第9話 友
「久しぶりグレイ」
ホームルームが終わり、今日は授業もないため解散となった。
そのため俺は自己紹介の際に気になったクラスメイト。グレイ・デールに声をかける。
「ん?」
グレイは少し長めの深緑の髪を揺らしながら振り返った。
最初は不機嫌そうな表情だったが、相手が旧知の仲である俺だと分かると表情を緩めた。
「おぉ! 久しぶり!! リヒト、元気にしていたか?」
「もちろん。お前の方はどうだ?」
デール家は我が家と同じく伯爵家だ。父同士も仲が良いため、幼い頃はよく一緒に遊んでいた。記憶を取り戻して以降あまり遊ぶことがなかったが、それでも俺のことを気にして時々顔を見にきてくれていた。
「周りを見てみろ。いつも通りだ」
ホームルームが終わり解散したと言っても初日だ。できたばかりの友人と談笑するために多くの者が教室に残っている。
しかし、グレイの周囲には人がいなかった。
「皆、あのくだらない噂を信じているのか?」
「さぁ? ただ、この状況が答えなんじゃねーの?」
グレイ・デールは化け物である。
そんな噂が社交界で流れたことがあった。噂の出どころは不明。
ただ、不確かな情報でも噂好きの貴族からすれば関係ない。ライバルを蹴落とすことを第一に考える貴族からしても関係ない。故にそういった類の貴族がその噂を更に広めて、今ではほとんどの貴族が真偽はどうあれグレイの名を知っている状態になっていた。
「レティア、君もそうなのか?」
斜め後ろで黙っているレティアに話を振る。
俺目線だと彼女は明るく、良い子なのでこういった噂は気にしないのではないかと思ったからだ。
「そうですね。社交界で有名ですからグレイ様のお噂は耳にしています。ただ、今までは直接会ったことがなかったので、興味があまりなかったと言いますか……」
そうきたか。
噂を信じる信じない以前の話だった。
「で、実際に俺を見てどう思った?」
「分かりません。ただ、リヒト様のご友人ですから噂の真偽に関わらず、お付き合いできればと思っております」
「俺が化け物だったとしても友達になるってことか? へ~、リヒトの彼女さん、なかなか肝が据わってんだな」
「か、彼女!?」
レティアが今まで聞いたことないくらい大きな声を出して驚いた。
顔をよく見ると少し赤い気がする。
「俺とレティアは友人だ。お前、分かってて言っただろ」
「どうだろうな?」
と、こんな感じグレイは揶揄い癖が少しあるものの、基本的に普通の人間である。
「まぁ、いいか。それより二人とも、今からちょっと他のクラスに行って確認したいことがあるんだが、一緒にきてくれるか?」
「何か用事か? 正直、俺はいない方が良い気がするけど」
「気にするな。目的の邪魔にはならないと思ったから誘ったんだ」
「なら、いいよ。ういしょっと」
グレイは同行する気になったようで席を立った。
「レティアはどうだ?」
…………。
「おい、レティア?」
「えっ!? あ、はい! もちろんお伴します!!」
二人を伴い、俺は教室を出た。
今から俺がしようとしていることはゲームの主人公がどうなったかを調べることだ。シナリオ通りだと主人公とレティアは同じクラス。しかし、現実ではうちのクラスに主人公はいない。つまりシナリオに異変が生じたということだ。もちろんその原因は俺なのだが。
とにかくシナリオに干渉したことで主人公が今どういう状況なのかを知りたいのだ。
「ここがB組の教室だぞ。って、人様の顔を見た瞬間、逃げてくなよ」
今年の貴族院は全部で五クラスある。
俺たちのいるA組から始まりE組までだ。
とりあえず隣のB組にきてみたが……やはりグレイの噂はかなり有名なようだ。彼の姿を見るなり、ほとんどの生徒が避けていく。
勝手に道が空いていくのは楽で良いが、その理由があまりよろしくないな。
その後、俺は各クラスで近場にいる生徒に声をかけ、ゲームの主人公が在籍しているかを確かめた。
しかし、どこクラスでも主人公のことを知る人物はいなかった。
「なぁ、リヒト。さっきから探してる、そのレイブンってやつはいったいどんなやつなんだよ」
「私も気になります。ある程度情報でもあれば父に頼んで探すこともできますから」
高々、人探しに子爵が協力してくれるわけ……ありそうだな。ゲームでも主人公に協力的だったし。現実でもまだ俺に恩を返したりと思っていそうだし。
「別にそこまですることでもないんだ。ただ、少し縁のある相手だから、気になっているだけで」
「そう、ですか。ではせめて外見だけでも教えて頂けないでしょうか? 私がその方を見かけた際にリヒト様に報告できるように」
「貴族院にいないとなるとレティアが会う可能性はかなり低いと思うけど、まぁいい。髪は黒で眼は赤。そして身長は俺より少し低いくらいかな。あとはガタイが良くて大剣を背負っているくらいか?」
前世の記憶から、ゲームの主人公レイブンの情報を引き出して話す。
「おいおい、縁が少しあるだけの相手にしてはかなり細かく覚えてるじゃねーか」
「そうか?」
「あぁ。まっ、お前が踏み込んで欲しくなさそうだから、これ以上は聞かないけど」
「そうしてくれると助かる」
レティアとグレイは味方だと思っている。
だからと言って簡単に前世の記憶の話をすることはできない。これは父やヴァンドレにさえ話していないことなのだから。
「私も深入りはいたしません。ただ、リヒト様に命を救われた身として協力はさせてください」
「ありがとう。じゃあ、二人ともレイブンのことは一旦、忘れて食堂に向かわないか?」
「はい、もちろんです」
「初日はパーティーだっけ? いいね」
主人公レイブンの情報は掴めなかった。
だが、貴族院生活初日から友人二人とこうして過ごすことができて、俺はとても満足している。
パーティーの方も楽しみだ。
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