第6神話 一匹狼③
僅か1秒くらいだろうか。足が地面についている感触がある。
そうして下を向くと、先程の木製の床とは違い、赤と黒の四角のタイルが交互に置かれている。何処かへ飛ばされたらしい。
辺りを見回すと椅子や家具のようなもの見当たらない。寧ろ構造物という概念が無いのかと思うぐらい、平地だった。
だがその中で4つの後ろ姿だけが目に焼き付く。
その姿はさっきの3人だと一目見て分かったがその奥に一人座り込み、顔を伏せている姿が一つあり、周りには空間の裂け目が出現している。
顔は見えていないが灰色の髪に、マサルと同じくらいの体格である。
恐らくは同い年くらいか?服は暖かそうな褐色のジャケットに、下には白色のスウェットパンツを履いている。なんともシンプルな格好だ。
「あの………マガミ?大丈夫…?」
「…………」
顔を伏せたままラヴァナの問いかけに対して応じる素振りすら見せない。
「…おいマガミ。ラヴァナが聞いているだろう?少しは付き合ってやっても良いんじゃないか?私達もあの裂け目には驚いたが、本当はそんなことをしたく無いのは重々承知だ。だからそう気にするな。」
ラヴァナの応答に応じるように促すように口調も優しめで近くに寄り添い、ヒステリックを再発させないようにしている。
他人との寄り添い方と言い、先程の場のまとめ方と言いリーダーシップのステータスの値が高いことを認識させられた。
そしてそのままネヴァの手がマガミの肩に置かれようとしたのだが…
「っ……!いちいちウザいんだよ!優しく寄り添ったところでお前に何が出来んだよ!」
ドゴォ!!!
「うあっ!!!」
「ネヴァさん!!」
それでもネヴァの声は響かなかったようで、拳をネヴァに振るい大きく後ろへ吹き飛ばした。
「くうっ!」
吹き飛ばされた先に裂け目を発生させ、俺たちの近くに瞬間移動をした。
「ネヴァ大丈夫!?」「大丈夫ですか!?」
そう言って俺とラヴァナはネヴァの近くに駆け寄った。
「あぁ、大丈夫だが…。多分あいつは……」
そう言ってマサルに視線を向けた。
そのネヴァの行動に俺もなんとなく察することが出来た。
マサルの性格を一言で表すなら、曲がったことが嫌いな正義感の強い性格という印象だ。
そんな人がネヴァという関係の深い人たちに手を上げたことを考えると例え仲間だとしてもそう簡単には許すとは考え難い。
「〜〜〜!マガミ!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、マサルがマガミに対して声を荒げた。
「マサル!落ち着け!こいつだって……「そんなん分かっとるわ。」」
マガミもついにはネヴァの声に耳を傾けなくなった。もうこの先からは嫌な予感しかしない。
「おい!マガミ!」
そしてマガミの意識を向け、聞こえるように名を呼ぶ。
「流石に情緒不安定だという理由があったとしても我慢の限界や!お前はこいつらに対してなんとも思わんのか!?」
「……」
それでもまだ無言を貫いている。
「ま、マサル!やめろ!」
ネヴァがそうやって止めようとするがもちろん聞く耳をマサルは持たなかった。
「こいつらは!お前に危害を加えられそうになったのに、それでもお前を心配して来てここに立っているんだぞ!こいつらの善意を踏み躙るようなことをしてまで!そこまでしてこいつらを無下にしたいのか!?」
「……!うるっせえええええええぇぇぇぇ!!!!」
「うっ!」
「きゃ!」
「うっ……るさい…!」
マガミが人間では到底出せない程の怒号を上げた。マサルのそれは空気が震えるだけでなく、部屋まで少し揺れている。
それと同時に耳を塞いだ。3人も同じように耳を塞ぐ。それでも音は貫通してしまい凄まじい威圧と音圧に気圧されて数歩だけ後退りした。
暫くするとマガミの気持ちが少し落ち着いたのか声量も小さくなり部屋の振動が収まっていくのに連れて安堵し、足から崩れ落ちかけたがなんとか足の筋肉に司令をだして踏み留まった。
ラヴァナやネヴァは呆然としてマガミの方を見ていた。
「……!!」
ただその中でマサルはマガミの方に向かって歩きだしていた。
その顔は険しい顔で覆われている。
(マサルさ……!?)
マガミに何か言おうとして近づいた時、咄嗟に俺はあることに気がついた。
「マサルさん!足元!!」
「っ!?」
そこには自分達4人とマガミを分けるかのように、床が断裂している。
幅は約十数メートルほど。
底は深すぎて、暗く飲み込まれそうな程にドス黒い。
マガミの方に目をやると自分の行動に臆してしまったのか、困惑の表情を浮かべ、手をワナワナと震わせている。
「あ…いや……あ……」
(まずい!このままだとまた……!)
このとき、ネヴァは気づいていた。マガミの感情はもう歯止めが効かなくなっている。
マガミが感情を爆発させることはこれまでにもあったが、ここまでの暴走をして能力を無闇やたらに能力を振り回すことは無かった。
(な、何かいい方法は……)
この異例の事態にネヴァはリーダーとして今はどうするべきなのかが分からなくなり、パニックになりかけてしまっている。
間違いなくこの状況は私達だけじゃ無理だ。
だが今はウラさん達が外の方で戦っている。
(……誰か……あ。)
「そうだ!あいつを呼べば!半分の体だけでも来れるはずだ!」
そうしてあることを閃いた。
「ネヴァあいつって……あぁ!確かに!」
ラヴァナも意思を読み取り、合点がいった様子だった。
「でもあいつ来るかなぁ。さっきまで神と戦ってたし、疲労もあると思うけど……まぁ被害を最小限に防ぐならこれしか無いか。」
「ラヴァナは叶夢を護っててくれ!すぐに帰ってくる!」
「OK、待ってる。」
そう言って、裂け目を開き、彼がいるであろう場所へと移動した。一か八かだがここは賭けに出るしか無い!そう思い猛スピードで元へ向かった。
「ちょ、ネヴァさん!?どこにいくんですか!?」
能力が使えないのに俺は不思議とネヴァの後を追うよう向かおうとしたが、ラヴァナに腕を掴まれて引き止められた。
「安心しなさい。来るまで待っときましょう。いくら自分が可愛いと思うオンリーワンアバズレでも他人の力を借りるっていう脳位はあるわよ。」
また唐突な悪口を言いながらも、彼女の作った裂け目を見ながらもその目には希望が込められたような美しい瞳が輝いていた。
「一体誰の助けを?」
「あら。あなた以外とこういうところは鈍感なのね。」
「……?」
……まぁ、そう言うってことは俺でも想像すれば分かるということなんだろう。俺が考えている様子を見て、ネヴァは口を開く。
「うーん。まぁ強いていうなら……神の子かしらね?」
ラヴァナの顔は嬉しそうで、どこか誇らしげで、顔面全体が希望で満ちているほど輝かしく感じてしまった。
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