第15話 第二の妨害策
貴族院生活が始まってから三ヶ月が経過した。
魔術、体術、ダンジョンといった戦闘に関する項目はもちろんのこと、食事のマナーや社交界での振る舞い等も学んでいた。程度は違えどマナー等は各家庭で学んできているため、確認的な要素が強い。ゲームのシナリオだと主人公のように特殊な理由で入学した一般人がこれらに苦労するという描写があった。
更にレティアに関してはそれに加えて武器の扱いも学び始めた。教えてくれているのは担任のファムリ先生である。彼女は女性貴族では珍しく魔法だけでなく武器の扱いも上手い人だった。俺がレティアに武器での戦闘を教えてくれる女性を探していると先生に相談すると、自分ができるからと授業とは別で放課後に教えてくれているのである。
「リヒト様、今日からですね!」
「あぁ」
俺たち一年は今日からまだダンジョンに潜ることになっている。
これまでも授業でダンジョンには入ってきたが、いずれも日帰りだ。しかし、今日は違う。ダンジョンの中で寝泊まりするし、可能であればダンジョンを踏破しなければならないのだ。宿泊実習と言えば良いだろうか。とにかくこれまでのダンジョン探索が予行演習とするならば、今回は本番。そのため俺たちのチームもそれ以外も全員がこれまで以上に真剣に望んでいる。
ここで大事になってくるのは探索するメンバーとダンジョンである。
メンバーに関しては初回からずっと固定。俺、レティア、グレイ、そしてメイ令嬢とエドワードだ。初回探索以降、俺は全ての属性魔術で戦闘できるようになり、レティアは水と氷を併用して戦うようになった。グレイもビビらなくなったし、メイ令嬢も鉄のステッキで豪快に魔物を叩き潰す。エドワードはこの中だと一番戦闘が苦手なのだが、回復薬や解毒剤などをタイミング良く俺たちに渡したりしてどうにかチームに貢献しようとがんばっている。
ダンジョンの方はというと、俺の独断で選ばせてもらった。理由はもちろん<ラストホープ>絡みだ。踏破を目指すは<土竜の住処>。俺たちのような魔術を学び始めた人間だけで挑むのは少々危険な場所である。正直、踏破できるかは分からない。だが、それでいいのだ。あくまでも俺の目的はここのダンジョンで手に入る隠れ部屋の宝箱なのだから。
「そろそろ行こうぜ! スタート時間過ぎたからさ」
グレイがわくわくした様子でダンジョンへ入るように促す。
「そうだな。皆、誰一人欠けることなく帰還しよう」
「「「おー!」」」
「お、おーですわ!」
俺たちがダンジョンの中に入ると闇が広がっていた。
<土竜の住処>は洞窟型ダンジョン。しかも壁掛け松明などはないため、灯りはこちらで用意しなくてはならない。
火の魔術が使えるのは俺、グレイ、メイ令嬢だ。そのためこの三人の間にレティアとエドワードを配置することになっている。
「本当にこの並びでいいのか?」
「リヒト様、構いませんわ。わたくしが一番目が良いですし」
今回ダンジョン探索するに辺り、少しフォーメーションが変わっている。以前は戦闘経験がある俺が戦闘で他の皆は決まりがなかった。しかし、今は前からメイ令嬢、エドワード、俺、レティア、グレイの順で並んでいるのだ。こうなった主な理由は目が一番良くて敵の存在に気づきやすいメイ令嬢を先頭に置きたいということ、そして火を自分で起こせないエドワードとレティアの両方をカバーできる位置に俺がいたかったからである。先頭は接敵が一番早いためメイ令嬢にしたくはなかったのだが、彼女自ら前に行くと言ったので任せてみることにした。もちろんそれで危険だった場合は俺が前に出る。
「皆さん、敵がいましてよ」
早速、一番前を進むメイ令嬢が声がかかる。
俺の目ではまだ何も見えないが、敵がいるらしい。
「真っ直ぐ魔術を飛ばせば、敵に当たるか?」
「ええ、リヒト様」
「分かった。じゃあ、皆前方に魔術で攻撃だ。味方には当てないように!」
俺、グレイ、メイ令嬢の三人は灯りとして使っている火魔術をそのまま増幅させて火の球を生み出す。そしてそのまま前方へと放つ。
少し遅れて後ろから少し強めの風が吹く。これはレティアの風魔術だ。彼女の風魔術適性はE。ギリギリ使える程度のものだ。水や氷に比べるととてもじゃないが、武器にはならない。だが、他三人が火で攻撃する以上、それと対になる水、氷の魔術を合わせるわけにもいかない。そのため単体では攻撃力が乏しいレティアの風魔術を、俺たちの火魔術の威力を増幅させるという方法で使うことにしたのだ。
実際に彼女が起こした風を受けた俺たちの火球は火の粉を撒き散らしながらサイズが少し大きくなり、速さも上がったように見えた。
――――ギアアアアアアアアアアア。
火球が放たれた先で甲高い鳴き声が上がったのだった。
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