第12話 ダンジョン探索
昨日の実習で魔術の感覚を慣らした。
皆の感覚的に適性がD以上ある属性魔術はすぐに使えるようになるという結論が出た。俺が全属性を一発目から使えたのも全ての適性がCかBだったからのようだ。
唯一、毒魔術だけ使っていないのはあの場に試せる相手がいないからである。
「皆、今日よろしく」
今から授業の一環としてダンジョン攻略を行う。
午前中はそれに伴う説明会のようなものを受けていた。トラップが仕掛けてあるかもしれないから気をつけろ。魔物は凶暴なためどのような見た目でも気を許すな。時には人間でさえ襲いかかってくるのがダンジョンだ。等々、教師からノウハウや注意事項を教わった。
「こちらこそよろしくお願いいたします。リヒト様!」
「ま、危なくなったらリヒトとレティアを頼るよ」
入学初日から行動を共にすることが多い、レティアとグレイがいつもの調子で返事をする。
「まぁ! なんて男らしくない発言かしら!! 噂といい、言動といい、本当に嫌いなタイプですわ」
「お、お嬢様! それは流石に失礼です」
「エドワード、付き人ごときが主人に楯突いて良いとお思い?」
「いえ、そういうわけではございません」
と、こんな感じの典型的な高飛車ご令嬢とその付き人が今回はついてくる。
俺たちは最初三人で攻略するつもりだったのだが、教師から最低でも五名でチームを組めと言われたからだ。最初はレティアの友人でも誘えば良いと思っていたのだが、付き人であるエドワードからどうにか一緒にダンジョン攻略させて欲しいと頼み込まれて了承したためこうなっている。まさかエドワードの主人、メイ・クルーシェ伯爵令嬢がこのような女性だとは知らなかった。俺は判断を間違ったのかもしれないと思いつつも、今更メンバーを変えるわけにはいかない。グレイには悪いが、どうにかこのメンバーでがんばるしかないのである。
騒がしいメイ令嬢に若干呆れながらも、俺たちはダンジョン探索を始める。
潜るダンジョンは<弱者の集落>という場所だ。出現する魔物は全て弱いが、数が多いという特徴がある。
ここに潜らせる狙いは弱い魔物相手で戦闘に慣れること。そして弱い相手でも数が揃うと厄介だと思い知らせることだろう。
俺は十歳の頃に父に懇願して、ダンジョン探索をしたことがあるため初めてではないのだが、あまり褒められたことではないので皆に合わせている。
「それにしても辛気臭いところですわね。わたくしがどうしてこんな場所に入らないといけないのかしら」
<弱者の集落>は洞窟のようなダンジョンだ。ごつごつとした土や岩で囲まれており、等間隔で壁掛け松明が設置されている。そしてメイ令嬢の言う通り湿度が高い。
「メイ様、ダンジョン探索は貴族院の必修科目の一つです。我慢してください」
「ふんっ。そんなこと分かっているわ」
エドワードがなだめようとしても効果なし。パタパタと手に持っている扇子を動かしながら、不機嫌そうな顔である。彼女の態度を改めさせることができなかったため、エドワードは申し訳なさそうにこちらを見た。
彼が悪いわけではないので、気にしなくて良いとジェスチャーで返す。
「で、魔物はどこにいるんだ?」
洞窟を歩き始めて五分。未だに魔物と遭遇していないためグレイがつまらなそうに零した。
「まだ姿は見えませんね」
レティアは反対に緊張しているようだ。
武器である杖を握る手が少し震えている。
「ねえ、エドワード。あれ何かしら」
友人たちの方に意識を向けていると、またメイ令嬢が騒ぎ始める。
「どれのことでしょうか?」
「ほら、あれよ! あれ! 奥の方にいる緑のやつ!!」
メイ令嬢が洞窟の奥を指差す。
「僕には、何も見えませんが」
困惑するエドワード。
「私にも暗闇であるということしか分かりません」
レティアもそう答えた。
「俺も同じく」
グレイにも何も見えていない。
そして俺もまた視界の先に緑色の何かを捉えることはできなかった。
だが、どうも臭い。入り口辺りでしていた土や雨のような香りとは明らかに違う。まるで浮浪者のような匂い。貴族として育った俺はそのような存在と関わり合うことなどなかったが、前世の記憶があちらの世界の道の脇などで寝泊まりしている人間のみすぼらしい格好や臭さを教えてくれた。それに近いものを想像させる臭いが洞窟の先からしてくる。
「見えはしないが……おそらく何かいる」
俺の言葉を聞いたチームメンバー全員が警戒を強める。
「いやあああああああああああああああ!? 醜いのが走ってこちらにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
メイ令嬢の悲鳴とともに戦闘が始まった。
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