第14話 意外に素直

「次は俺とグレイも魔術で戦ってみるか」


 魔物との初戦闘は怪我人なしで終えることができた。

 戦った感覚からゴブリン相手ならいろいろ試しても問題ない。そのため俺はグレイに提案する。


「魔術でか? 別に良いけど」


 先程の戦闘では暴走していたグレイだが、今は落ち着いている。次の戦闘時はどうなるか分からないが、敵が弱いうちに少しずつでも慣れてもらいたいところだ。


「でしたら、私は魔術以外で戦うべきですか? あまり武器は嗜んでいないのですが」

「それはやめておこう。ただ、こうしてダンジョンに潜ることになる以上は一つくらい使える武器があった方が良い」


 魔術は自身の体に宿る魔力が切れると使えない。レティアくらいの才能があればそれ一本で生きていくことも可能ではあるが、第二の選択肢があって損することはないだろう。ただ、貴族院は完全に生徒を実家から切り離しているため、指導役にヴァンドレを呼びつけることもできない。素人に教えるくらいなら俺自身でできなくもないが、女性相手というのはどうもやりづらい。できれば他に教官役を用意したいところだ。


「ん、ん……はっ!? ば、化け物は!?」

「メイ様、魔物はリヒト様たちが倒してくださいました」


 ようやく目を覚ましたメイ令嬢にエドワードが状況を説明する。


「そ、そうでしたの」


 メイ令嬢はエドワードに支えられながら立ち上がる。


「リヒト様、レティアさんありがとうございました」

「あ、あぁ」

「困ったときはお互い様ですよ」


 意外に素直に感謝されたため、俺が少し驚いた。

 もっと面倒な反応をされると予想していたからである。


「それから、そこのヘタレも。一応感謝しておきますわ」


「メイ様が素直に気持ちを口にするな――――」


 なにやらエドワードがぶつくさと呟いているが、何を言っているのだろうか。


「おう。まぁ、俺は武器振り回してたら、たまたま当たっただけだけどな」

「な、なんですのそれ! 感謝して損しましたわ!! やっぱりヘタレはヘタレだったのですわ」


 メイ令嬢はぷんすか怒り始めて、勝手に洞窟の奥へと歩き始めた。


「エドワード、止めてくれ。先頭は俺が行く」


 そう言い終わる前にエドワードは慌てて、メイ令嬢を引きとめようとしていた。俺も彼女が前にならないように急いで走り先頭になる。


 それからの俺たちの探索はかなりスムーズに進んだ。


 メイ令嬢のグレイに対する態度は相変わらずだが、それでも先程の戦闘のことが頭にあるようで最初ほどの厳しさはなくなった。

 戦闘面においても、俺とレティアは完全に冷静に対処できるようになりグレイも数をこなすごとに落ち着けるようになった。メイ令嬢も二度目の戦闘からは気を失うことはなくなり、少しずつ魔物の姿に慣れ始めた。最終的にはゴブリン一体くらいならエドワードと協力して倒せるようになった。ちなみにメイ令嬢の武器は鉄製のステッキである。ドリルツインテの金髪令嬢がステッキでゴブリンを叩き潰す様はなかなかに痛快だった。


 最終的に俺たちが倒した魔物はゴブリンのみだが、二十四体にまで増えた。

 他のチームと比べるとそれなりに魔物を倒せている方だった。やはり俺が小さな頃からヴァンドレに鍛えてもらっていたことが良い方向に働いたようである。他にもレティアの魔術の才能や一度慣れてしまえば怖いものなしのグレイ、なんやかんやで根性を見せたメイ令嬢の活躍などチームとしてかなりがんばれたように思える。


 結果に満足した俺はその日、寮の自室で快眠できたのだった。


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