Scene 5:彼の意外な素顔
その後、喫茶店に着いた私たちはにこやかに出迎えてくれた
もちろん、その際に私はおふたりに対して『
ちなみに店内はたくさんのお客さんで賑わっていて、空席はわずかしかない。
あちこちから楽しげな会話が聞こえてくる。カウンターの奥にはコーヒー豆の入った瓶や紅茶の缶などが所狭しと並べられ、ランプの温かな光が店内を優しく包み込んでいる。
私は氷の入ったお冷のグラスを手に取り、それを軽く
「雰囲気の良いお店だね。それにコーヒーの良い匂いが漂っていて、なんだか落ち着くなぁ」
「そう言ってもらえると、俺も身内として嬉しい。で、
「……じゃ、アイスコーヒーにしようかな」
「アイスコーヒーね。食事は?」
「サンドイッチセット……かな……」
「了解っ! ――マスター、アイスコーヒーとサンドイッチセットをふたつお願いしまーす!」
その声に対して、
そして注文が通ったことを確認した
「一応、お店では
「でもそう言っても、食事はタダでご馳走になるんでしょ?」
「それはそれ、これはこれ」
「ぷっ……なにそれぇ?」
「まっ、細かいことは良いじゃん」
「なんか
「そう? ……あ、ここは自分の家みたいなものだから、自宅に友達を招待したみたいな感じで知らず知らずのうちに浮かれてるのかもなぁ」
「きっとそうだよ」
「あっ、この店のことは
「うーん、どうしよっかなぁ……?」
「う……なにその意地悪な言い方。そこは迷わず同意してよ……」
「ふふっ、分かってるっ。みんなには内緒にしておくよ」
私は彼の肩を軽くポンポンと叩いた。ちょっと馴れ馴れしかったかもしれないけど、自然に出てしまった行動だし、彼も気にしていないみたいだから良しとしよう。
ま、そもそも私はこのお店のことを誰かに話すつもりなんて最初からなかったけどね。だってこのお店も今回の出来事も、せっかくの彼と私だけの秘密だもん。
――と、そんな感じでその後はお互いに夏休み中の話をしながら時間を過ごしていると、やがて飲み物と料理が目の前に運ばれてくる。
「「いただきます!」」
私たちの声は
そして私はまずアイスコーヒーの入った縦長のグラスにガムシロップとミルクを注ぎ、それをストローでかき混ぜてから
「アイスコーヒー、冷たくて美味しい」
「ずっと蒸し暑い中を歩いてきたから、なおさらかもね。ガムシロップの甘さも体に染みるよ」
「だねー! じゃ、次はサンドイッチをご馳走になるね」
私はお皿に重ねられた一口サイズのサンドイッチをひとつ手に取り、それを口に運んだ。
その瞬間、心地良い歯ごたえとパリッというレタスの音が響き渡る。続けてマスタードの程よい辛さやソースの旨味、パンの香り、トマトなどの味が見事なハーモニーを奏でていく。
そしてゆっくりと
「レタスがシャキシャキ! トマトも瑞々しくて美味しい! パンは表面が少しカリッとしてるんだけど内側はしっとりとしてて、全体のバランスが絶妙だよ!」
「それは良かった。こっちのタマゴサンドも美味しいよ。――そうだ、俺が食べさせてあげようか?」
「なっ!? そ、そんなの恥ずかしいよ……。それにそういうのは普通、女子から男子にするものでしょ」
「そうなの? 俺は別に男子から女子にしてあげたって良いと思うんだけどなぁ」
「やっぱり
「あはははっ、かもね。でもなんかこんなにも楽しいのは記憶になくて、どうしても気持ちが高揚しちゃうんだよなぁ」
実際、彼は実に楽しそうな顔をしていた。サンドイッチもモリモリと口に運んでいる。こんなに弾けている様子、学校では見たことがない。もしかしたら、現時点ではクラスメイトの中で私だけが知っている彼の素顔なのかも。
…………。
こんなプライベートな姿を見せてくれるなんて、少しは期待しちゃってもいいのかな。思い切って……ちょっと冒険しちゃおうかな……。
私の心臓はドキドキと高鳴ってくる。それを必死に抑えながら意を決し、何食わぬ顔で彼にボソッと問いかけてみる。
「……ねぇ、私が
「っ!? えっ? えぇっ!」
「ウ、ウソウソっ! 冗談だよっ! 真に受けないでよ!」
「そ、そうだよね……あはは……そっか……」
「そうだよ、うんっ!」
私は焦りすぎて、額から汗が滝のように
あぁ、なんでこんな無謀な言動をしちゃったのだろう……。
ただ、
…………。
お、思い違いに決まってる! あるわけない! 私、全然反省してないじゃん!
(つづく……)
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