第80話 まさかの事態

 ついに始まった各商会との交渉。

 ゴンザレス町長が仲介人として協力をしてくれたこともあり、三日という早い期間ですべてを終えることができた。


 ……けど、本当に大変なのはここからだ。


 宿屋の部屋にあるテーブルに重なった数々の資料。

 そこには各商会が提示してくれた条件が記されていた。


 条件面に関してはどこもそれほど大差はない。

 商会のクリーン性にしても、ゴンザレス町長が吟味してくれているおかげで怪しい部分は見当たらなかった。


 さて、どうしたものか。


「悩みますわね」

「あぁ……どうしたものかな」


 正直、ここまで似通ってくるとどこでもいいのではって気持ちにならなくもないが、そう簡単に決めていい話じゃないしなぁ。かといって、あまりこちらへ長居するのもよろしくない。向こうでの仕事を一旦止めてきているわけだからな。


 ここはみんなも交えて一度話し合おうと、宿屋の別室で待機しているジェニーたちへ声かけるべく部屋を出た――が、なぜか廊下に数人の騎士が。しかも足取り的に俺たちの部屋を目指しているようだし、何より出てきた俺を指さして駆け寄ってきた。


 もしかして、この前のマットの件でまだ聞きたいことでもあったのだろうか。

 俺は彼らの話を聞こうと足を止める。


 ――だが、途中でどうも様子がおかしいことに気づいた。


 なんというか……こちらを威圧するような眼光を放ち、今にも斬りかかってきそうな気迫を感じるのだ。

 まるで犯罪人と対峙しているかのような――


「えっ? ま、まさか……」


 そこまで考えたら、急に全身から嫌な汗が流れ出てくる。


 パニック状態となっているうちに先頭の騎士がすぐ目の前まで迫っており、低い声で俺に尋ねた。


「ソリス・アースランドだな?」

「は、はい」

「おまえを連行する」

「なっ!?」


 あまりにもいきなりすぎる展開に、俺は何も対応できずただ突っ立っているだけで声すら発せられなかった。


 そんなこちらの様子を尻目に、代表者っぽい先頭の騎士は話を続ける。


「これから取り調べを行う。騎士団まで御足労願おうか」

「い、いや、どういう――」

「詳しい話は詰め所で聞く。連れていけ」

「「はっ!」」


 部下と思われるふたりの騎士が俺の両腕を掴んでそのまま強引に宿屋の外へと連れていく。 

 明らかにおかしい。

 そう感じた俺は叫んでローチたちに助けを求めようとした――が、次の瞬間、腕を掴んでいるひとりの騎士が薬品のような液体の入った小瓶を俺の顔へと近づける。その臭いを嗅いだ直後、俺は意識を失ってしまった。

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