第5話
私には、みさきちゃんの気持ちがわかる。
ふざけんなよって言いたくなる気持ちもわかるし、あのセリフを言った後の彼女の気持ちもわかるつもりだ。
みさきちゃんは本当にタカヤが好きで、別にセックスなんてどうでもよくて、ただタカヤに自分を見てほしかったんだと思う。
私がタカヤの呪縛になっていることを早々に気付いていたみさきちゃんはタカヤを解き放ってあげたかったからあんなにもタカヤに尽くしたし、タカヤに自分だけを見てもらえる努力を欠かさなかったし、それはタカヤだって気付いていたはずだ。
そして、タカヤが気付いてることにもみさきちゃんは気付いていて、だからこそタカヤが愛情を自分に向けてくれると信じていた。
それなのに、タカヤはみさきちゃんと向き合うことを避け続けた。
それは外から見ている私にはわからない感覚だったんだろうけれど、でも、見つめ合ってるはずなのに自分を見ていない相手の視線の先の存在に気付いた時、誰だって冷静でいられるはずなんてない。
みさきちゃんは半年間、ずっと我慢していたんだ。
でも、我慢の限界だった。これ以上耐えられなかった。
だから、あんな風にタカヤに迫ったんだと思う。
タカヤがどんな反応をするか、
でもタカヤは何も言わなかった。はいもいいえも、否定も肯定もしなかった。
あのふざけんなよには、みさきちゃんの複雑な感情が
自分のことを心から愛してもらえなかったとかじゃなくて、多分、最後の最後まで、タカヤが本心を話してくれないことが、悔しくて堪らなかったんじゃないだろうか。
タカヤのことが本当に好きだったから、好きだからこそ寂しくて、悲しくて、悔しかったんだと思う。
きっと、その感情はタカヤもわかってて、だからこそ何も言えなかったのかもしれない。
適当に取り
でもタカヤはそのどれもしないで、ただ黙ってた。
それはある意味タカヤなりの誠実さというか正直さというか、私もみさきちゃんもタカヤのそういうところにも惹かれてたから全く意外でもなかったんだけど、どうしてもみさきちゃんは我慢できなかったんだ。
ただ素直になってほしいと望んだみさきちゃんと、素直な性格故に何も言えないタカヤ。
誰が悪いんだろう。
もちろん私だ。
私が全ての元凶で、他でもない私がタカヤを不幸にしている張本人なのだ。
タカヤの幸せを望むと言いながら、タカヤに恋人ができることに嫉妬して、タカヤが楽しければいいとか言いながら、そこに私がいないことにも嫉妬して。
心のどこかで私はずっと嫉妬していた。
タカヤが幸せになることに嫉妬していた。
私は死んでしまって、幸せになることなんてできないのに。
タカヤは私と一緒に幸せになってほしかったのに。
タカヤに愛されるのは私だけであってほしいのに。
生者を嫉み続けて、全てが妬ましくて、死者の私はタカヤを呪ってしまっていた。
それは「私という存在そのもの」がタカヤにとっての呪いになるよう祈ってしまったこと。
無意識みたいなものだけど、でも無意識だからこそ
私は誰もいなくなったみさきちゃんの部屋でしゃがみ込む。二人が別れてから三日が経ってもみさきちゃんはこの部屋に帰ってこないし、当然タカヤも現れない。
私は膝の間に顔を
それは私が最低だからだ。おじいちゃんに言われた「親不孝者」という言葉が頭を過ぎるけれど、私が不幸にしたのは親だけじゃなくて、むしろ最愛の人をこそ、最も不幸にしてしまっているのだ。
どうしようもない、最低な人間だ。だから、これは罰なのだ。
生者を妬んだ、罰なんだよ。私は罰を受ける必要がある。もっともっと、罰を受け続けなければならないんだ。
タカヤは私のことなんて忘れたいのに、私のせいで忘れられない。
神様、お願いします。私は一生このまま浮遊霊として漂わされてもいいですし、地獄に落とされても構いません。
でも、タカヤだけは解放してあげてください。
私にはわかりません。どうしたらいいのか、わかりません。
この想いすら、意識をしているのか無意識なのかすらわかりません。
自分が何を考えているのかもわかりません。
だから、お願いします。
タカヤを幸せにしてあげてください。
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