発見

セラスの言ったように本当に一日寝ることが出来なかった。だと言うのに全く疲労感を感じない。むしろ頭はスッキリしている。


カーテンを開ける。すると朝の日差しが入り込んでくる。その日差しによって俺の体が灰に…なんてことは無かった。


「本当に平気なんだな…」


確かに日光に当たると多少の気だるさは感じる。だが日常生活には全く影響しないような軽さだ。


「だから言ったであろう?妾ら上位吸血鬼は弱点などないと」


改めて聞くと本当におかしいよな。もしセラスのような吸血鬼が好き勝手に暴れたりなんかしたら地球滅ぶんじゃないか?


「まぁ普通の吸血鬼は日光に当たれば灰になって死ぬがな」


「…やっぱりそうなのか?」


「あぁ、日光やニンニク、十字架などが平気なのは一部の吸血鬼だけだ。普通の吸血鬼にとってはそのどれもが天敵と言えるだろう」


「…」


「どうかしたか?」


「いや、セラスって本当に凄い吸血鬼なんだなって…」


一万年という気が遠くなるような時間を生きてきた吸血鬼。やはり話を聞いてもまだ現実味がない。


「む、信じておらんかったのか?」


「そういう訳じゃないんだけどさ…なんというか…やっぱりまだ現実味がなくて」


素直に今思っていることを伝える。


「ふむ。まぁ無理もなかろう。昨日までは人間として生きてきたのだからな。そのうち慣れる」


慣れる…か。きっと俺ももう時間という概念がないんだろう。歳も取らないし死にもしない。人間という概念から離れた存在になった。


「学校行かないと」


「そういえばショウはまだ学生だったな。今のうちに楽しんでおけよ?嫌でもこの先何百年と生きていくのだからな」


「…うす」


セラスが言うと言葉の重みが違う。何百年も生きていく。言葉で聞いたところで全くそんな気はしない。でも俺はもうそういう存在なんだ。今は無理でも徐々に受け入れていかないとな…


それから俺は朝の支度をした。いつもなら顔を洗って朝ごはんを食べるのだがお腹が全くと言っていいほど空いていない。これも吸血鬼化の影響なんだろうな。


「じゃあ俺は学校行ってくるから、大人しく待っててくれよ?」


「む、妾を子供か何かだと思っておらぬか?心配せずとも妾ら吸血鬼は人の目が少ない夜にしか活動せん」


確かに昼間吸血鬼なんて見た事ないよな…


「それじゃあ行ってくる」


「ショウ、大丈夫だとは思うが気をつけるのだぞ」


「?あぁ」


なんだ?セラスって母親気質なのか?


この時の俺はそんな呑気なことを考えていた。そして俺は全く理解していなかった。吸血鬼になるということの意味に。


学校に行く途中、声をかけられた。


「翔、おはよ」


「ん?あぁ静菜か。おはよう」


俺に声をかけてきたのは立浪たつなみ 静菜しずな。静菜は俺の幼馴染で小さい頃からよく一緒にいた。


「今日も朝から覇気のない顔してるね」


「おう、喧嘩売ってんのか?」


「冗談だよ」


そう言いながら静菜は笑う。いやまぁ多分本当にそんな顔してるんだろうけど…


しばらくは他愛のない話をしながら歩いていた。


「ね、翔は知ってる?」


唐突に静菜がそう聞いてくる。


「何がだ?」


「吸血鬼の噂」


そう言われた瞬間、俺の心臓が激しく跳ねる。


「あ、あぁ…なんかクラスの男子がそんなこと言ってたな」


静菜に動揺していることがバレないように平静を装いながらそう返す。


「翔はどう思う?吸血鬼の噂」


静菜が俺の目を覗き込みながらそう問いかけてくる。


「そ、そんなのいるわけないだろ?漫画の世界じゃあるまいし」


今までの俺ならなんの疑いもなくそう言い切ることができただろう。だが今は澱みなく言い切ることが精一杯だった。


「…そうだよね!そんなのいるわけないよねー」


静菜は俺から目線を外しながらそう言った。


「あ、でも一応夜は外に出ないようにしなよ?何があるか分からないからね」


「お前は俺の母親か」


「そうですけど?」


「いや違いますけど?」


そんなくだらないことを言いながら学校へ向かう。なんとか俺が動揺していたことはバレていないようだ。まさか静菜も俺がその吸血鬼だなんて思ってないだろうな…


それから一日は毎日と変わらない日だった。授業を受けて帰るだけ。吸血鬼になったせいで全く眠気が来なくて授業をフルで受けなくてはならなかった。友達もいないから遊びもしない。まぁ今日も委員会活動で夜遅くになったんだけどな。何やら昨日の作業に不備があったらしい。


それでようやく帰れるようになった時間には既に外はどっぷりと日が沈んでいた。そして気づいたことがある。なんだか力が湧いてくる。これは恐らく吸血鬼の習性によるものだろう。



俺は無言で少し早足になる。目指すのは近くの公園。そこなら人の目もないはずだ。俺は昨日の感覚が忘れられないでいた。空を飛んだあの感覚を。覚えたのは高揚感。それをもう一度味わいたい。


そう思ってしまったのが間違いだった。


周りを見渡し誰もいないことを確認する。そして俺は昨日セラスに教えて貰った感覚を思い出す。元々翼が体の一部だったかのように…


背中に違和感を覚える。そしてそのまま翼を出現させる。翼は問題なく出現した。


「よし…」


高まる気持ちは最高潮を迎えていた。夜空はすぐそこだ。羽を動かせばすぐそこに…


「吸血鬼を発見。これから速やかに排除に移る」


「!?」


そんな声が聞こえてきた瞬間、俺の世界は反転した。



あとがき

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