第82話【幕間】一方その頃ミリアたちは……

 ソリスが拉致されてからしばらく経ってようやくミリアたちは事態に気づいた。


「くそっ! これでは護衛騎士失格だ!」


 特にショックを受けていたのは護衛騎士のローチとその部下であるベックやデビットであった。

 主の身を守ることを何よりも優先させなければいけないにもかかわらず、みすみすその主をさらわれてしまっては役割を果たせていないと非難されて仕方ない。


「あきらめるのは早いですわ、ローチ。それにベックもデビットも」

「ミ、ミリア様……」

「まだ誘拐されたと決まったわけではありませんわ。町中を捜してみましょう」

「「「はい!」」」


 メーテを抱きかかえるミリアは三人の奮起を促し、その背中を押した。

 さらにゴンザレス町長へも掛け合い、ソリスの捜索に当たってもらう。


 それだけではない。


 マットの件でソリスはカザタムの商人たちから絶大な信頼を寄せられるようになり、そんな彼が助けようと彼らも協力を申し出てくれたのだ。


 三人が出ていったあとは宿屋の部屋へと戻り、ジェニーが護衛へつくこととなった。


「宿屋の主人の許可を得て、この部屋に強力な結界魔法を張りました」

「ありがとう、ジェニー」


 ソリスが狙われたとなったら、婚約者であるミリアの身も危険にさらされる可能性があるためこのような対応となったが――そのミリアにはある懸念があった。


「……ねぇ、ジェニー」

「はい?」

「もしかしたら……今回の件はうちが――グリンハーツ家がかかわっているかもしれませんわね」

「っ!? ミ、ミリア様!?」


 自分の家族が婚約者の誘拐にひと役を買っている。

 ミリアからすれば、本来は口に出したくはない疑惑。


 それでも、グリンハーツ家はメーテの豊穣の女神としての力を欲しているため、邪魔なソリスを手にかけようとしても不思議ではないとミリアは感じていた。


 するとその時、メーテに異変が。


「あい! あい!」

「どうしたの、メーテ」

「あーい!」


 先ほどまで大人しくしていたメーテがここへ来て急に暴れ始める。

 そんな様子を眺めていたミリアはふとあることを思い出す。


「あなた……ひょっとしてソリスの場所が分かるの?」

「そ、そんな――あっ、でも、聖牛の件ではソリス様たちを追いかけていきましたよね?」

「そうですわ!」


 名案を思い付いたミリアはジェニーに使い魔経由でローチたちを呼び戻すよう伝える。

 

「待っていてください、ソリス……今助けに行きますわ」


 固い決意を胸に秘め、ミリアはゆっくりと立ち上がるのだった。

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