第17話 ぼっち?
エリシアから『ノアとの関係をスッキリさせる』という指令を出されたシアン。
しかし今現在、シアンの心配ごとは他にあった。
(ま、マズいよ。このままだと、ぼっちになっちゃう……)
エリシアと再会した翌日は登校日。
新入生にとって登校初日はとても大事な日である。
ここ数日の行動次第で、今後の学校生活における人間関係は大きく左右される。
高校デビューなんて言葉もあるように、新しいコミュニティでは第一印象によって今後の立場やキャラ付けが変わってくるのだ。
さて、そんな大事な初日だが、シアンは自分の席に座っていた。
ちなみに学園の教室は、正面に青黒い黒板があり、茶色い木目調の机と椅子が並んでいる。
調度品や内装がオシャレなくらいで、一般的な日本の教室をイメージしてもらえると分かりやすい。
シアンの席は窓側の一番後ろ。主人公席なんて呼ばれるような場所だった。
(だ、誰か話しかけてくれないかなー)
しかし、今のシアンは主人公というか、ただのぼっち生徒である。
レイラやエリシアは貴族であるため完全に別クラスだ。
すでに繋がりがあったのか、クラスには緩いグループが出来上がりつつある。
しかし、集まった生徒たちは、ひそひそと内緒話をしながらシアンを遠巻きに眺めている。
なぜか噂になっているようだ。
シアンは気まずくなって外を眺めている。その姿は黄昏ているように見えるが、内心では『誰か話しかけて!? なんで見てるだけなの!?』と焦っていた。
そんな哀れなぼっちくんに救いの手が差し伸べられた。
一人の女子生徒が、トコトコと小走りにシアンへと走り寄った。
「ねぇねぇ、キミって『レイラ・グレイシア』様に仕えてる人だよね?」
「あ、はい。そうです」
「やっぱり、しかも昨日はノア聖女に抱きつかれてたでしょ!?」
「……はい」
『そ、それかー!!』と、シアンは心の中で叫んだ。
なぜひそひそと噂されているのか、なぜ誰も話しかけてこないのか。シアンはずっと疑問に思っていた。
その答えがこれである。
(そ、そうだよね! 入学式に有名人に抱きつかれてたら、噂になるよね!?)
つい昨日、シアンはかつて仕えてたノアと再会した。
そして出会いがしらには、涙を流すノアに抱きつかれたのだ。
あの場には他にも下校中の生徒たちがたくさんいた。目撃者多数。現行犯で逮捕だ。
聖女として有名人であるノアが、涙を流しながら抱きつく。そんなの噂になるに決まっている。
特に色恋沙汰に飢えている十代若者は大喜び。ハンバーグに喜ぶキッズくらい食いついたのだ。
「どうしてノア様に抱きつかれてたの!? もしかして女の子同士で付き合ってるの!?」
「えっと……昔の知り合いなんだ。もう会えないと思ってたから、また会えて嬉しくて……」
女子生徒に答えると、他のクラスメイトも『なるほどなぁ』と頷いていた。
心なしか、ひそひそ話や視線が減った――なんてことは無く、むしろシアンに注目が集まっていた。
「スゴイ……侯爵令嬢に仕えながら聖女とも知り合うなんて……」
「貴族派と平民派の重鎮だぞ……あの子、何者なんだ?」
「知り合いってどんな関係なのかな。もしかして、聖女が侯爵令嬢に送り込んだスパイとか!?」
どうやら、二人とも政治的に注目されている人物らしい。
シアンを中心として、陰謀論みたいな話まで出ている。
「ふーん。なるほどねぇ……これは聖女様の片思いかも……」
しかし、シアンと話していた女子生徒は違う意味でシアンに興味を示したらしい。
なにやらニマニマと笑みをこらえながら、ねっとりとした視線でシアンを見つめていた。
この場にエリシアが居れば『コイツ、勝手に変な妄想してやがるな?』と察知できただろう。
しかし、今はシアンだけである。
(とりあえず、誤解は解けたみたいで良かった……)
当然ながら気がつかなかったポンコツ元暗殺者である。すでに暗殺者ではないので、今はただのポンコツだ。
「ねぇ、良かったらお友達になってくれない?」
はたして、どういう目的なのかは分からないが、女子生徒はにこりと笑って手を差し出してきた。
シアンは慌てて握手をする。
「あ、はい。よろしくお願いします。ボクは『シアン・アーティファクト』です」
「よろしくね。シアンちゃん! 私は『フレン・ドーラ』です。フレンって呼んでね☆」
フレンはきゃぴっとピースサインを作った。
シアンもほっと一安心。『これでぼっちは回避できた……』と胸を撫でおろす。
「それにしても、シアンちゃんは凄いよねー。侯爵家のご令嬢に仕えながら、聖女様とも知り合いだなんて」
「うーん……たまたま良くし貰っているだけで、ボクはなにも凄くないよ……」
「いやいや、凄いよー。私からすると、レイラ様なんて
ヴォルゼオス帝国では少しずつ政治や経済の状況が変化しており、かつてに比べて平民の地位は上がっている。
それでも帝国に根付いた階級社会の意識は強いため、平民と貴族には大きな隔たりがあった。
「ふん。滑稽だな!」
「なに、急に話に割り込んできて……」
「貴族に媚びているのが『滑稽だ』と言っているんだ」
シアンの斜め前に座っている生徒が、パタンと本を閉じて振り向いた。
きっちりとした四角いメガネをかけた、神経質そうな男子生徒だ。
「貴族なんて身分は旧時代の異物だ。隣国である共和国のように、いずれ貴族なんて身分は消えてなくなり、民衆が政治を主導するようになる」
「えっと……まずお名前を聞いても良いかな?」
「シアンちゃん、この人は『グラスト・レーンズ』。下院議員の息子だよ……なんか、めんどくさい思想を持ってるみたいだから、目を合わせない方が良いよ!」
「めんどくさい思想とはなんだ!? 帝国の未来を予想しているだけだ!」
グラストは苛立たし気に、カチャカチャとメガネを直す。
「そして、シアンくんには助言をしておこう。あの女――『レイラ・グレイシア』の元から離れた方が良い!」
グラストは犯人を言い当てた探偵のように、ビシっとシアンを指差した。
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