第64話 疑惑
面識のあるマットがフォーグ商会の代表となり、話は円滑に進んでいった――と、思ったのだが、ここで思わぬ事態が。
「にゅうぅ……」
「あらあら、どうしましたの?」
突然メーテの様子がおかしくなった。
頬を膨らませて何やら威嚇するような仕草をしている。
その矛先は――マットだった。
メーテはマットに対して警戒心を持っている?
……いやいや、彼はめちゃくちゃいいヤツだ。
おかげでカザタムへ野菜を卸す話もスムーズに進みそうなのだが……そういえば、確かにスムーズすぎないか?
何もかもがうまくいきすぎている。
ここはもう少し慎重にことを運んだ方がよさそうだ。
結局この日、俺はマットへ野菜を卸す件について明確な答えを避けた。彼はまたいつでも来てくれと前向きに考えてくれているようだが、どうしてもあの時のメーテの様子が気になって即決はできなかった。
「ソリス……よかったの?」
あれだけここでの商売に躍起となっていた俺が、マットから提示された話を保留にしたのでミリアだけでなくみんな驚いているようだ。
――ただ、やっぱり全員あの時のメーテのリアクションが気にはなっているらしい。
「彼はいいヤツだし、早いところ契約をまとめて安心したいのは事実だけど……慎重にやっていきたい」
「そうですね。まずはフォーグ商会の評判について情報を集めましょう」
「俺たちで話を聞いてきますから、ソリス様とミリア様はメーテと一緒にそこの庭園でのんびりとしていてください」
「いや、悪いよ。俺も――」
「「いいからいいから」」
ジェニーとローチ、それからふたりの護衛騎士に背中を押され、俺とミリアはローチの指さした方向にある庭園へと移動する。
「あなたもだいぶ歩けるようになりましたわね」
「あーい!」
芝生の上で歩く練習をするメーテとそれを見守るミリア。
まるで本当の親子のようだ――って、これは毎日感じていることだな。
俺は近くのベンチに腰を下ろすと、青空を見上げる。
「マットに限ってそんなわけ……」
「ない」――と、断言したいが、どうにもなぁ。
ともかく今はみんなが集めてくれている情報を頼りにしよう。
判断はそれからでも遅くないはずだ。
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