第13話 千年京の危機(9)

「う、宴じゃ〜!!」


 陽が昇りきった千年京。広場にはたくさんの人が集まっている。

 農家の人も大工の人もジョッキを掲げお祭り騒ぎだ。

 千年京一世一代の大勝負を終えて人々は安堵の笑みを浮かべている。


 ぶっつけ本番な作戦だったけど上手くいって本当によかった。幸いなことに死傷者はゼロ。遠距離攻撃を徹底したのが功を奏したのだろう。俺自身も傷はない。オークキングに一発もらってしまったが、回復魔法で綺麗に治ったし。俺たちが失ったモノは何一つない。逆にたくさんのことを得られたと思う。


 楽器を持ち寄り即席の楽団までできており、楽しげな音色が響いている。

 屋台がゾロゾロと集まり食欲をそそる匂いが漂う。


「今日はお祭りだよ〜! ただで持っていきな!」


 驚くことに出店は無料。お酒も各商会が持ち寄り無料で飲み放題だ。


「ガハハ! こんなに酒が美味い日はないわい、ナナセも飲むんじゃ!」

「わかったわかった……」


 無理やり渡されたジョッキをちびちびと飲む。

 嬉しいという気持ちはもちろんあるが、いまいちノリきれない俺がいる。この世界は危険で溢れている。魔王軍という強大な勢力が大陸を支配しようとしているんだ。

 楽しげに踊る人々。今を喜ぶ時間も大切だとは思う。思うけど、俺の心はこれから先のことを考えてしまっている。


「なんだい、大手柄をあげたってのに浮かない顔だね。あんたがこの宴の主役なんだけどねぇ」

「いえ、楽しんでますよ。こういうの初めてなんで」


 ビッグマムは見たこともないデカさのジョッキを一口で飲み干した。

 

「千年京はまだ小さな都だよ。けど、やっと自分たちが住む場所を自分たちで守っていこうって思えるようになったのさ。誰かさんのおかげでね」


 大きな手で背中を叩かれる。内臓が飛び出るくらいの衝撃だった。オークキングの一撃より重いかもしれない。


「一級品の肉を振る舞うのはこれが最初で最後だよ。全品無料の早い者勝ちさ。早く行かないとうちのバカ息子が全部食っちまうよ」

「そうですね。俺も行ってきます」

「もがもが……ナナセ兄さん! こんなに上物の肉うちでもめったに食べられないよ! 早く早く!」


 リトルフランクくんは肉串をいっぱいに握りしめむしゃぶりついていた。

 


 宴がひとしきり盛り上がった頃。

 センビが手を叩きみんなの注目を集める。どうやら締めくくりに入るようだ。


「今回の戦果、大義であった。千年京の長い歴史の中でも、このような危機は初めてじゃった。しかし、みなで力を合わせ見事敵を打ち負かした。戦うという選択を取れるようになった千年京はもはや単なる都ではない。立派な国じゃ!」


 国とは大きく出たな。けど、これからのことを考えるなら身を寄せ合って暮らす都より、国家として基盤を作るべきじゃないかと思う。偉人会はあったが簡単な取り決めなどを話し合う程度だったみたいだし。ちゃんとした行政機関があって、国として運営できる形にするのは必要な過程だ。

 

「と、いうことでわっちの一存により、建国を宣言する!」


 センビの一存とはまた勝手だな。まぁセンビが一番偉いみたいだしいいのか。

 反対の意見はなく、酒が回っていることもあって民衆は盛り上がっている。千年京が国家になるのか。なんだかワクワクするな。


「よって、千年京初代国王を発表する! 初代国王は……」 

 

 センビは人差し指を天に向けて、振り下ろす。


「ナナセじゃ!!」


 ………………は?


 一斉に俺に視線が集まる。なにを言っているのか理解できない。

 人波が押し寄せもみくちゃにされている。


「うぉおおお! 坊主が国王だ! うぉおおお! 陛下! 陛下!」

「ナナセ兄さん! 違う、ナナセ兄さん国王陛下! バンザーイ!」

「ビッグマム商会をひいきに頼むよ、ナナセ陛下」

「い、いや、いやいやいや! おかしいだろ! 俺が国王って!」


 なにがどうなってるんだ!? 誰一人として疑問に思っていない!


「こんにちより、アカイナナセを初代国王に迎えて千年京は生まれ変わる! 宴じゃ! 国王誕生を祝って宴じゃ〜〜〜〜〜!」

「おい! お前宴がしたいだけだろ! 早く初代国王っての取り消せって! 酒の勢いじゃ済まない話だぞ!」


 誰も俺の話を聞いていない。酒を飲み歓声を上げている。


「バンザーイ! バンザーイ!」

「陛下! 国王陛下ー!」

「うぉおおお! 坊主! 一生ついて行くぜ!」


 俺が、千年京の、国王? おいおいおい……。


「なぁリシュルゥ、リシュルゥは酒飲んでないよな?」

「うん、飲んでないよ」


 きょとんとした顔で立っていたリシュルゥに助けを求める。リシュルゥは頭がよくて冷静なんだ。この場の熱に浮かされておかしな考えはしないはず!


「おかしいよな、俺が国王だってさ」

「うーん……」

 

 考え込むリシュルゥ。


「うん、おかしい」

「だよな! わかってくれると思ってたよ」

「せんせぇは皇帝の方が似合ってる」

「…………」


 俺はもう、ダメかもしれない。


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