第3話
お葬式にも参列してくれたタカヤは、そこから一度も私の家には来なくなる。というか、近寄らなくなる。
お葬式の翌日にはタカヤは普通の大学生に戻って、タカヤの日常に溶け込んでいく。
授業を受けて、サークルに顔を出して、バイトをして、たまに家のことを手伝いながら、友達と遊びに行ったりして人生を満喫し始める。
私はタカヤが幸せならそれで十分満足だけど、でもそこには私はいなくて、タカヤの隣に私の笑顔はなくて、私はやっぱりそれが寂しい。
私の葬儀から1週間後にタカヤは二十回目の誕生日を迎えて、晴れてお酒を嗜める年齢になる。
それからは積極的にサークルとバイトの飲み会に参加して、タカヤはお酒を飲みまくる。そして吐きまくる。
無理矢理飲まされたっていうよりは、自分でガブガブ飲んでしまうから、周りはむしろタカヤの暴走を止めるんだけど、でもやっぱりタカヤはガブガブ飲んでしまって、お酒に飲まれてしまう。
そんなタカヤを叱りながらドンドン距離を縮めていったのがみさきちゃんという女の子で、彼女は私達と同じ歳なんだけど、童顔なのにどこか大人の魅力もある美少女で、タカヤは二回目のデートでみさきちゃんとキスをする。
私は目を瞑って、その瞬間は見ないようにしたかったけれど、薄目を開けながらしっかりと見てしまうし、タカヤの唇が私以外の唇と重なりあっている映像を脳に焼き付けてしまう。
死んでるのに記憶ってできるんだとか、なるべくどうでもいいことを考えようとするけれど、タカヤが他の女の子と仲良くしてるだけではなくキスまでしていることが正直少しショックで、いや、正直と言うなら本当に正直な心境を吐露すると、死ぬほどショックだった。
でも私はタカヤが幸せになるならそれでいいとも思う。それも本当に正直な気持ちだ。
だから、タカヤがみさきちゃんを好きになったとしても、私はそれを否定しないし、そもそももう指先すら触れることのできない私がみさきちゃんに嫉妬するのもお門違いでしかない。
二人の交際は順調にスタートして、みさきちゃんが一人暮らししているアパートに半同棲みたいな感じでタカヤは入り浸るようになる。
ちゃんと学校も行っているし、バイトも行ってて、友達付き合いもそつなくこなしているけれど、タカヤはみさきちゃんとの時間を一番大事にしているみたいだった。
みさきちゃんも、陰では恋多き女として浮気性を指摘されていたけれど、でも実際はとても一途な女の子で、タカヤ以外の男の連絡先を全て消去して、バイトも女の子しかいない職場を選んで働いてるらしい。
タカヤも浮気はしない。それは私が一番よく分かっている。
それから二人はドンドン仲良くなって、みさきちゃんのお母さんがみさきちゃんの部屋を掃除しに来た時にタカヤと鉢合わせて、今お付き合いさせて頂いています近野ですと告げ、みさきママは「うちの子をよろしくね」と頭を下げたのを見て、あ、これこの感じ、結婚する流れだなと私は思う。
タカヤはうちのお母さんに私との交際宣言をした時と同じ気持ちでみさきママにも宣言をしたのかな。
どうでもいいことだけど、私との時のほうがドキドキしていてくれたんだったらいいなとか、私との将来のほうが具体的に思い描いていてくれてたら嬉しいなとか、今となってはどうでもいいことのはずなのに、私は過去のシーンを妄想しながら悦に浸りかけるんだけど、でもやっぱり少しだけ悲しい。
いやいや、何を言ってるんだ私。タカヤは幸せにならないといけないんだから。
そんな風に自分にツッコミを入れて、二人を見守る。
タカヤが帰った後の部屋でみさきちゃんとみさきママはタカヤのことについて話し合う。
「結構ちゃんとしてそうな男の子じゃない。結婚とか考えてるの?」
そんな風にママの方はかなりノリノリだったけど、「……どうだろ」と、当のみさきちゃんは素っ気ない感じで適当に流す。
みさきママはタカヤを気に入ったみたいだけど、みさきちゃんはタカヤのお嫁さんになる気はないのかな。
まあ、理想の彼氏と理想の旦那さんはまた違うのかもしれないし、付き合うだけで楽しいならそれはそれでいいのかもしれない。結婚だけが愛のカタチというわけでもないし、そういう関係性もあるんだろうな。
とはいえ、みさきちゃんはちゃんとタカヤのことが好きで、タカヤのことばかり考えてるっぽいのが見てるだけで伝わってくる。
料理もタカヤが好きなものばかり練習してるし、タカヤが好きな香水とかタカヤが好きなメイクとか、ファッション面だけじゃなくて、その他にもタカヤの趣味を知ることにも努力していた。
仲良しな二人をボーっと見ていて、私はいつまで出歯亀してるんだとまたもセルフツッコミ。いい加減成仏したいのにできない。
もしかして、タカヤとみさきちゃんがゴールインするまで成仏できないのだろうか。
実は深層心理ではタカヤが幸せになれるのかを私は疑っていて、タカヤが幸せになったと確信しないと天に召されることはできない――という裏設定でもあるのではないだろうか。
このまま十年も二十年も宙を彷徨い続ける気力は私にはないし、世の中にはたくさんの幽霊が存在すると聞くけれど、幽霊も楽じゃないんだなと実感する。人を驚かしたくらいじゃ割に合わないよ。
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