第63話 幼馴染のマット
リーノ村で収穫された野菜を売るために訪れたフォーグ商会で、俺は衝撃的な再会を果たした。
幼い頃、よく一緒に遊んでいたマットが新しい代表へと就任していたのである。
「先代はどうされたんだ?」
「今も現役の商人として働いていますよ。もっとも、高齢なので以前のようにあちこち飛び回ることはできないようですが。本当なら隠居してもいいはずなのに、ジッとしていられないようです。きっと根っからの商売人なのでしょう」
昔と変わらず穏やかな口調で語るマット。
そこに彼の性格がにじみ出ている。
とにかく優しいヤツなんだよな。
かつての――前世の記憶を取り戻すまでのソリス・アースロードは誰もが認めるクソ野郎だった。にもかかわらず、マットはそんなソリス(過去)に対しても物腰柔らかく、丁寧に接していたな。
互いに豪農と商人という、「それなりに富と名声はあるが貴族ではない」という微妙な立場なので何かシンパシーのようなものを感じたのだろうか。
最初はマットが何かと気にかけてくれていたようだが、次第にソリス(過去)も彼に関心を抱いていったようだが、それが友情にまで発展する前に父親と一緒に外国巡りの旅に出たので疎遠となってしまった。
もしかしたら、マットがずっとこの地にとどまってくれていたら、原作ソリスもあそこまでめちゃくちゃな性格にならなかったかもしれないな。
その後、マットからの提案で待機している他のメンバーも一緒に応接室で話をすることとなった。
彼が一番驚いたのは、やはり婚約者であるミリアの存在だ。
「伯爵家の御令嬢と婚約とは……」
「まあ、いろいろあってな。仲良く暮らせているよ」
自己紹介が終わると、ミリアや彼女が抱いているメーテについていろいろと質問攻めにあったが、俺はそれにすべて答えていく。
ただ、メーテの正体については伏せておき、とある事情から預かっている子どもという設定にしておいた。
メーテはグリンハーツ家が狙っている存在……下手に情報が漏れてマットに迷惑をかけるわけにはいかないからな。
「それにしても、君は随分と雰囲気が変わったね」
ひと通り自己紹介が終わると、マットはニコニコしながら言う。
まあ、実際ほとんど別人みたいなものだけどな。
「それだけ成長したってことさ」
「なるほどね」
「そういうマットこそ、先代の地盤を引き継いでちゃんとやっているようじゃないか。フォーグ商会の評判は今も健在だし」
「そんな。僕なんてまだまだ父上の足元にも及ばないよ」
こんな調子で明るく話は弾んでいく。
……なんだか期待が持てそうだな。
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