戦い方

「ショウよ!この漫画の続きはどこにあるのだ!」


学校から帰ってきてしばらくした後、セラスが勢いよくそう言い放った。てかこの吸血鬼ダラダラしすぎでは?あんた仮にも夜の王だろうよ。


「ん?あぁそれならまだ買ってないぞ」


セラスが持っていたのは俺が買って本棚に入れてあった漫画だ。この漫画の次巻は既に出ているがまだ買えていない。


「次はどこにあるのだ!」


「だから買ってこないと無いって」


「ならばすぐに買ってくるが良い!」


えぇ…


「えー、やだよ。自分で行ってくればいいだろ?」


「ならん!妾はショウが続きを買ってくるまでこれまでの振り返りをしておかなければならぬのだ!故に妾はここから動けん。ならば誰が動くのか。眷属のお前しかおらぬだろう」


「お前人使いが…吸血鬼使いが荒すぎるだろ…」


まぁ眷属である俺が主であるセラスにこんな口調でいるのも本来はありえないことなんだろうが。


「グダグダ言うでない。早く行ってくるのだ」


「はいはい…分かりましたよ我が主」


あいつ…今朝までゲームに没頭してたのに次は漫画かよ。まぁ…楽しそうだからいいか。


と、言うわけで俺は現在夜遅くまで開いている本屋に漫画を買いに来ていた。


「えーと…あ、あった」


俺は目的の漫画を買い店の外に出る。辺りはやはり真っ暗。だが俺には鮮明に景色が見えている。これも吸血鬼としての能力だろうな。


さて、漫画も買えたしもう帰ろう。そう思い足を動かそうとしたその時、目の前にある服を着ている人物が見えた。


「っ!」


白いローブに黒いライン。間違いない。『掃除屋』の制服だ。


ついて無さすぎだろ!二日連続で掃除屋を見かけるなんて…もしかしたら樹京かもしれない。俺は彼女と争いたい訳じゃない。もちろん彼女だけじゃなく掃除屋の誰とも争わないのならそれが一番だ。でもそうはいかない。相手は吸血鬼を殺すことに特価した組織だ。間違いなく俺が吸血鬼だと分かった瞬間、躊躇いなく殺しにくるだろう。


バレないように隠れておこう。俺は近くにあった路地裏に身を隠した。軽く頭を出して掃除屋の制服を着た人物が居るか確認する。


「…?」


だが俺の目には既に掃除屋は映っていなかった。どこかに行ったのか?


「おいお前。さっきから俺の事見てたよな」


そんな声がすぐ後ろから聞こえてきた。


「っ!」


俺は勢いよく後ろに振り返る。そこには短い髪を逆立てて頬に大きな傷がついている男が立っていた。年齢はおそらく俺よりも上だろう。


「なにそんな慌ててんだよ。別に怖がることないぜ?俺はただ散歩してただけなんたからよ」


目の前の男は笑いながら明らかに嘘だと分かる言葉を吐いた。


「…そうなんですか。俺、帰りを急いでるのでもう行きますね」


吸血鬼だとバレては居ないはずだ。ならそうそうに切り上げるのが正解だろう。


「まぁ待てよ。俺は今人を探してるんだ」


「人?」


もう散歩とか嘘つかねぇじゃん。きっとこいつの言っている人というのは吸血鬼のことだろう。


「あぁ、そうだ。何か知ってることねぇか?」


「…そんなこと言われましても」


「そうだなぁ…特徴は高校生くらいの見た目で」


そこで男の眼力が強くなり俺を睨みつける。


「特に特徴のない普通の見た目のやつ」


…多分俺の事だろう。きっと樹京が掃除屋に情報を話したのだろう。そしてこいつは俺の事を疑っている。


「…なんだか俺みたいですね。あいにくそんな人知りません」


俺は平静を装いながらそう返す。


「そうかぁ…。それは残念!」


そう言うと男はとてつもないスピードで俺の目の前まで接近してきた。右手を後ろに引きスピードを生かし殴りかかってくる。


「くっ!」


俺は後ろに飛ぶことで何とかその拳を避けることが出来た。


「いきなり何するんだ!」


俺はそう叫ぶ。


「おいおい。今のを避けるってのはおかしいなぁ?自慢じゃねぇが俺は腕っ節にかなり自信がある。それこそ一般人にはぜってぇに負けねぇくらいの自信がな」


そう言う男は確信を持ったメディア俺の事を見てくる。…これは逃げられそうも無いな。


「そんな俺の拳が避けられた。ましてやおめぇみたいなガキに、だ。しかもなんだその馬鹿げた跳躍力は。もう隠せねぇだろうよ?どうやら俺の探し人はお前だったようだな」


男は獲物を見つめる獰猛な猛獣のような顔でそう言った。


「…俺はあなたと争いたくない。どうか見逃してくれないか?」


俺は期待せずにそう言ってみる。


「おいおい。それはなんの冗談だ?俺は掃除屋でお前は吸血鬼。その時点でどっちかが死ぬことは確定してんだよ」


「やっぱり無理か…」


「聞けばお前、あの夜の王の眷属らしいな?」


俺がセラスの眷属だってこともバレてるのか。


「せいぜい俺を楽しませてくれよ!」


その言葉と同時に男が再び勢いよく俺に飛びかかってくる。これは戦うしか無さそうだ。そう感じた俺は買った漫画を放り出し、地面を蹴り爪を鋭くし迫り来る男に振り下ろす。


「はぁ!」


見たところ男は今までの掃除屋のような異形の武器を持っていなかった。これなら無力化できるかもしれない。


だが俺の振り下ろした爪は男の拳に呆気なく弾かれた。


「なっ!」


男が素早く二発目の拳を放つ。俺はそれを避けられずモロに顔面に食らった。拳を受けた俺はそのまま勢いよく吹き飛び地面に体を擦り付けながら倒れた。


「ぐ…クソ…」


今ので鼻と歯が折れた。激痛が走り血の味がする。俺は素早く立ち上がり男を見る。だが俺の目の前に既に男はいなかった。


どこだ?


そう思っていると上から声が聞こえてきた。


「ここだ」


不味い!避けられない!


咄嗟にそう判断した俺は左右の腕を自分を守るように身体の前に出す。


「おらぁ!」


「ぎっ!」


勢いよく殴りつけられた俺の腕はあっけなく陥没した。再び俺は勢いよく後ろに弾き飛ばされる。今度は転がることなく何とか地面に足で着地する。


やはりだ。


「再生が遅い…」


最初に殴られた鼻と歯が今ようやく治った。セラスに腕をもがれた時はもっと素早く再生したはずだ。どうして…


「なんだお前。もしかして『天使』のこと知らねぇのか?」


「…『天使』?」


仰々しい単語に思わず聞き返してしまう。


「お前、樹京と戦ったんだってな。その時に武器持ってなかったか?あれが『天使』だ」


なるほど…あの現実離れした武器…あれが『天使』と言うのか。


「そして『天使』は吸血鬼を殺すことに特価した武器だ。だから『天使』から攻撃を受けた吸血鬼は自慢の再生力が落ちるってわけだ」


だから樹京から受けた傷も治りが遅かったのか。だが目の前の男は『天使』を装備していないはずだ…


「俺は『天使』を持っていない」


「っ!」


俺の考えを見透かしたのか男がそう言ってくる。


「そう思ったか?よく見てみろよ」


そう言って男は拳を俺に突き出しす。その中指には月で反射して光るリングが嵌められていた。


「これで分かったか?このリングが俺の『天使』。『カマエル』だ」


「…」


吸血鬼である俺にそんなことを話したのは、話したところでなんにもならないからだろう。たとえ『天使』によって攻撃された吸血鬼が普段より再生力が落ちると分かっても吸血鬼側には為す術がない。出来ることと言えばせいぜい攻撃を受けないように注意することくらいか…


「ところでお前本当に夜の王の眷属なのか?ちと弱すぎないか?」


男は退屈そうにそう言った。


「悪かったな。吸血鬼には最近なったばっかりなんだよ」


「なんだよ。せっかく楽しめると思ったのによ。まぁ早い内に芽を積んでおけると考えればまぁいいか」


折れた鼻と歯、そして腕がようやく治った。俺は吸血鬼だ。大体の傷はすぐに癒える。死ぬことはほぼないだろう。だがその再生力を抑制されるとなると…これは迂闊に攻撃を喰らえないな。


俺は翼を生やした。そして飛び立つ。


「逃がさねぇよ!」


男は素早く走り出し俺目掛けて飛びついてきた。


「マジかよ!」


既に俺は地面からかなりの距離を飛んでいる。おそらくビル三階くらいの高さはあるだろう。誰が馬鹿げた跳躍力だ。お前の跳躍力も大概馬鹿げてるじゃねぇか!


「くそ!」


拳を振り上げて飛びかかってくる男に大して俺は足で対応する。


「~~~っ!」


男の拳と俺の足がぶつかる。だが俺の足はあっけなくポキリと折れてダランとぶら下がる。


「いってぇな!」


だが何度もやられてばかりは居られない。折られた方の足とは逆の足で拳を振り切って無防備になっている男の顔面を蹴りつける。


「ぶっ!」


顔面を蹴られた男はものすごい勢いで地面に叩きつけられて辺りには砂埃が舞っていた。やっぱり吸血鬼の力って相当強いんだな…


俺はそのまま飛び去ることはせず警戒を続けていた。今背中を向けて飛び立とうものなら後ろから拳で体を貫かられるだろう。


「カカカッ!なんだよ!結構やるじゃねぇか!」


砂埃が晴れ男の姿が顕になる。男は全く堪えた様子はなく楽しそうに笑っていた。


「ピンピンしてんじゃねぇか…」


「当たりめぇだろ?そんな程度でくたばってたまるかよ」


圧倒的に俺の方が弱い。だがさっきの一撃を入れたことで少し戦い方がわかった。


相手は格上。間違いなく普通にやれば俺は負ける。だが俺は吸血鬼だ。どれだけ負傷しようと再生する。流石に頭を粉々にされたら死ぬかもしれないが…だがそこさえ気をつければ俺は不死身の戦士だ。


負傷覚悟で攻撃するしかない。


それが吸血鬼おれの戦い方だ。



あとがき

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