第11話 魔術の感覚
魔術適性を検査した翌日。
俺たちは早速、実習にて魔術の使い方を学ぶことになった。
場所は貴族院の第一体育館。今日は慣らしだけということで他人を攻撃するのは禁止とされている。
「やっぱり適性がある魔術は簡単に使えるようになるんだなー」
グレイが指先を振るとそれに合わせてそよ風が吹く。
「そうですね。私も簡単に水を出せるようになりました」
レティアは人の顔サイズの水球を八つ生み出し、宙でくるくると回している。それを見ている彼女はどこか楽し気だ。
更に興が乗ったのか、レティアは水球を凍らせ始めた。パキパキパキと音を立てながらすぐに凍りつき氷球ができあがる。
「うおっ!? 凍った。これが氷の魔術かよ。すごいな……」
「水に氷と素晴らしいな」
ゲームだとレティアの強みは氷魔術とされており、水魔術に関してはピックアップされていなかった。だが、検査で適性Aを叩き出した水魔術も素晴らしい素質を持っているようで何よりである。
「ありがとうございます。明日からのダンジョン実習では是非、私を頼ってくださいね!」
「そう言ってもらえると俺も助かるよ」
天真爛漫な笑顔を見せたレティアへ微笑み返す。
「で、そろそろもったいぶるのやめてくれねーか? リヒト」
「いきなり何の話だ?」
「分かってるくせに。俺たちは魔術を見せたんだぜ? ほれ、お前も!」
「あぁ、そういうことか」
グレイは俺にも魔術を見せろと言っているのだ。
自分たちだけ武器である魔術を知られているのは不公平だ――――なんてことをこの男がいう訳がないので、おそらくただ好奇心で俺の魔法が見たいのだろう。
チラッとレティアの方を見ると、彼女も期待の眼差しをこちらへと向けていた。
「別に大したことはできないと思うけど」
まず火のイメージをする。松明に火が灯るように。
「おぉー、火がついた」
指先に火がついた。
それは燃え広がることなく、俺のイメージ通り人差し指の上で躍り続ける。
どうやら火魔術は狙い通り使えたようだ。
なら次はあれにしよう。
「あっ、火がかき消されました」
レティアが先程生み出したものと同じサイズの水球で、指先の魔術を鎮火した。
水球の数は一つ。やろうとすれば四つくらいまでならどうにかなりそうだな。
二つの属性魔術の感覚を確かめることができたので、俺は次の魔術へと意識を切り替える。
「涼しいな! 次は風か」
魔術でグレイに向けて風を起こしてみた。
強さ自体はそれなりだが、方向のコントロールなどは難しく感じる。グレイは簡単そうに操作していたが、その差は適正ランクの差かそれともそれ以外の部分の差なのかどちらなのだろうか。
「次で最後だ。さてと上手くいくかな?」
残る属性は土。適正ランクは水と同じくB。なので少し挑戦をしてみようと思う。
今までは多少曖昧なイメージでも使えそうな魔術だったが、次は違う。土を生み出し、それで像を作り上げるのだ。
元にするのは前世の記憶にある犬にしてみよう。こちらの世界にいるシルバーウルフを少しかわいくした感じの生き物だ。キバもあれらと比べると短くなっていて、体毛もいかつい銀ではなく落ち着いた茶色。
「どうだ?」
完成したのは見事な犬だった。
土でできているため色は変えられないが、造形は前世の記憶にあるものをかなり再現できていると思う。
「これは……なんだ? ウルフ系の魔物にしては随分と間抜けな顔してるし。いや、でも似てるのはウルフくらいしか」
「私も何かは分かりませんが、かわいいとは思います!」
微妙な反応だ。
造形が良くとも元となる生き物を二人は知らないので当然か。
失敗したな。見せる相手に合わせた題材を選ぶべきだった。
「これはウルフ系の変異個体をイメージした」
俺は二人を納得させるために苦し紛れの嘘をついた。
前世の記憶うんぬんかんぬんは説明するわけにもいかないからな。
「変異個体って、お前そんなの見たことあるのか?」
魔物の変異個体。それは極稀に見つかる希少な存在。
通常個体と違った特性を持ち、その多くは元の種を遥かに凌ぐ力を持つ。
遭遇すれば死を覚悟する必要がある。
「ヴァンドレが狩ってきたことがあったからな」
「ヴァンドレさんって確か、最初に野盗たちを蹴散らしていた方ですよね?」
「あぁ、そうだ」
「強い方なのだと思っていましたが、そこまでだったなんて」
レティアの中でヴァンドレの評価が上がったようだ。
主人として嬉しいことである。
「そんな優秀な騎士がいるのか」
「あれ? グレイは顔を合わせていなかったか?」
「俺たちが頻繁に遊んでいた時期にはまだ固定の騎士がついていなかったからな」
「そうだったか。なら、今度紹介するよ」
「おう、楽しみにしてる」
「是非、ヴァンドレと稽古してみるといい。楽しいぞ」
俺の提案を聞いたグレイはぎょっとした顔になる。
「それは勘弁だ! 変異個体を狩ってくる化け物と稽古なんて体がもたねえよ!!」
この日は談笑しつつも、魔術を何度も唱えて慣れることに時間を費やしたのだった。
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