#3

「どうして!古本そんなに良くないの?」

 私は古本を拒絶されてから少しもの抵抗のつもりで聞く。

「うん、俺古本とか誰が触ったかわからないやつ無理」

「そ、それもわかるけど!でも来ないでってひどいと思う、私も同じ趣味の人見つかってうれしかったのに…。しかも同じベンチが好きだなんて…」

 あーだめだ…私、今絶対露骨に落ち込んでる。

「……」

 れんくんが黙ってるなと思って顔を上げると、手で口元を覆いながら目をそらし照れていた。

「え、嘘…」

 今照れる要素あった?照れてるれんくん可愛すぎんか?やばい、好きすぎるんだが!?

「桜木くん…もしかして…」

「照れてない」

 いや、また食い気味…!!

「まだ何も聞いてないよ?」

「あ、いやなんでもない」

「なんでもなくない!てか、桜木くん今のどこに照れる要素あった?」

「だから、別に照れてないって」

「はいはい、そゆことにしとく」

 ま、照れてるとこ見れたからここは一歩引いてあげよっと。

「そ、それでさ、桜木くん。やっぱり私この夏休み、ここに来てもいいかな……」

「あ、うんいいよ」

「え、そんなあっさり?」

「まあ、最初から冗談だったし」

「え…」

「いやごめん、謝るからそんな人じゃない何かを見るかのような目で見ないで」

「でも」とれんくんは続ける。

「実際古本とかは苦手…」

 すごい申し訳なさそうな目でこっちを見てくる。かわいすぎて無理。

「じゃ、じゃあ…この夏、私が古本の良さを教える」

「苦手なものを勧められるのは気が乗らないけど…お願いします」

「じゃあ…」

 とりあえず、私は古本の良さを全力で語った。今世紀最大の早口で。


「…でね、それで前ね!こんなことがあって、」

「あ、あの!柊さん、もうこんな時間…。」

「あ…!もうこんな時間!」

 れんくんに言われ急いでスマホを確認すると十八時を回っていた。

「柊さんがこんなにもしゃべる人だとは思わなかったよ」

 そう言われ急に我に返る。

「えっと……ごめ…」

「謝る必要はない続きはまた明日にしよう」

「…そうだねまた明日」

 やばい、つい喋りすぎちゃった…。ま、まあ続きは明日言えばいいんだし。あれ?また明日!?

「明日!?さ、さささ、桜木くん?また明日って言った!?」

「言ったけど、そんなに驚くこと?あ、もしかして予定あった?」

「いやいやいや!無い!無いしあっても余裕でこっち来るし!!」

「柊さん、さすがに約束とかあらかじめ決まっていた予定は守ろ」

「は、はい…」

「じゃあ俺は帰るよ、じゃまた」

「う、うんまた…」

 へへ?噓でしょ?こんなことがあっていいのか!?好きな人との約束…!嬉しすぎるよ~!!もう明日のことしか考えられないよ!



「お母さんおはよ!」

「えっ!り、りん?ほんとにりんなの?こんな朝にりんが起きてる…しかも夏休み初日に」

「お母さん疑いすぎ、ちゃんと私だよ!」

 まったく、お母さんは失礼だな!

 そう、私は今日れんくんに会うのが楽しみすぎて早く起きていたのだ。


「ん~んん~」

 早く起きた私は今クローゼットの前で悩んでいた。

「服、どうしよう…」

 学校なら制服でいいんだけど、なんたって今は夏休み。学校があるわけがなく、大ピンチなのだ。

 今までファッションに興味なかったこの性格がここで足を引っ張る。

 とことんこの性格には嫌気がさす。

「あ~もう!これでいいや!」

 結局選んだのは、シンプルな白いワンピース。

 自分の好みではないのだけれど以前お母さんに「りんなら絶対似合うから~ほら、ね!」と、母親特有の強引さで買われたやつだ。

「こんな時に役に立つとは…」

 そもそもほかにある服が、胸のとこに『働きたくない~』とプリントされたTシャツやら、中学校の時のジャージやら好きな人に見せれるものではなかった。

「母マジ感謝」と、手を合わせて過去のお母さんに感謝する朝だった。

 れんくんとの約束は十三時からで、それまではれんくんにおすすめする本を選別することにした。

「これとこれ、あと…これも!」

 よし、準備万端!最初だから少なめにしようとしていたけど、おすすめしたい本がありすぎて結局多くなってしまった。


「もう行こうかな」

 今の時刻は十二時半を回ったところだ。約束の時間には早すぎるけど、遅れるよりはいいよね。と思いながら勢いよく家を出た。

「ふふ」

 あーだめだ、れんくんに会えるのが楽しみすぎて笑ちゃう。


「ま、さすがにれんくんはまだ来てないよね……ん?」

 いつものベンチに人影があるなと思い覗くと、まさかのれんくんだった!

「桜木くん!?は、早くない!?」

 れんくんは一瞬ビクッとしてこっちに振り返る。

「お、おはよう。柊さん」

「桜木くんおはよう…それで来るの早いね、も…もしかして楽しみすぎて早く来ちゃったとか?」

 ちょっと意地悪な質問しちゃお。どうだ!

「え?あ、うんまあ楽しみではあった。でもだから早く来たわけじゃない。遅れるのは失礼かなって。それこそ、柊さんも来るの早いけどもしかして楽しみすぎて早く来ちゃった?」

「なっ……べ、別に私も…そんな…いや……違くて…えっと……」

 くそおお!返り討ちにあった…。なんで焦っちゃうの…ちゃんと話したいのに…照れすぎて無理…。

「あれ、柊さんどうしたの?座らないの?」

「あ…!う、うん大丈夫!座る座る!ありがと!」

 へええ!?なんでそんな落ち着いてるの?私の言葉ノーダメージ?完敗だ…。

「柊さん、昨日の続き話してよ」

「さ、桜木くん、これ…。うちにあるおすすめの本持ってきた。ちょっと多いからこの中から気になるやつ持って行って」

 れんくんは五分くらい悩んでから口を開いた。悩んでる姿可愛すぎた。

「じゃあ、このミステリーのやつ。あと、ファンタジーっぽいこの作品にする。ありがたく貸してもらうよ」

「いいの選んだね。ぜひミステリーのやつから読んでみて」

「え、今から?まあいいけど。じゃあ代わりに俺の今読んでたやつ貸すよ」

「い、いいの!?読みたい。ありがとう。『この気持ちの伝え方』か…。桜木くんらしくない本だね、桜木くん恋愛なんかするの?」

 あ…!つい、勢い余って聞いちゃった…。ど、どうなんだろ。恋愛するのかな…。

「うん、するよ。人間なんだし、恋愛感情ぐらいある。でもそれが本当のものなのかわからないし、ましてや伝え方もわからない。だからその本を読んでる。」

「そ、そうなんだ…」

 れんくんにもいるんだ、好きな人。

「まあ、その本もう数えきれないほど読んでるけどね。ストーリーが好きなんだ。今日中じゃ読み切れないと思うけど読んでみて」

「桜木くんが好きな本か~楽しみ!」

 多分ここで好きな人を聞くのはいけないこと、なんかそんな気がする。

「伝え方がわからない」か…れんくんも私と同じなんだ。はあ、正直になりたいよ。


少し時間がたったころ、れんくんが急に口を開く。

「あの、柊さん。ここに『こいつ犯人』って書いてあるんだけど…これはどういう…」

「えっとね、それね。買った時から犯人が書いてあるの。おもしろいよね!これだから古本はやめられないんだ。どういう気持ちでこんなこと書いたのか想像するの」

「嘘だろ…ミステリーの話に犯人のネタバレするのが一番アウトでしょ」

「うん、そう。みんなそう思うはず。でもね、私は逆に犯人を知ってから読むミステリーも面白いと思うんだ。」

「なるほど、まったくわからん。ミステリーは自分も考えてこそでしょ」

「まあいいから読んでみて、ね?」

「う、うんわかったよ…」

 れんくんはちょっぴり嫌そうに再び本を開いた。


 そして、どれくらい時間がたっただろうか。私たちは時間を忘れて黙々と本を読んでいた。

「よし、読み終わったよ。犯人が分かってても面白いものだね。これ犯人が分かってから改めて読み返すとこの人の行動一つ一つはちゃんと犯行につながる行動だったってことが分かるようになってるんだね。まあ、犯人が記されてたから俺は一回読むだけで分かったけど。たぶんこの元持ち主は、二回目読む時に目立つように印をつけていたのかな。」

「お、そんなところまで読み取るとは。さすがだね!てか読むの早い!私まだ半分なんだけど」

「それは柊さんが遅いだけ」

「な、なんだと…いっぱい本読んでるはずなんだけどな~」

 悔しい!だいぶ本読んでるはずなのにこんなに読む速度が違うなんて…。

「さあ、もう十八時回ってる。そろそろお開きにしよう。柊さん、明日は来る?」

「あ、来たいんだけど…。明日から毎年恒例の旅行があるんだよね…。しかも一週間。」

「一週間、結構長いね。ぜひ楽しんできて」

 れんくんが少しうつむいた?気がした。

「う、うん!楽しんでくるよ!お土産買ってきます!」

「いやいや、気使わなくていいよ」

「いいの!私が買いたいの」

「じゃ、じゃあありがたくもらう。柊さん、明日から旅行なんだよね?今日は早く帰ったほうがいい。じゃあまた一週間後にここで」

「そ、そうだね。じゃ、じゃあまた一週間後に」

 なんかれんくん最後冷たかったな…。まあ冷たいのはいつもなんだけど、今日はいっぱい喋れたし仲良くなれたと思ったのにな。

 手を振り、振り返る。

「あ、柊さん。今日、制服と違ってワンピース似合ってた」

「は…!はあああ!?ど、どうしたの?な…え…うん…えぇ…あ、ありが…とう?」

「じゃ、また」

 いやいや!え!?なになに急に!好きすぎるんだが!『似合ってた』だって!?やばすぎ!褒められちゃった!えへへへもう死んでいいかも。

「さ、桜木く……ん?」

 れんくんは照れて落ち着きを失った私を置いて帰っていました。

 そりゃそうか…。


 一週間も会えないの無理…。

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