第78話 突然の大人気

 宿屋に詰めかけた大勢の人々。

 どうやら俺たちが目当て――というより、ローウェル地方で収穫された野菜に関心があるようだった。


 まだ豊穣の女神メーテの件については一部のみの人間が知る情報のはず。

 ジェニー曰く、集まっている人たちからもメーテの名前が出ていないので、まだ存在は知られていないだろうとのこと。


 にもかかわらずこれだけの人たちが関心を持ってくれたのは、ひとえに先日のマットの件があるからだろう。


 俺としてはこれからビジネスパートナーとして仲良くやっていけるかもしれないと思っていた幼馴染が騎士団に連行され、やるせなさを感じていたが……皮肉にもそれが周囲の評価を上げる結果になったようだ。


 ロビーに到着すると、すでにそこにはかなりの人数が詰めかけており、ローチたちがなんとか食い止めているようだ。


「あっ! ソリス様!」


 ローチが俺の姿を発見して思わず名前を叫んでしまう。

 それを耳にした商人たちの視線は一気にこちらへと向けられた。


 ……ちょっと怖いくらいの気迫だな。


「おぉ! あなたがソリス・アースランド殿か!」

「あのアースランド家のご子息であれば噂にある活躍も当然!」

「実に素晴らしい!」


 突然始まる猛烈なヨイショ合戦。

 背後にある思惑が透けて見えるなぁ……。


 とりあえず、全員と契約するのはさすがに無理なので厳選することに。

 しかし……これだけの数があるとひとつひとつと交渉しているだけで一年くらいかかりそうだぞ?


 どうしたものかと悩んでいたら、ひとりの初老の男性が俺たちの前にやってきた。

 周りとは明らかに違う、強者のオーラをまとう人物。


 彼が登場した途端、先ほどまでの喧騒が一気に消え去りシンと静まり返る。


 どうやら、商人たちはこの人が何者か知っているようだ。


「失礼。私はこの町の町長を務めるゴンザレスという者だ」

「ちょ、町長!?」


 まさかの町長参戦――いや、でも、町の長が間に入ってくれるというなら助かるが……もしかして騒ぎになっているから出ていけと言われるかも?


 ――だが、そんな俺の心配は杞憂に終わる。


「君たちの活躍は聞いている。ここではまとまるものもまとまらないだろうから、町の健全化に協力をしてくれたお礼も兼ねて手伝おうと思うのだが……どうだろう?」

「ぜひお願いします!」


 即決。

 町長からいろいろとアドバイスをもらえたら助かるよ。

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