第18話 上位ハンター試験(2)
戦いの余韻の中、息を整える。こんな充足感は久々だ。俺が今までやってきたことが間違いではなかったと思える。ハンターギルド、上位ハンター認定試験。まだ一次試験を突破しただけだが嬉しくてたまらない。
試験官のルーズベルトさんと握手を交わしてギルドへ戻る。
俺の戦いを見届けてくれたパンダの職員さんはボソリと言った。
「コッペ」
「はい?」
「俺の名前だ。……せいぜい気を抜くなよ」
「はい! 二次試験もお願いします! コッペさん!」
ドアを開けてギルドへ戻った。ギルド内で順番を待っている受験者たちは結果はわかっているというような目をしている。
「今日2人目の通過者だ。ナナセ、二階の部屋にいけ」
「はい、わかりました」
ギルド内は唖然としている。俺が通過するとは思っていなかったのだろう。まずは第一歩。力を示せば認めてくれる人がいる。結果を出せば一人前だと認識してくれるんだ。ボルボさんは毛むくじゃらな腕を上げ、親指を立ててニヤリと笑った。俺も親指を立てる。待ってますよ、ボルボさん。
ハンターギルドの二階。一次試験通過者が待機する部屋には鬼人族の男が一人。壁に背を預けて剣を抱いている。俺には一切関心がないようで目をつぶっていた。
受験者はまだまだいる。何人がこの部屋にやってくるのだろうか。
しばらく待っていると、兎の姿をした人物が入室してきた。タキシードのような服を着てステッキを持っている。
「どうもお二人様。私は兎人族の魔法使いクインシーです。お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。俺はナナセです。一応魔法使いです」
クインシーさんは見た目はまんま二足歩行の兎で、外見では性別がわからなかった。声の感じからすると女性のようだ。可愛らしい声をしている。
鬼人族の剣士は意に介さず目を閉じたまま。誰とも馴れ合う気はないらしい。
クインシーさんは仕方ないと言うように肩をすくめ、俺の隣に座った。
「私は大剣使いのダルタニアン様とお手合わせ願いました。どうにか搦手で一撃与えましたが……Aランクのハンター様は底が見えませんね。ナナセ様はどなたと?」
「俺は大盾のルーズベルトさんと戦いました。ルーズベルトさんもすごかったですよ。隙がまったくなくて動きを全部見透かされてる感じで」
「お互い一次試験を通過できてよかったですね。ナナセ様はなぜハンターに?」
なぜハンターになるのか。あんまり考えてなかったな。単純に気になったからきてみてちょうど上位ハンター認定試験があるというから参加したくらいで。
「あんまり深い理由はないですけど、実績が欲しいんです。俺が持っている力の証明があれば、誰かに認めてもらえるかもって」
「ナナセ様は人間種ですから蔑視されることも多いでしょう。私のような兎人族もお強い種族の方からは蔑んだ目で見られてしまいます。お気持ちはよくわかりますよ」
「クインシーさんはどうしてハンターに?」
「私は……冒険がしたいのです!」
弾んだ声で言う。満開の笑顔で彼女は夢を語りだした。
「まだ見ぬ街、まだ見ぬ世界! この世界は私の足では到底歩ききれないほど広く、知らないモノで溢れているはずなんです。兎人族は非力で、長命でもありません。短い生涯の中で、一つでも多くの心弾むモノを見つけたいんです!」
「素敵な夢ですね。未知の探求ですか。お互い上位ハンターになれたらいいですね」
「はい! 頑張りましょう!」
待合室。静寂の中時折建物が揺れる。どんな戦いが行われているのだろう。ルーズベルトさんの魔法はすごかったが、他の人の魔法も見たかったな。新しい魔法のヒントになるかもしれないし。
鬼人族の剣士、俺、兎人族の魔法使いクインシーさん。三人だけの空間に新たに加わったのはカマキリの姿をした人だった。昆虫系の種族は初めて見たな。
「私はクインシーと申します!」
「これはどうも、僕はカーペイン。僕で四人ですか」
「はい。私と、こちらのナナセ様、あちらの鬼人族様で全員です」
カマキリの男性は鎌で頬をかきながら座る。
「いやー僕結構自信あったんだけどなぁ。辛勝って感じでね。いや勝ててはないんだけどさ」
「カーペイン様はどなたと? 私はダルタニアン様とでした」
「僕はルーズベルトって人とね。守りが硬くってさ、捨て身でどうにか先っちょだけかすり当たりで合格になったんだ。しょーじき不甲斐ないよー」
試験官はすでに数十人の受験者と戦っているだろうに、まったく体力が衰えていないようだ。すでに俺がこの部屋に入ってから一時間は経っている。
「大盾の方ですか。ナナセ様とお揃いですね」
「え、人間種の君があの人に一撃入れたの? どうやったのさ?」
「俺は体術でどうにか隙を見て、雷魔法でって感じですけど……」
「へぇー驚くなぁ。君が合格した時は目を疑ったよ。人間種が合格するなんてどんなずるをしたのかってね」
「カーペイン様! その言い方はあんまりですよ!」
人間種は最弱種族である。この世界にきてから痛いほど自覚させられた俺だが、今となっては特に気にしていない。あからさまにバカにされても動じることは少なくなった。
「いいんですよ。今まで色んな人にバカにされすぎて挨拶みたいなモノだと思ってますから。カーペインさんも気にしないでください」
意外にもカーペインさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「確かにクインシーちゃんの言う通りだ。ごめん。無意識に君を蔑んでいた」
「お、怒ってませんから大丈夫です!」
「君みたいな人間種は初めてみたんだ。これからは同業者になるかもしれないし、仲良くしてくれたら嬉しいな」
「えぇぜひ。ハンターって協力することも必要でしょうし」
クインシーさんは仲直りした俺たちをニコニコした顔で見つめていた。
次に入ってきたのは蜥蜴人族の男。魔法使いのようだが多くは語らず鬼人族の剣士と同じように部屋の隅に座りただ時間が過ぎるのを待っている様子。
その次に入ってきたのは鮫の魚人。鮫の男は三又の槍を持っていた。仲良く話す俺たちをバカにしたように鼻で笑うと離れた場所に座った。
そのすぐ後に入ってきたのはまた鮫の魚人だった。姿が瓜二つ。
「へへにいちゃん! おいらも痛いのかましてやったぜ!」
「よくやったベリッツ! さすが俺様の弟よ」
「見ろよにいちゃん、弱そうなやつらが仲良ししてらぁ。これから蹴落としあう敵だってのによぉ」
「こんなしょうもない連中と同じ部屋にいなきゃいけないなんてヘドが出るな」
なんとも嫌な感じのやつらだ。昆虫人のカーペインが顔を寄せ耳打ちする。
「ああいう品性がないやつも合格しちゃうなんて嫌だね。次の試験で落ちてくれるといいんだけど」
「そうですね……」
「試験官様はちゃんと見ていますからっ、上位ハンターに相応しい心を持った方のみ選別してくださると信じています」
完全な実力主義な選定ならあぁいうゴロつきのような手合いも上位ハンターになってしまうんだろうな。二次試験でここからまた人数が減ってしまうかもしれないし、クインシーさんとカーペインさんには残って欲しいな。気楽に会話できる異種族の存在は俺にとってすごく貴重だ。今後も仲良くしていきたい。
「ボルボさんはどうなったんだろ……」
「どなた様ですか? そのボルボ様というのは?」
「ゴリラ……猿人? の人だよ。黒い毛並みで腕がとっても太い。俺の友達って言っていいのかわからないけど、ギルドでバカにされてた俺を庇って励ましてくれたかっこいい人なんだ。受かってくれるといいんだけど……」
「そろそろ終わりそうですものね。ボルボ様にもお会いしたいです」
本当に大丈夫かな? ボルボさんはかなり強そうだったし、俺は合格すると信じているけどここからじゃ確認できない。この部屋の扉を開けて入ってくることを祈ることしかできないし。
この部屋にいるのは俺を含めて七人。ギルドの広間には百人近い受験者がいた。合格率は一割を切っていそうだ。上位ハンターってのは狭き門なんだな。
「あーい待たせたなぁー」
試験官であるパンダ族のコッペさんが部屋に入ってきた。これで一次試験は終わりってことなのか? 今部屋にいるのは七人。ボルボさんは……。
「うっすナナセ! きたぜ」
ずんぐりしたコッペさんの影から現れたのは逞しい腕のゴリラだった。
俺を見て親指を立てている。
「ボルボさん! 受かったんですね!」
「俺が一番最後だってんで待ちくたびれたぜ」
よかった、本当によかった。
ボルボさんが一番最後だったのか。これで心置きなく二次試験に臨める。
「ここにいるお前さんたち八人は上位ハンター認定試験の二次試験に進む権利を手に入れた。待ちくたびれただろうからさっさと次に行くぞー。お前さんたち全員ギルド前に停まってる馬車に乗れ。質問は受け付けないからな」
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