Scene 2:目まぐるしく揺れ動く心
そのあと、私は
すると口の中には甘さが広がり、飲み込むと喉から胃に向かって冷されていく。耳の奥にはゴクゴクという音が響いている。
そしてひと息をついたところで、私たちはゆっくりと移動を再開させる。
「冷却シートや制汗スプレー、汗拭きシート、タオルもあるよ。ほかにも色々と持ってきてるから、何かあったら遠慮なく言ってね」
「
「でしょ? リュックがないとこれらを持ち運べないから、さっき俺が言ったように見た目に合わない
「んぐんぐっ、ぷはーっ! 冷たくてうまいっ!」
「あははっ、
「ないないっ! そもそも俺は芸能人じゃないし」
「でも
「……へぇ、
「えっ!? あっ……えっと……まぁ……」
せっかく冷えた飲み物で少し涼しくなったのに、照れくささと気まずさで即座にさっきよりも熱くなってしまった。耳まで熱を帯びていて、頭が少しボーッとしてくる。
そんな私を見て、彼はどう感じたのかは分からないけどクスッと小さく笑う。
「ありがと。でも俺は一般人のままが良いな。不特定多数にチヤホヤされるのって苦手だし。っていうか、
「なっ、何を言ってるのっ!? 私なんか普通の何の変哲もない女子じゃん! クラスでは二軍どころか三軍女子だよ! 一軍男子の
「そうかな?
「えっ!? そ、そうなんだ……初耳だな……」
「
「う、うん……善処してみる……」
と、返事をしたものの、やっぱり心の奥底では彼の言葉が納得できなかった。もちろん、彼から
…………。
……そうだ、これは社交辞令なんだ、きっと。勘違いしちゃいけない。だって目立たない私なんか人気者の彼にはどう考えても釣り合わないし、余計な希望を持ったら残酷な現実を突きつけられた時にショックが大きくなる。
思わず
そんな中、小さな間を置いてから
「……雰囲気的にさっ、
「えっ!? ま、まさかっ! 私、今まで誰とも付き合ったことないよ! 自慢できる話じゃないけど……」
「へ、へぇ……。そっかぁ……。そうなんだ、フリーなんだ……」
なんだろう、その
まぁ、考えても仕方ないか……。
「
「俺っ? いないいない! ぶっちゃけ、告白をされたことは何回かあるけど全部断ってるし」
「えっ? なんで断っちゃったの?」
「うーん、想ってくれるのは嬉しいけど、俺自身の中でどうしてもその気になれなかったから。やっぱり中途半端な気持ちで付き合うのは相手に失礼だとも思うし」
「……もしかして
「さぁね! そんなの、この場で言うわけないよ。誘導尋問には引っかからないって」
「ふふっ、誘導尋問だなんて、そんな気はなかったんだけどな。でもなるほど、
と、私が吹き出しながら言った時のことだった。
気のせいかもしれないけど、真っ暗な夜空に閃光が走って一瞬だけ周囲が明るく照らされる。
そして直後に
「きゃっ!」
「雷か……。暗いから雷雲が近付いているのが分からなかったな……。
「う、うん……。ちょっとビックリしただけ」
「今の季節はいつ天候が悪化してもおかしくないからなぁ。まだ雨の気配はないけど、ゲリラ豪雨って突然に降ってくるもんだし。花火大会が無事に開催されればいいけどね」
「そうだね。でも現時点では中止のアナウンスはない感じだし、とりあえずこのまま駅前までは行こうよ」
「うん、俺もそのつもりでいるけどね」
その後も雷の音は断続的に響いてきている。私たちは不安に思いつつも、待ち合わせ場所となっている駅前へ向かって歩いていく。
(つづく……)
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