短編集 猫がいた。

ファンラックス

猫がいた。

 猫がいる。猫は…公園のベンチで弱々しく寝転がっていた。

 俺が猫を撫でると、猫は優しく笑った。

 俺が猫にご飯を与えると、猫はご飯を食い散らかした。

 汚い食べ方だったが、俺は猫を見て、生命力あふれるその姿を好きになった。


 猫がいる。猫は…俺の家に住んでいる。名前は…母が昔好きだった花だ。

 俺が「キキョウ!」と呼ぶとソレは軽々しい足取りで俺のところまで来て、ご飯をおねだりするのだ。

 俺がご飯をあげると、猫は前よりも元気な風に笑って見せたのだ。

 俺は決心する。この時間を失ってはならない…と。





 猫がいる。キキョウは外で遊びたいと、俺におねだりする。

 俺は気が進まなかったが、つぶらな瞳で俺を見つめるこの子のために、あのに連れて行ってあげることにした。

 俺は公園の遊具で遊ぶキキョウを見ていた。階段を登り、滑り台を滑る…

 俺はそんなキキョウを見て、幸せをただ…ただ感じていた。





 猫がいない。違う…俺はから強制的に引き離された。

 俺はあの公園で捕まり、ここは暗い檻の中。

 俺がどれだけその名を叫ぼうと、返ってくるのは怒声のみ。

 俺がどれだけキキョウを思っていようと、俺の声は…かき消された。

 俺は震えた声で泣いた…泣いた…泣いた。


 俺は檻から出された…が、今の俺には何も無い。

 俺にはキキョウを失い、全てを失った。

 俺が持つのは壊れた心で、俺は心のありかを探すようにあのへと向かっていた。












 猫が…いた。俺が出会った時のように、いや…キキョウがあの時よりも元気な姿で…いた。

 俺はキキョウに一目散に向かい、思いっきり抱きしめた。

 俺は泣き、キキョウもないていた。

 キキョウは…俺をここで待っていたのだ。


 猫がいた。いや…彼女はもではない。純白のドレスを身につけて、こちらへ向かってくる姿はまるで…だった。

 俺はキキョウとキスをし、二人で永遠の愛言葉を言い合った。


「「ここに…永遠の愛を…誓います」」






 これが彼女と私の、だ。





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