#2
学校が終わり一人帰り道を歩く。
結局あの出来事からというもの全く授業は頭に入ってこず、隣の席なんて見れたものじゃなかった。
「ペア活動なくてほんと良かった」
安心したのか、つい言葉が漏れる。
「あっ……!」
こういうのじゃん!いけない、つい口に出す癖やめないと!
家に着くと、一気に力が抜けベッドに倒れこむ。
「はぁぁぁ」
やっぱ家が一番落ち着く。
今日やらかしちゃったけど、いつもよりいっぱい喋っちゃった!やった…もっと…話た…い………。
「りーん!朝だよー!」
「ん…」
お母さんの声だ…。え、朝?
「朝!?」
いつの間に寝てたの!嘘でしょ!もう朝じゃん!
「時間無いー!!」
急いでご飯を食べてから、身支度を済ませ何とかいつもの時間に家を出ることができた。
「ふう」
よし、もう今日やり切った。
それもそのはずで今日はなんと終業式!明日から夏休みとか最高でしょ!
夏休みのこと考えてたらテンション上がってきた。
家から徒歩15分のとこに学校はあり、もう学校が見えてきた。
学校に近づいていくにつれ、とある記憶がよみがえる。
あれ、昨日私って…。れんくんに……。
って、もう教室の前じゃん!教室入りにくいって!
れんくんもう来てるかな。私は不審者のように教室を覗いた。
「よし、まだれんくんいない」
小声でつぶやく。
「あの、柊さん」
「ひゃああ!」
「柊さん、自分の教室なんだからそんな静かに入らなくてもいいと思うんだけど」
「あぁ……はわわ、さ…桜木くん…」
ど、どうしよう。頭真っ白…。
「あの、その…柊さん、口空いてる」
「んん!?」
急いで口を閉じ、自分の席に駆け込んだ。
とんでもないスタートを切った終業式だった。
終業式ということもあり、体育館で全校集会が開かれた。
そして、全校集会終盤に差し掛かったころ校長先生の長い話が始まった。
なんでいつもこう話が長いのだろう。と疑問に思ったけどすぐに考えることをやめた。何か面白いことないかと目だけをきょろきょろと動かし見渡す。
「えっ」
れ、れんくん寝てるじゃん!れんくんこんな時に寝れるなんてメンタルすごいな。全校集会なんですけど、後輩いるんですけど、先生全員集合なんですけど!
心の中で色々とツッコんでると、校長先生の話が終わっていた。それと同時にれんくんも目を覚ましていた。嘘みたいなタイミング!!
教室にもどり、れんくんに聞かずにはいられなかった。
「さ、桜木くん。さっき全校集会で…」
「寝てない」
「えっ」
「あ、いやなんでもない」
あれさっき食い気味で「寝てない」って言わなかった!?まだ何も聞いてないのに。
「ふふ」とつい笑いがこぼれる。
「なんで笑うの」
「だって私まだ何も聞いてないよ?なのに『寝てない』って」
笑うと緊張がほぐれていつもより普通に話せてる気がする。
「そんなことは言ってない」
え、なんでそんな堂々と否定できるのだろうか。嘘一つないですって目でこっち見てくるし…。
「ちょ、ちょっと待って!こっち見ないで!」
へ?私見られてた?待って!やばい!顔熱すぎる!せっかく落ち着いてたのに!
好きな人に見られるとか…そんなの……む、無理…。
「はいじゃあみんな前向いて~夏休み前最後のホームルーム始めるよ~」
ざわざわしていた教室は先生の呼びかけによって静かになった。
担任の先生の最後の話が終わった。
「はい、じゃあねみんな夏休みだからって羽目を外しすぎないようにね~よし!解散!!」
先生の「解散」の一言で静まり返っていた教室が再び賑わう。
やっと夏休みだ~!れんくんに会えないのはつらいけど…。
夏休みは趣味に没頭しよう。
私には趣味がある。その趣味のため今日の帰りは寄り道すると決めていた。
「よし、やっぱここはいいとこだ」
ベンチに座り一冊の本を広げる。
そう、私の趣味は読書。でも、ただの読書ではない古本を読むのが好きなのだ。
今座ってるベンチはお気に入りの場所で近くに木があるおかげで、いい感じの木陰になっているのだ。夏なのにこの場所だけはいつも涼しい。
そして私が古本が好きな理由。古本一冊からいろいろなストーリーが読み取れるから好き。
例えば、感動するシーンで本に涙の落ちた跡があったり。時には、数学の参考書に前の持ち主の解説がついていたり。こういった本一冊の痕跡から前の持ち主のストーリーを想像するのが好きなのだ。
そして、夏休みに入った今!読書し放題なのだ!
「ひ、柊さん?え、なんで」
と、後ろから急に声がして、恐る恐る振り返ると。
「ひゃっ桜木くん!ど、どどどどうしてここに!?」
「こっちのセリフなんだけど」
なんでここにれんくんが!え、運命?
「ご、ごめんね!すぐ帰るから!」
「え、別に帰らなくても。読書してたんでしょ?それ」
れんくんが私の持ってる本を指さした。
「あっこれ!うん、そう!本読んでた!」
「柊さんって本読むの好きなんだ、俺もここには読書しによく来る。ほらこれ」
「ほんとだ!れ…桜木くんもよくここに来るんだね」
危ない!趣味が同じってだけで嬉しくてつい名前で呼ぼうとしちゃった。心の中でならいつも言ってるんだけどな。やっぱ直接は言えないよ…。
「てことで柊さん帰らなくていいよ」
「う、うん!ありがと!」
「隣座っていい?」
「隣!?」
「うん、だって座る場所ベンチしかないし」
「い、いいよ…。」
「ありがと」
いやいや、もう読書どころじゃないでしょ!てか、よく来る!?私もよく来るんですけど!いやよく今まで会わなかったな!とセルフツッコみを入れる。
「柊さん、夏休みの間にまたここ来る?」
「う、うん来るつもりだった…。やっぱ邪魔だよね!大丈夫もう来ないから!」
「いやいや、違くて」
「ん?」
「また来てよって。なかなか周りに読書好きな人いないから、俺嬉しくて。柊さんの読む本とかも教えてよ」
「ええ!き、来ていいの?うん!来るよ!絶対!!」
嘘、これ夢!?好きな人とまた会う約束しちゃったんですけど!やばい!うれしすぎる!もう、夏休み最高!!
「早速だけど、柊さんの好きな本ってどんなの?」
「え、えっと…私…古本が好きで…」
「えっ」
「え?」
「ごめん柊さん。やっぱここに来ないで、好みが分かり合えそうにない」
「な、なんでええええ!!!」
こうして、私の夏休みが始まった。
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