第7話 子爵
レティアが乗っていた馬車で俺たちはティッポまできた。そして彼女に案内されるがまま、ファンデフェン子爵家の屋敷へと向かった。
最初にレティアの姿を目にした門番は慌てふためき、次に会った執事は目から涙を流していた。どうやら彼女が抜け出したことはすでにバレいて、追手を出したのだが姿が見つからなかったため何かあったのではと屋敷中がざわついていたようだ。
実際に盗賊団に襲われていたので何かはあったのだが、手を出されるようなことはなかったと知ると皆安心したそぶりを見せた。
俺たちは予定通り別の場所に用があり、たまたま通りかかったところ盗賊団と遭遇。討伐を行ったという話になっている。その場にレティアもいたため、放置できずに送り届けたという流れである。
現在、俺たちは屋敷の客間で待機中。
レティアだけ服がところどころ破けたりしていたため、急いで着替えに向かった。
「リヒト君、本当にありがとう」
客間の扉が開いた。小太りだが人のよさそうな中年の男性が入ってきたかと思えば、礼を言われた。
どうやらレティアの父であるファンデフェン子爵ようだ。
「いえ、偶然通りかかっただけなので。ただ、御者は救えませんでした。申し訳ありません」
民を守るのは貴族の務め。我が国ではそう言われている。そのため謝罪を口にした。
「何を謝ることか。娘を救ってくれただけで十分だ。しかし、御者もこのままでは不憫だ。あとで騎士たちに死体を回収させて埋葬くらいはしなければな」
「――――あの、お待たせしました! リヒト様」
子爵と話していると着替えてきたレティアが部屋の入り口からひょこっと顔を出す。
「待ってないよ。気にするな。それより自分の口から改めてお父上に無事を報告したらどうだ?」
「あっ、そうでした! お父様、勝手に抜けだしたりして本当にごめんなさい」
「……言いたいことはたくさんある。が、それは恩人の目の前ですることではないな。あとでしっかりと話し合いをしよう。いいね?」
これはレティアはあとでしっかりとお叱りを受けそうだ。
しかし、今回の件は子爵にはあまり非はないため、仕方ないだろう。
レティアは少ししゅんとした姿を見せる。
「それよりもレティア、本当に何かされたりしなかったのか?」
「はい。リヒト様が助けにきてくださったので。何度か転んだので小さな怪我はしましたが、それ以上のことはありませんでした」
子爵は娘の口から改めて無事だと聞き、安堵する表情を見せた。
「では、俺たちはそろそろ帰らせて頂きます」
娘の無事を喜ぶにしても俺たちは邪魔者だろう。ここは一旦、帰るのが正解だと思う。
「も、もう帰るのかい? まだお礼が何もできていないというのに」
「はい。家族だけで話したいこともあるでしょうし」
「配慮は助かるが……流石に礼をしないというのは」
「でしたら一応今回の出来事は父に報告するので、父宛てに感謝状の一つでも送っておいてください。俺自身は特に見返りが欲しくて助けたわけではないので」
子爵はしっかりしてそうなので、万が一俺が父へ報告しないと言っても感謝状を送ってきそうだが。一応、父に報告するということは伝えておいた。
「もちろんシュマイケル伯爵家へは感謝状を送らせて頂くが……うーん」
「では、せめてこれをもらってくれませんか? リヒト様」
俺と子爵のやり取りを見ていたレティアが何やら小さな黄色いお守りのようなものを渡してきた。
「私の手作りなので、価値はありませんが……流石に何ももらって頂けないとなると父も困ってしまいますので」
「お守りか。手作りだと言うのなら、断るわけにはいかないな。ありがとう、もらっておくよ」
「では、子爵俺たちは失礼しますね。レティアまた会おう」
「!? はい、是非!!」
レティアを救った俺たちはそのままどこかに出かけるわけでもなく、真っ直ぐに伯爵家の屋敷へと戻ったのだった。
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