#4
「桜木くん、久しぶり。一週間ぶりだね」
「あ、久しぶり。」
やっと会えたあああ!久しぶりのれんくん最高だわ。
私は、一週間の旅行を終えいつものベンチでれんくんに会っていた。
「はい、これ。約束のお土産」
「別に約束なんてしてない、なんなら俺は『気使わなくていいよ』って言った気がする」
「んんん、もう。そんな固いこと言ってないで受け取って」
「受け取らないとは言ってない」
れんくんはそう言うと私が渡したお土産を受け取った。
「なにこれ、鈴?」
れんくんは不思議そうにシャラランと鈴を鳴らす。
「そう、影薄いれんくんにピッタリでしょ?これで気づいてもらえるね」
「別に影薄くないし、気づいてもらわなくてもいいし。あと、あんま言いたくないけどさ、柊さんもこっち側だからね」
「わ、わかってるよ…。だから私も買ったの……。これ」
「同じだ」
「ご、ごめん。鈴これしかなくて……」
だ、だめだ。勝手にお揃いにしたのばれた。さすがにまずかったかな…。
「これで読書仲間だ」
「え、勝手に同じのにしたこと怒らないの?」
「やっぱ意図的に同じのにしてるじゃん」
「……ごめ」
「だから、なんでも謝らないでよ。別に怒らないし、ほんとに読書仲間だと思ってるから」
「あ…ありがと…」
何だろうこの気持ち、すごいホッとしてる。やっぱ君のこと好きだ。
「さ、今日は何読もうか」
「れんくんには、まだもう一冊残ってるじゃん。ファンタジーのほう」
「残ってない」
「え?」
「柊さんが旅行に行ってた一週間でさすがに読める。はいこれ、ありがとう」
前に貸していた二冊を渡され、受け取る。
「そ、そうだよね。じゃ、じゃあ次の本も貸す!」
「いいの?ありがとう、じゃあ代わりにこれ貸す」
「わーやったーまた新しい作品だー前の作品すら読み切ってないのにー」
「嫌味かな?貸すのやめようかな」
「う、嘘です嘘。貸してください…」
それからというもの、お互い黙々と読み続けた。れんくんは全部読み終え、感想まで言ってくれた。それでもやっぱり私は貸してもらった本を読み切ることはできずにこの日は解散になった。
そして次の日も、れんくんはまた別の本を渡してきた。私は昨日と同じように読み切ることができなかった。
そのまた次の日も同じだった。れんくんはまた違う本を渡してきた。
「はいこれ、今日貸す本」
「さ、桜木くん…なっなんで毎回違う本を貸してくれるの?私、時間かかってもいいから読み切り…たい…」
私はさすがに不思議に思って、れんくんに思ってることを言ってみる。
「時間は有限。俺のおすすめの本の雰囲気を知ってくれるだけでいいんだ。だからいろんな本に触れてほしい」
時間は有限…?そりゃそうだけど、今は夏休みだし…。
正直、れんくんの言ってることが分からなかった。
「でも毎回桜木くんだけ読み切ってて楽しそう…」
「それは、柊さんが読むの遅いからじゃ…」
「くぅ…事実だから何も言えない…頑張って早く読めるようにします…」
「いろんな本貸すからね」
「いや、同じやつ読ませてよ!」
こうした日々が続き______
【夏休み最終日】
「柊さん、これも面白かった。これが前言ってた涙の跡があるって作品だったんだね。より感情移入しやすかった」
「でしょ!私の一番好きな作品!もちろん涙の跡も含めてね。てか…私、今日も貸してもらった本まだ最後まで読めてないんですけど…」
「結局、柊さんこの夏休みで読む速度早くならなかったね。」
「い、言わないで…。てかもう夏休み終わるじゃん…早すぎない?」
今年の夏休みは、れんくんとお気に入りの場所で読書三昧で充実してたな、終わるの寂しいな…。
「そうだね、もう終わる。やっぱ寂しいな…」
「えっ今れんくん、『寂しい』って…」
「言った」
「あれ…珍しく素直だ」
「ま、まあ。そういう時もある。」
「へえ~桜木くんが素直な時もあるんだね。何かいいことでもあった?」
「いや別に、ない」
絶対何か隠してるじゃん!めっちゃ気になる!
「ほんとかな~?」
「なにちょっとニヤニヤしてるの。ほんとになにもないから、信じてよ」
れんくんがグッと私の両肩をつかみ、体を引き寄せる。か、顔が近い…!ドキドキしすぎて頭おかしくなる!こ、こんなこと今までなかったのに…急に積極的過ぎだよおおお!
「は…!はわわあ……。ど、どどど、どうしたの!?」
「…………ごめん何でもない。じゃあ今日も解散ってことで。今までありがとね」
「い、今まで?あっ!夏休みね終わっちゃうもんね!こ、こちらこそありがとね!また明日学校でね!」
あ、あれ?れんくんほんとちょっと寂しそう?
顔を近づけられたことで体がオーバーヒートを起こしていたが、れんくんの今までに見ない表情を見て平常運転に戻った。
落ち着いてから改めて顔を見ると、いつも通りだった…。気のせいだったのかも。
この日もいつも通り、手を振って解散した。
この日の夜、ベッドでゴロゴロしながら夏休みのことを振り返っていた。
この夏休みの間れんくんとほぼ毎日一緒に読書できて楽しかったな。今までの夏休みの中で一番楽しかったかも。
けど、結局私は貸してもらった本を何一つ読み切ることができなかったな。夏休み中本ばかり読んでいたのに、一向に読む速度が速くならなかったからかな。
いや、でもれんくんのせいでもある!
だってれんくん同じ本持ってきてくれないんだもん。どんな意図があってこんなことするのだろう。いつかは全部読ましてくれるのかな…。
しかも、こんなにれんくんと一緒にいたのになにも進展がなかった…。
やっぱもうだめなのかな。私も正直な気持ち言えなかったからダメなんだけどさ、夏休み中ほとんど一緒にいたんだから少しは好感度アップしてるよね…?
ジージージージジー
「ん…ふぁぁあ」
夏休み明けの初日は体が重すぎる。
「りん~もう朝だよ~今日学校でしょ~?」
ジージージージジー
「ん…んん、もう起き…てる…よ!まったく、うるさいな!」
夏休みが終わったにもかかわらず、まだセミがうるさく飛び起きた。
お母さんと、セミのおかげで夏休みボケを振り切っていつもの時間に家を出ることに成功した。
「あれ、今日曇り?天気あまりよくないな」
昨日、晴れ予報だったのにおかしいな。珍しく予報当たんなかったのかな。
学校着くまでに雨降らないといいんだけど。
いつもより速足で歩き、雨が降る前に学校に着いた。
「あれ」
いつもより早く着いたおかげで教室に全然人がいなかった。
もちろんれんくんもいない。
少し時間が経つと、なじみのある人たちが続々と教室に入って来る。夏休みにどこかに行ったのかすごい日焼けしている人もいれば、夏休み前と比べて髪型が変わってる人もいたりと、個性で教室がどんどん彩られていく。
でも、私の待っている人が来ない。昨日まで当たり前に会っていたあの人が。
何か嫌な予感がする。
「夏休み明け初日に休み…?」
ボソッとひとりつぶやく。
結局れんくんが来ないまま先生が入ってきた。
「みんな~久しぶり!元気にしてたか~?もちろん宿題やってきたよな?」
先生の一つ問いでざわざわし始める教室。
「はいじゃあ、静かに。宿題やってない人は後で言い訳聞いてあげるから。連絡事項はいっぱいあるけど、先に言っとくことがある」
シーンと静まり返る教室。
「えっと、急で申し訳ないのだが。桜木れんくんが転校することになった」
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