…)


「………」


 少しでも冷静になるためにふざけた懇願をしても、誰も来る気配は無い。

 そしてどんどんと勢いは増すばかりだ。今度こそ本当に焦り始めた。




(不味い!本当にこのままだと死ぬ!クッソあいつの憐れむ顔なんざゴキブリの糞見た方がましだ。何か…!何か…!生き延びれるようなものは…!)




 策を練ろうとするが、人生で一度も経験したことの無い長時間の落下と一寸先も見えない暗闇が恐怖を引き立てる所為で全くこの状況をどうにかできる策は全くといって思い浮かばなかった。


(どうする!どうする!?お、大声で叫んでみるか?)


 そう迷っている最中にも体は自由落下を続ける。


(…どちらにせよ無能力者の俺ができることなんて言ったら他人の力を借りて生き延びるしか道はない!)


 そう決断して空中でなんとか体を回転させて上を向いて、上まで響くように声が枯れるのを覚悟で叫んだ。




「ラヴァナさぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!マサルさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」




 今叫んだことによって喉は崩壊してしまった。


「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!!」


 かなり息を吸い込むことによって肺に負荷がかかったことで肺にかなりのダメージを受け、むせてしまった。

 これは暫くは咳との付き合いになるだろう。


(頼む……!!)


 淡い期待で一か八かに俺は賭ける。

 だがそれでも裂け目は現れなかった。


「う、嘘だろ…?」


 この時に俺の心はぽっきりと折れてしまった。

 悪い夢を見ているのかと思い、顔を叩いても頬を抓って目に映る風景は変わらなかった。


 ドガァァ…アァ…!


 絶望の縁にいると、上の方から明らかに何かを破壊するような音が反響して落下している俺の耳に入ってくる。


(…マガミ…?)


 ドガガァ…!!


 明らかに何か破壊する音が連続して聞こえる。

 恐らくはマガミが破壊をしている音だ。

 この時ふと俺は気づく。


(…そう言えばラヴァナは…?)


 今思えばラヴァナは1秒たりとも姿を見ていない。


(マサルも全く来る気配が無い……)

 

さっきまであんなに守ろうとしていたのに、急に来ないなんて……


(…さっきの音…まさか…?)


 俺は嫌な想像をしてしまった。そうでは無いことを願いたいが、

 マガミがラヴァナが落ちている俺の下へ来ないのも、マサルが何処かに転移されたのに未だにここの近くに来れてないのも辻褄が合ってしまう。

 というかこの時点で俺はもうこの説が確定だと思い込んで程に余裕がなくなってしまっていた。

 

(そ、そんな…)


どうしようもない力の前に俺は叩きのめされてしまい、悔しさと無気力が五分五分に感情を乗っ取った。

 その間にも暗く深い底へと体が吸い込まれていく。

 

(…もうそろそろ底に着くかな……)


 この状態が神の言っていた霊体なら死んだらどうなるのかは定かでは無いが、もうそんなことはどうでもいい。

 そうして俺は目を閉じ、大の字になって落ちる。




 パリパリ


 


 その音が聞こえた瞬間に俺は目を開けた。ガラスが少しずつ崩れていくような音。


(…裂け目の音…!?マサルか…!?)


 間違いなくあのラヴァナやマサルが作っていた裂け目の音だった。だが暗闇のため誰が出てきたのすらも分からない。

 その正体はもしかしたらマガミが殺しにきているのかもしれない。


(だけど…賭けないとここはヤバい…!)


 俺の中に希望というものが少し湧き上がってきた。だが今の俺には声を出すことすらも出来ない。クッソ無闇に叫ぼうとしたのが間違いだった。どうにかして伝える方法は……。


 いや待てよ。ここは渓谷だ。岩壁までの距離は暗くて分からないが、先程見た時はそんなに距離は無かった筈。だったらワンチャンスある!


 そうして俺は声の代わりに、空中で両手を使って全力で手を叩いた。




 パァン…!!




 音が反響して上の方まで響く。これで姿は見えなくても俺のある程度に位置は特定できる筈…。

 俺の乏しい脳味噌ではこれしか思い付かなかった。




(頼む…今度こそ…!)




 そう願っているとある声が聞こえた。


 


「叶夢!そこか!」




 マサルだ。マサルの声が聞こえた。反響してより鮮明に聞こえる。そして上を見上げると、遠くから光が此方を照らす。

 そちらの方へ目を向けると、空間の裂け目から光が照らされているのが分かった。   

 恐らく原理としてはどこかしらから取ってきた光を空間の裂け目を通してここに転移させたのだろう。 

 その光に向けて俺は手を大きく振る。




「そこやな!今裂け目を発動させる!」




 そうして俺はまた裂け目に包まれた。


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