第52話 信頼
実は密かにリタからの信頼を得ていたらしく、彼女は自分の知り得る範囲の裏事情を語ってくれた。
「最初にこれだけは言っておきたいのですが、先ほど申し上げた『最悪』というのは険悪という意味ではなく、互いに『すれ違い』が起きていることを指します」
「どういう意味だ?」
「当主であるデノア様や兄であるトレドル様は……豊穣の女神メーテの力を得るためにあなたとミリア様の婚約を了承しました」
「っ!?」
政略結婚だとは薄々勘づいていたけども……まさかそんな裏事情があるなんて。
――けど、これでハッキリした。
ずっとモヤモヤしていたグリンハーツ家の狙い。
貴族でもないアースロード家との婚約は向こうにとって何のメリットもなく、政略結婚の意味をなさないんじゃないかって思っていたが、狙いがメーテにあると分かれば合点がいく。
グリンハーツ家は以前からメーテの存在を知っていて、婚約に応じたのか。
……問題はミリアがそれを承知していたか、だ。
「ミリアはどこまでその話を知っている?」
「恐らくすべて」
「そうか……」
「ですが、ミリア様がこのローエン地方で生活を始めてからはずっと偽ることなく素の感情でみなさんと接していました。……信用してもらえないかもしれませんが」
リタは絞り出すようにそう告げる。
その言葉に対し、俺は俺なりの答えを彼女へと語った。
「リタ……俺もそう思う」
「えっ?」
「今日までミリアと一緒に過ごしてきたけど、彼女の言動のすべてが嘘偽りで塗り固められたものではないと確信している。そうだろう?」
「は、はい! おっしゃる通りです!」
急に元気を取り戻したリタ。
きっと、俺から批判されると思っていたのだろうけど、俺からすると裏で仕掛けていたドノルド様たち家族へ怒りが湧いていた。
自分の妹を利用してまでメーテの力を欲するか、と。
「教えてくれ、リタ。トレドル様たちは――いや、グリンハーツ家はメーテの力を使って何をしようとしているんだ?」
地属性魔法に特化し、農家としてはこれ以上ない効果を持つ魔法を使いこなすメーテ。
だが、これはいくらでも応用が利く。
農業以外にも、それこそ戦闘分野にだって多大な影響をもたらす力を秘めていると言えた。
仮にグリンハーツ家が戦力としてメーテの力に目をつけたとなったら……これはかなりヤバい状況だと言えるな。
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