第4話:女郎蜘蛛。

次の日、金貸しのあるじの事件の犯人を追って幸太郎と月鈴と侍女の呂衣呂衣ろいろいは朝からとある遊郭の玄関前にいた。


店の門の上に「蜃気楼しんきろう」と大きな看板がかかっていた。


「へ〜ここ月鈴ユーリンんちの紗蘭宮のライバル店じゃん?」


「ここだと思う・・・金貸しのあるじの元ガールフレンドがこの遊郭にいるようね」


「同じ穴のムジナで臭いで分かるのか?月鈴ユーリン


「鼻が曲がるくらいプンプン臭う・・・」

「間違いなさそうね、本格的な探りは客が引けた夜になってからだね」


「ここにお金貸しのあるじの、お目当だった元遊女さんがいらっしゃるんですか?」


呂衣呂衣が言った。


「みたいだよ・・・金貸しと懇意だった客の話だと「白小蓮はくしょうれん」って言う遊女らしいね」


「今夜、私お座敷があるからダーリン、あなた今夜またここに来て聞き込み

しといてくれる?」


「え〜俺ひとりで?」

「無理だよ・・・俺、警察でも探偵でもないんだから聞き込みなんて」


「ヘタレダーリン・・・男でしょ、しっかりなさいよ・・・エッチさせないよ」


「なんかあるたびエッチさせないよって・・・餌がもらえない犬みたいじゃ

あるまいし・・・」

「犬はちゃんと臭い嗅ぐよ・・・ダーリンより優秀かもね」


「分かったよ・・・やるよ・・・今夜ここに聞き込みに来ればいいんだろ?」


な訳で、幸太郎と月鈴と呂衣呂衣は蜃気楼から帰りがけに、三之助茶屋で、

お汁粉と団子を食べて帰った。


その晩、月鈴ユーリンはご贔屓ひいきさんが来るというのでお座敷に出た。

月鈴ユーリンに客がつくたびに幸太郎はなんとなくジェラシーに似た気持ちに

なった。

なんともしがたい、やりきれない気持ちだった。


「頑張って大金稼いで月鈴を身請けしようかな・・・身請けの費用っていくらかかる

んだろ?」

「まあ、それは事件が解決してから考えよう・・・さて行くか・・・」


幸太郎は気合を入れて紗蘭宮を出た。

歓楽街は昼間よりも夜の方が賑わっていて酒や女を求めて人々が往来する。

みんな怪しいやつに見えて幸太郎は後ろを振り帰りつつ、早足で蜃気楼まで急いだ。


蜃気楼の前までやって来ると派手な明かりが煌々とついていてすごく入り

づらかった。


躊躇ためらってたら、日が昇って来そうだったので幸太郎は思い切って店の中に

入って行った。

とうぜん、店の侍女あたりが幸太郎を客と思って出迎えてくれると思った。

だからその侍女たちにも話を聞いてみようと思った。

だけど侍女どころか遊女すら世話ババアすら太鼓持ちすら出て来ない。


おかしいなと思いながら奥に進んでいった。


「なんだこれ?・・・」


よく見ると座敷に通じる廊下の天井に無数の蜘蛛の巣が張られていた。

あちこち蜘蛛の巣だらけだった。


店の中には誰ひとりいない。


やっぱり変だと思いながら幸太郎は一番手前の障子戸を開けて座敷に入って行った。

その部屋で幸太郎が見た光景・・・。

何人もの人間が蜘蛛の巣にぐるぐ巻きにされて天井からぶらさがっていた。


「なんだこれ?・・・」

「こりゃ大変だ・・・俺の手に負えない・・・一旦、月鈴ゆーりんのところ

に帰ろう」


そう思った時、どこからともなく雲の糸が幸太郎めがけて飛んできた。

三束くらいの雲の糸が幸太郎の体にからみついた。

ネバネバした気持ち悪い糸だった。


「わ〜なんだよ、これ?」


身動きとれなくなった幸太が無理やり後ろを振り返ると吊り下げられた人を

かき分けるようにて天井から、めちゃでかい蜘蛛が現れた。


「わ、わわわ・・・待て待て待て・・・ば、ば、ば、化け物」


幸太郎を見たデカい蜘蛛が襲いかかろうと天井から睨んでいた。


「わ・・・もうだめだ・・・月鈴ユーリン・・・せめて蜘蛛に喰われる

まえにエッチしたかったよ〜」


そう思った時どこからか鈴の音がして幸太郎の横を何かが蜘蛛に向かって飛んで

行った。


「大丈夫だよダーリン、こいつを片付けたら事件解決だから」

「そしたら、好きなだけエッチさせてあげるからね」


月鈴ユーリン?・・・なんで?」


「やっぱりダーリン一人じゃ心もとないと思って、お座敷ボイコットして来ち

ゃった」

「間に合ってよかった、ダーリン・・・そうじゃないとせっかく心許せそうな

彼氏ができたのに蜘蛛なんかに食べられちゃったら、私泣いちゃうから」


「いろいろ死に方あるけど俺も蜘蛛になんか喰われたくないよ」


「ダーリン、こいつは女郎蜘蛛だよ・・・人間の血液を吸い取って生きながらえてる

えげつない妖怪・・・最初っからこいつが犯人だって分かってたの」


「ダーリン・・・怖い思いされてごめんね、もう大丈夫だから」


「助かった・・・」


つづく。


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