第8話 ゲームと違い

 一月が経過した。

 俺は今日から王都にある貴族院に通うため寮暮らしだ。

 寮と言っても前世の記憶にあるような誰かとシェアしたり、狭かったりするものではない。何せ暮らすのは俺のような貴族の子だ。質素な部屋だと文句が続出してしまう。だから一人で使うとはとても思えないほど豪華な部屋が用意されている。豪華と言ってもあくまで前世の記憶にあるものと比べると、ということになるが。実際、うちの伯爵家の本邸と比べると置かれている調度品の質も劣る。俺の部屋より狭いしな。

 とはいえ、世界を滅亡から救うことを第一に考えている俺からすれば必要なものは十分揃っている部屋なので文句は一切ない。


「さてと、そろそろ入学式だったか。ヴァン――いや、いなかったか」


 今日から付き人は一切いない。ヴァンドレを始めとする騎士もいなければ、メイドや執事もついてきていない。全てを自分でこなす生活。食事などは食堂で無料なため、実際には人にやってもらうことも多いのだが、生活のほぼ全てを使用人に助けられて育ってきた貴族の子の生活と比べれば、自立した生活を送ることになるだろう。

 これは貴族院の院長の考えの一つに『貴族が使用人に世話をさせるのは、それ以上にするべきことがあるからである』というものがあるから。ようは領地経営や賊の対処、魔物退治など、担当できる人間が限られている仕事をするからこそ、使用人に家のことを任せているという考えのようだ。


「ま、一人でもどうにかなるだろ」


 俺は寮にある自室の鍵を閉めて、あらかじめ知らされている自身の教室へと向かう。前世の記憶ではこういうとき入学式とやらをするみたいだが、王国にそのような習慣はない。代わりに、入学初日の食堂の料理が豪華になりパーティのような雰囲気になるらしい。


 パーティはそれほど好きではないが、主人公の行動を上手くシナリオと遠いものにするためにも仲間は作っておいた方が良い。なんてことを考えながら教室に入ると――――。


「おはようございます! リヒト様」


 なんとレティアがそこにはいた。

 まさか同じクラスだったとは。

 ゲームのシナリオから、レティアが貴族院に入ることは分かっていたがクラス分けに関しては知らなかった。だから少し驚いてしまった。


「おはよう、レティア。同じクラス、ということか?」

「はい。私はこのA組の生徒として一年間生活することになりました」


 俺も同じくA組だ。

 これでレティアが何か用事でこの教室にいただけという線は消えた。正真正銘クラスメイトらしい。


「そうか。知り合いがいてくれて嬉しいよ。一年間よろしく」

「私も嬉しいです! よろしくお願いいたします!!」


 こうしてレティアと再会を果たした俺は二人で教室の後方の席をとった。どうやら席は早い者勝ちらしいので、適当な場所に二人で座った形だ。


 レティアと他愛のない話をしながら、教室に入ってくる生徒を見ていた。

 ゲームだと主人公とレティアは同じクラスだったが、果たして――――。


「皆さん、はじめまして。本日からあなたたちの担任をするファムリ・テトリアよ」


 結論から言うと、主人公はうちのクラスのはこなかった。別のクラスなのか、もしくはゲームで彼を貴族院へと押し込んだファンデフェン子爵のような存在がいなくてここにはきていないのか。どちらにせよ、後で調べる必要があるな。


「私ももちろん貴族だけれど、貴族院内では基本的にそれぞれの家の当主の爵位は関係ないとされているから、それほど畏まらなくて良いわよ」


 テトリア、確か俺と同じく伯爵家の性だ。

 うちの父とは敵対もしていないが、仲良くもない。単純な教師と生徒の関係を築きやすい関係性だな。

 逆にレティアのように家格が下の貴族たちは最初は気を遣うことになりそうだ。そのうち慣れてきそうではあるが。


 ファムリ先生の自己紹介が終わった後は生徒の番だった。前の方の席にいる生徒から始まり後は席順通り。あまり自己主張の激しい生徒はいなかったため目立つ者はいなかったが、少し気になる者はいた。そのためホームルームが終わり解散になったら、彼に声をかけようと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る