第9話

 五日後。俺は店長の自宅アパートで新たな根拠となるものを見つける。


 それは七海が付けていたシュシュだった。お気に入りだったみたいで、「職場で失くした」と言っていたことを覚えている。職場で失くしたものが、なぜここにあるのか。男がシュシュを持っていてもおかしいとまでは言わないが、少なくとも彼は短髪だし、これを腕に付けて外出することもないだろう。


 更に俺は七海の私物と思われるいくつかの物品を探し当てた。

 ボールペンやハンカチ、小さめの水筒等、それらは紛れもなく七海が使用していたものだろう。


 俺にはわかる。なぜなら全て俺が七海に買ってあげたものだからだ。彼女は物とお金を大事にするので、自分では余程必要な時以外はなにかを買い替えることはない。なので、俺は彼女の必要な物があれば全て買い与えてきた。それは、父子家庭だからといって見窄みすぼらしい思いをさせたくないという親心でもあり、彼女自身が稼いだお金は彼女の将来に使ってほしいからという思いでもあって、できる限り身の回りの物は充実させてきた。


 彼女が恥を掻かないようにと何件も店を渡り歩いて買ったものばかりで、七海はいつも「ありがとう」と嬉しそうに受け取ってくれた。


 それを……それをこいつは……。

 深呼吸をする。しかし、だからといって落ち着けるわけがなかった。

 怒りはとっくに限界値まで達し、敵意から害意へ、害意から殺意へと変貌していく。


 そう。俺は彼に服役なんて望んでいない。刑務所に収監されることなんて望んでいないのだ。改心するかどうかなんて関係ない。加害者の人生なんて知ったことか。俺は俺のやりたいようにやる。


 無関係の第三者は訳知り顔でこう言うだろう。


「それでは彼と同じではないか」

「そんなこと娘さんは望んでいない」


 知ったことか。彼と同じ? 被害者は七海だ。奴は加害者であって、当然七海と同じ目に合うべき理由があるのだ。


 それに、お前らが七海の何を知っていると言うんだ。

 法治国家である以上、法の裁きを受けるのが当然で、しかしその裁きとやらは加害者に更生を促すだけで、被害者やその遺族は蔑ろでしかない。


 殺人犯が改心したからなんだと言うのだ。それこそ知ったことか、という話だ。どれだけ善行を積もうと、どれだけ命を救おうと、自らの意志で他人を殺害した事実は消えないし、被害者遺族は永遠に憎しみの炎を消せずに苦しみ続けるしかないのだ。


 だから俺は実行する。奴を七海と同じ目に遭わせてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る