第6神話   一匹狼②

ーー数分後


 冷静になろうとしても思い返してしまい、恥ずかしさが勝つ。

 もしかしたら心を読んでいる可能性がまだあると思い、3人に焦って目を向ける。

 

「分かった分かった……読まないようにする。」



 ネヴァが俺の意見を汲み取る。それに伴ってマサルとネヴァも頷く。

 とりあえずは配慮してくれたようで良かった。

 一旦コーヒーを半分くらいまで飲んでカフェインで気持ちを落ち着かせた。


「じゃあ次は君だな。自己紹介を頼む。」


「あ、は、はい!」


 思い返していた時に急なノイズが入ったことで、焦っておぼついてしまった。


「僕の名前は伊織 叶夢いおり とむです。よ、よろしくお願いします!」


「そうか、じゃあ……えっと、何て呼べば良い?」


「基本なんでも良いですが、叶夢のほうが呼びやすいでしょう。名前呼びで良いですよ。」


「そうか…。じゃあ叶夢よ。君をここでの生活の新たな一員として歓迎する。」


「………はい?」


 何を言っている?この人は?生活の一員だ?


「…その反応になるのは仕方ないと思うが、取り敢えずまずは最後まで聞いてほしい。」


 そうネヴァは言うが、急な勧誘に驚かずにはいられない。そもそもどこかも分からない場所に来ては出会ってすぐの人達に歓迎され、共同生活を強いられても……

 俺はただ困惑することしか出来なかった。


「この話は君をまた混乱させてしまうかもしれないが、落ち着いて聞いてくれ。」


 何故か俺はその言葉に固唾を飲みながらも、心を落ち着かせて聞こうとする。


「まず、ここはさっき君がじげんの神と居た世界とはまた違う場所だ。この空間を作ったのはラルバとくうかんの神が新しく作った空間。ここに君を連れてきた。」


「………は?」


 ものすごい情報量でただ疑問符が浮かぶだけだった。キメラ達が作った空間?ここが?


「えっと…ネヴァンさん?どういうことか全く理解できないんですけど……。」


「いきなり理解しろと言われても無理は無い。私もここに来た時は訳が分からなかったからな。ここに居る二人だってそうだ。」


 二人も頷きながらも、思い出に浸っている顔をしながら口を開いた。


「いやーあの時はあいつらが俺達に急に『神の力を手に入れるための俺達だけの基地だ!』なんて言ってな。」


「いやーあいつらって謎の魅力の不可抗力があるのよね〜。」


 勝手に話が進んでいる。今日だけで何回目なのだろう。大量の情報量について行けない。


(ほんとになんなんだ…この人た……)

 

 ドゴォオオオ…ン!


 情報量でいっぱいになっている頭に耳から、突如大きな音が脳内に入ってきて大量の情報を掻き消した。

 こちらまで地響きがしている。

 

「な、さっきから何だ!?一体何が…!?」


 現実世界では自然災害でしか聞かないような音がこちらまで聞こえ、揺れる。

 この時連続して起こる不可思議な事象によって冷静さを欠いてしまった。


「…あいつ、本当に飲んだのか?薬。本当に酷くないか?」


 ネヴァがあいつと言っているのはマガミという人物のことだろう。流石に特例のようで3人共ざわついている。


「感情が爆発したことなら何回かあるけど……今回は行き過ぎてるわね。」


「しかも自分の種族を馬鹿にされたなんていう、あれしきのことで怒ることなんて無かった筈や。なのになんで…」


 ーーあれしきってなんだ!?当たり前だろ!僕はあいつをラルバとウラさんが神降ろしをすると言っても、あいつの無礼を流石に許容しきれないんだよ!だから半殺しにする方法を今考えてるんだ!


「うわぁっ!!」


 突如として怒気が混じった声が聞こえる。目の前に居るわけでもないのに、覇気がテレパスを通じて飛んでくる。俺はそれに思わず驚いて叫んでしまった。

 またもやこれは全員に聞こえていたようで、それに対してラヴァナが強い口調で言い返す。


「…ちょ、ちょっと!いい加減にあの神のことは忘れなさい!いくらなんでも執着しすぎよ!落ち着きなさい!」


 ーー適当に小馬鹿にする奴が僕は一番嫌いなんだよ!特に僕だけの悪口ならまだしも、僕たち肉食動物全員だけじゃなく!ラルバやウラさんを馬鹿にした!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!思い返すだけでもむしゃくしゃするぅあああぁぁぁぁ!!!


「うわっ!」


 激昂した声に驚き、それとともに空間に多数の裂け目を発生させ、それと同時に部屋の中にある花瓶や皿が何処かへ転移されて部屋は更に酷く荒れて、騒然としていた。


「ちょ、ちょっとマガミ!何してんの!?そんなに能力を使ったら…!」


「おい!そんなに暴れるな!もし叶夢が他の空間に転移させたらどうする!」


 二人の声にも目もくれず、ひたすらに裂け目を発生させている。これは俗に言うヒステリック症状というものだろう。


「あいつ!目を瞑ってきたが流石にこれはやりすぎや!今度こそ何とか説得して連れてくるしか無い!」


 そう言ってマサルはあのキメラや神と同じような裂け目を作り、マガミという人の元へと移動した。


「このままじゃこの場所が…!なんとかしないと…!」


 マサルに続き、ラヴァナもマサルの後を追うように空間に裂け目を作って移動した。さて、残るのは俺とネヴァだけになってしまった。


「叶夢!私達も行くぞ!ここに居たらどこに飛ばされるかも分からないから取り敢えず他の場所へ移動する!」


「は、はい!」


 返事とともににネヴァが裂け目を発生させて、ガラスのようなきらびやかな空間に俺は飲み込まれた。



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