第7話 千年京の危機(3)
「さすがわっちが見込んだ男じゃな!」
「いつ見込まれてたんだか」
妙なテンションでセンビに背中をバシバシと叩かれている。
偉人会での俺の発言を褒めているようだが、なんだか言わされたような。
やると言ったからにはやるしかない。あんな大勢の前で偵察してくると宣言してしまったのだ。これでなにも情報を掴めませんでしたじゃ笑い者だろう。
「西の森にオークがいるのは確実。どこに拠点を築こうとしてるのか突き止めなきゃな。無論一緒にやってもらうぞ、センビ」
「もちろんじゃ。ナナセがやると言わなかったならわっちが一人でやるつもりじゃったんじゃからのぅ」
「だったら自分で言えよ……めちゃくちゃ緊張した……」
「そうやって男は一丁前になっていくんじゃ。男を上げたのぅ」
からかって肘で俺を小突くセンビ。俺は疲れがどっときてため息を吐いた。
偉人会の会場になっていたビッグマム商会の商談室には、俺とセンビのみ。みんな今後に備えるため行動している。
「なぁ、オークってどのくらい強いんだ?」
「そうじゃな、はぐれのオーク一体ならば力自慢の人間種が十人もおれば倒せるじゃろうな。わっちなら一人で相手どれるがな!」
「人間種の十倍強いってところか。厳しいな……」
もしオークの本隊がやってきて、全面戦争になったなら勝ち目はないだろう。
種族としての力の差が歴然すぎる。戦うにしても策が必要だな。
「オークだって水を飲むだろ? 毒を盛るってのはどうだ?」
「うーむ、それは無理じゃな。オークは意外と鼻が利くんじゃ。食い物の良し悪しには敏感だからの、無味無臭の毒を用意できれば可能かもしれんが、そういった知識を持った学者は千年京にはおらんな」
肉体には圧倒的な差がある。搦手で戦うしかないように思うが、いい案がない。
「そっか。仮に偵察をして情報を揃えても、実際とれる手段てのは少なく思える。男衆が総出で訓練して武装しても、付け焼き刃程度だろうし。千年京の周辺に都市ってどのくらいあるんだ?」
「東南の方に漁港都市があるくらいじゃな。他は山をいくつか越えた先にしかない。数日でたどり着ける都市はないのう」
「援軍ってのは期待しない方がいいみたいだな。勇者軍は……確か北の方に向かってたような」
「大陸の北部が前線じゃからな。大体の勇者軍は北部におる。しかし大陸は横に広いからのぅ、どこかが魔王軍に食い破られたならば、芋づる式に崩壊していくかもしれん」
「勇者軍は勇者軍で大変なんだな。ま、俺たちは魔王軍よりオークをどうにかしなきゃいけないわけだが。偵察はどうする?」
「わっちらはいつでも大丈夫じゃが、千年京のみなはまだなんの準備もできておらん。わっちらが下手をこいて都に攻め込まれでもしたら大変じゃ」
俺とセンビは転移魔法でどうにかなるけど、変に刺激してオークと完全に敵対して千年京まで急におそわれた時はどうすることもできないだろう。
「偵察するのは俺とセンビだけだけど、みんなもある程度準備できてからの方がいいと思う。敵の戦力を把握するのは最優先だが突っ走る訳にもいかない」
「それがいい。みなあぁ言って意気込んでおったが、こんな事態は初めてじゃからな。不安も多いじゃろう」
一度深呼吸をして、気合を入れる。
偉人会の会場となっていた商談室を出て階段を降りる。ビッグマムとリトルフランク君の姿が見えた。何度見ても奇妙なシルエットだな。ビッグマムはすべてが大きくてリトルフランク君は小さくて大きい。
「一応、西の森にいたうちの職人どもは引き上げさせて、西の森を監視する人員を揃えておいたよ。気休めにもならないだろうけど」
「そんなことないですよ。けど、偵察の方は早くても明日ですね。都の皆さんはまだパニックでしょうし」
「そうだね。よろしく頼むよ」
「ナナセにはわっちがついておるからな。安心せい」
「仙狐様もありがとうね」
「礼には及ばん」
ビッグマム親子とは別れ一度家に戻ることにした。
千年京は慌ただしい雰囲気だ。準備をしているようだ。
「千年京ははみ出し者の都じゃ」
いつもとは違う喧騒の都を歩きながら、センビはしみじみと言った。
「……そうだな。この世界は人間種にとっては厳しい世界だよ」
「戦うことを恐れ、ただ祈ることしかできない者たちじゃった。不思議じゃのう。それをたった一人で変えたんじゃ。お主がな」
「違うと思うけどな」
「まぁよい、それでこれからどうするんじゃ?」
「時間はあるからな。ビッグマムの商会で西の森を監視してくれてるようだから、異常があればすぐ知らせがくるはず。そっちはしばらく任せようと思う。……俺は魔法の修行をするよ」
「魔法の修行とな? 今のナナセなら十二分にオークの軍勢と戦えるはずじゃぞ?」
魔力を扱えるようになって一週間。センビが言うには驚異的なスピードで魔法を習得しているとのことだが、実感はない。俺はまだオオイノシシだとか、そういう四足歩行歩行で知能のない魔物としか戦ったことがないんだ。本物の戦い、命の取り合いをまだ俺は知らない。
「もっと威力の高い魔法が欲しい。もっといろんなことができるはず。少しでも強くなっておこうと思ってさ」
「なるほどのぅ。あいにくじゃがわっちは魔法にはさほど詳しくない。魔力を拳に集めてバーン! とやれば大抵片付くからな」
「その戦い方でもいいんだろうけど、魔法と言ったらほら、大きな炎を生み出したりとか、風を巻き起こしたりとかさ」
「属性魔法か。ナナセでもちと難しいかもなぁ。六属性は魔法使いの中でも極めるのは至難の技じゃ」
また新たな概念が出てきた。魔法っていうのは奥が深いな。
「六属性ってのは?」
「炎、水、土、風。そして光と闇じゃな」
「じゃあ、俺が今まで使っていた治癒魔法とか転移魔法は属性魔法じゃないのか?」
「それらは属性魔法ではない。なんというか、わっちは魔法使いではないから説明が難しいんじゃが、とにかく、属性魔法はとても難しいんじゃ。どれ、試しに火種の魔法を大きく攻撃的なモノに変えてみろ」
火種の魔法はものすごく簡単な魔法だ。生活魔法の一種で、魔法の才能がない人でも習得できるような魔法だが、それを大きく、そして攻撃的なモノにか。
都のはずれに移動して魔法を展開してみる。
まずは火種の魔法を。空中にぽっと小さな火種が現れた。ここまで簡単。ここからこの火種を大きく、か。
「あ、あれ……なんだこれ? 全然思うように操作できないっ!」
火種を大きくしようとしても、火種がグラグラと揺れる程度で変化しない。
魔力を注ぎ込んでも火種の勢いはまったく変わってくれない。
「な? 思い通りにならんじゃろ。属性魔法というのは成り立ちが違うんじゃ」
「そうなのか……。確かに難しいな。どうすればいいのかさっぱりだ」
「まぁ落ち込むでない。回復魔法も転移魔法もすごい魔法じゃからな。並の魔法使いならば夢のまた夢というくらいの魔法なんじゃぞ?」
しかし、俺は決定力が欲しいんだ。もっと手数を増やしたい。
いきなりつまずいてしまった。くそ……
「せめて属性魔法をこの目で見ることができればな……」
魔力に関してはかなり敏感に感じ取れるようになってきた。だからこの目で実際に見ることができれば属性魔法の足がかりにはなるはず。
「属性魔法を使える魔法使いが千年京にいればな……」
「おるぞ」
え?
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