第7神話   謎の青年①

「おっとこれはそろそろ不味いわね。叶夢、なるべく近くに居てね。じゃないと跡形も無くお陀仏しちゃうから。」




 それを聞いて、他人の癇癪で跡形もなく死ぬ自分を想像するだけでも最悪である。


 こんな死に方は俺は望んでいない。せめてあの天狗キメラに思い知らせてやる。この人達がキメラとどんな関係かは詳細には分からないが、俺の力だけで倒してやる。


 そんな野望を抱いている最中に突然マガミが俺の方に視線を向けた。


 その視線を向けられた瞬間に冷や汗と鳥肌が全身を覆った。

 それは人間や動物と言った言葉で表せるような生半可なものでは無く、得体の知れないものに睨まれているようだ。


「オイ…オマエ。」


 その声は先程の弱々しい声では無く、静かながらも迫力のある声だった。まさに俺のあの夢に出てくる男の声と似ている。背筋がどんどんと冷や汗で冷たくなっていく。




「…オマエも邪魔するのか?」




「は?なんで……。」




 俺はこの時あるやらかしに気付いた。心の声を聞かないという制約をしていなかった。

 マガミの前であのキメラを倒すなどという、マガミにとって喧嘩を売るようなことを思ってしまった。思わず俺は口元に両手を覆うように被せた。




(ま、まずい!!もしや今の言葉は逆鱗に触れるようなことだったか!?)




 そんなことを思っている最中にラヴァナが俺の前に飛び出した。




「マガミ!この子だってラルバ達がああやって神を煽りながら一方的にボコボコにするようなシーン見せられたら、許せないと思うところだってあるでしょ!それを分かち合うためにネヴァが話し合いの場を設けているんじゃない!!」




「そうや!一旦お前もこいつと真摯に向き合って話してみたらどうや!そうしたら見方もかなり変わる筈や!何でそうやって叶夢にまで当たるんや!!」


(……!)


 ラヴァナとマサルは俺のことを思ってか俺の過去を言い当てるかのように、的確なフォローをしてくれた。

 今までこうしたフォローすら貰えたことのない俺にとっては感動してしまい、少し嬉しくなった。




「…オマエ達まで神々みたいなまねをするのか?」




「「……っ!!」」




 マサルとラヴァナですらマガミの威圧に気圧されてしまっていた。

 ありとあらゆる物に当たり散らかすその姿は滑稽でしかない。

 本当にラヴァナやマサルは大変だと改めて認識した。この調子で付き合う側なんて身なんて絶対に持たない。それにしてもなんて自己中な奴だ。


 悪気は無いのかもしれないが、ここまで支えてくれている二人に手をだすのはいくら何でも酷すぎる。


 そう心の中で唱えた時、マガミの殺意が一段階上がった。その殺意を肌身で感じ、また大量の冷や汗と鳥肌が出てきた。




「……なんだと?」




 俺はまた無意識の内に心の中で唱えてしまったことに気付き、今度は口では無く片手で顔を覆うように隠し、自分の阿呆さに呆れてしまった。




「や、やばいで!もうあいつ本当に殺しにかかってくる!!もうこうなったら本当に力ずくしか無いで!!」




「バ、バカ!何心の中で言ったのよ!そんな火に油を注ぐようなこと…!」




 お二人とも申し訳ない。特にこれと言った特徴も無い世界で生きてきた俺にとっては他人の心を読まれないようにするなんていう高等テクニックは身に付けてないもんで。




「おい、なんて言ったか答えろ。」




 ここまで来てしまうともう言い逃れは出来ないし言い逃れが出来たとしてもまたヒステリックが起こって終わりだ。そうして俺は覚悟を決めてマガミに対して口を開いた。




「はっきり言わせてもらいますがマガミさん。俺は事実を言っただけだけだ。」


 すると無言でマガミの威圧感が上がる。

 気圧されそうだったが、自分の中での道徳観を盾に発現を続ける。


「あなたがヒステリックが辛いのは分かりました。でもだからってラヴァナさん達を責め立てるのは違うでしょう?」


「……それがなんだ?何が自己中だっていうんだ?」


「自分の感情をどうにもすることが出来ないことを利用して、色んなことに当たり散らかして迷惑を掛ける。折角穏便にしようとする二人の気持ちを無視してまで自分の感情を最優先させる。だから自己中で滑稽だと言っているんです。」




 もう言い逃れをすることを出来ないことを良いことに、俺は迷うことなくマガミに向けて言い放った。




「ルアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」




「うわぁっ!!」




「ぐっ…!」




「うっ…!」




 俺は一切の躊躇も無く言い聞かせた。言い放った後には不思議と恐怖に打ち勝ってでも本心を相手にぶつけることが出来たからか、いつの間にか鳥肌と冷や汗は収まっていた。寧ろスッキリした。


 それと同時にマガミも最大限のストレスを得意の咆哮と裂け目を使って発散させる。

 先程のように部屋は音圧で揺れ、マサルやラヴァナのいた場所まで空間を操り、空間の裂け目を使って何処かへ飛ばした。


 無論俺も同じようにガラスのようなきらびやかな空間が目の前を覆った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る