第83話 救出
何も分からぬまま、俺は両手に手錠をはめられて両脇を屈強な大男たちに固められながら地下へと移動する。
ここが俺を牢屋へとぶち込んだ中年騎士ご愛用の拷問部屋らしい。
「ようこそ。歓迎するぞ」
薄気味悪い笑みを浮かべながら俺を部屋へと招き入れる男。
室内はなんとも言えない臭いが充満し、思わず足が止まる。
なんて異臭だ。
よくそんな平気な顔をしていられるな。
「じきに慣れるさ」
俺が顔をしかめているのに気づいた男はこれ以上ないほど満面の笑みを浮かべて言う。これから俺を拷問できることがそんなに嬉しいのか……まるで新しいおもちゃを与えられた子どもみたいだ。
「さて、それでは早速質問へ移らされてもらいたいのだが……豊穣の女神メーテは今どこにいる?」
「やっぱりあの子が狙いか」
「質問に答えたまえ」
低い声でそう告げた直後、俺の左頬を何かが高速でかすめる。
直後、鮮血が近くにあった壁に鮮血が飛ぶ。
よく見ると、男の手にはいつの間にか鞭が握られていた。さっきのはあの鞭から繰り出されたのか。
「さあ、メーテの居場所を言え」
「…………」
「沈黙は反抗的態度とみなす」
「――そうじゃない」
「何っ?」
「語るまでもないってことさ。――向こうから来たからな」
俺は急速に接近するメーテの魔力を感じ取っていた。
連中は魔力の扱いには慣れていないようなので気づかなかったみたいだから助かったよ。
そう……奇襲を仕掛けるには十分すぎる条件が揃っていた。
「この期に及んで何を――むっ!?」
ホラを吹いていると思ったようで最初は信じていなかった拷問騎士だが、突如床から植物が生え始めたのを見て顔色を変える。
「こ、これは……まさか本当に!?」
「だから言ったじゃないか」
拷問されるギリギリのところで、救助が来た。
そう確信した俺は突然の事態に動揺している屈強な男たちの手を払って脱走を試みる。
「な、何をしている! さっさとそいつを捕まえろ!」
逃げ出した俺を追いかけるよう指示を飛ばす拷問騎士。
だが、屈強な男たちはメーテの力によって生み出された植物に巻きつかれて身動きが取れない状態となっていた。
「おのれ! や、やめろ!」
植物たちは拷問騎士にも絡みついていき、彼もまた男たち同様に身動きが取れない状態となる。
これで逃げる時間を稼げる――と、思っていたのだが、今度は正面からこちらへ近づいてくる複数の足音が聞こえた。
しまった。
連中には他にも仲間がいたのか。
迂闊だったと反省していたら、聞き慣れた声が。
「ご無事ですか、ソリス様!」
「っ! ローチ! デビット! ベック!」
俺を助けるために乗り込んできたローチたちだった。
見知った存在を確認したことが安堵感が訪れたと同時にドッと強烈な疲労が襲ってきて思わず足元がふらつく。慌てて駆け寄ったローチたちに支えられてなんとか倒れることは免れた。
「ソ、ソリス様!? 何かされたのですか!?」
「大丈夫だよ、ローチ。ちょっと疲れが出ただけだ。それより、他のみんなは?」
「外で待機していますよ。それに、ゴンザレス町長をはじめ、カザタムの人たちも増援に駆けつけてくれました。すでに騎士団へは通報済みですので、こちらもすぐに到着するでしょう」
「ゴンザレス町長たちが?」
どうやらミリアたちアースロードの関係者だけでなく、カザタムの町が総出で捜索をしてくれていたらしい。
気がかりなのは騎士団の存在だ。
さっきの拷問騎士もこの国の騎士団所属だというし……一体何が起きているっていうんだ。
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