第61話 交易都市カザタム
警戒と領地運営――このふたつを効率よく進めなくてはいけないというのが領主としての大変さであり、同時に腕の見せどころでもある。
と、息巻いたのはいいが、俺にそれができるのかちょっと不安だ。
特に領地運営についてはメーテの力で土壌が豊かになったため、安定してきていると言えるのだが、ここで新たに《新規販売ルートの確立》という課題が出てきた。
とはいえ、豪農一家の長男としては今後どうしても避けられない道になるだろう。
豊かな土壌があり、作物の収穫が絶好調でもそれを売れる場所がなければ意味はない。
領地内での流通だけでは限度がある。
新しい販売ルートの開拓はもはや避けられない問題だ。
そこで俺たちは父上が提案してくれた交易都市カザタムへ出向き、そこで領主として初めてとなる交渉に挑む。
「果たして俺にどこまでやれるのか……」
カザタムへと向かう馬車の中で俺は震えていた。
交渉とかって前世も含めてほとんどやったことないんだよな……おまけに相手は百戦錬磨の商人たち。初戦から優勝候補と当たるようなもんだ。
不安もあってか自然と無口になってしまう俺を見かねたのか、反対側の座席でお昼寝中のメーテを抱きかかえていたミリアが空いている手を伸ばし、俺の手に重ねた。
「ソリスなら大丈夫ですわ。もっと自信を持ってください」
「ミリア……」
優しい微笑みとともに励ましの言葉をくれたミリア。
……こんな素晴らしい婚約者がいるのに、弱気でどうする。
「ありがとう、ミリア。おかげで勇気が出てきたよ」
「それならよかったですわ」
俺が元気を取り戻したと分かったミリアはニコッと微笑む。
それと時を同じくして、窓の向こう側に広がる景色にも大きな変化が。
「建物が増えてきたな」
「カザタムが近づいてきた証拠ですわね」
都市部周辺は自然と家屋も増えてくる。それはカザタムも同じで、中心地に近づけば近づくほど人の数も増えていって賑わいが増していった。
そこからさらにしばらく進むと、いよいよカザタムへ入るための検査場が現れた。ここから先は持ち込める物にも制限がかけられるため、それをチェックする作業が始まる。
俺たちの目的は商売のため、護衛用についてきているローチたちの剣やジェニーの魔法の杖以外に攻撃手段となるアイテムを持ち込むつもりはない。
なので、荷物のチェックも滞りなく無事終了。
俺たちは正式な手続きをクリアしてカザタム入りが許可されたのだ。
「さあ、カザタムに入るぞ」
「わたくしも来たことがないのでどんな場所か楽しみですわ」
「あーい!」
ミリアとメーテも初めての町に興奮しているようだ。
さて……交渉も今みたいに何事もなく終わってくれたらいいんだけどな。
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