第50話 話し合い
ミリアの兄であるトレドル様は開口一番に意外な人物の名を口にした。
「豊穣の女神メーテ……ここで一緒に暮らしているのだろう?」
「っ! どこでその情報を?」
メーテはその能力の強大さから、しばらく存在を隠しておこうという話になっていた。もちろん、ゆくゆくはアースロードとグリンハーツの両家に直接ことの次第を報告しに向かうつもりでいたが……考えられるのはミリアから漏れた?
――いや、それはない。
彼女はずっとこの地で俺たちと行動をともにしていた。
そりゃあ、四六時中一緒というわけじゃないけど、外部と連絡を取り合っていたような感じはなかったし、何より隠れてこっそりする理由が見つからない。
果たして、なんと答えるのか。
「先日、リーノ村近くで凄まじい魔力が感知されてね。もしやと思ったが、まさか本当に女神様がいたなんて」
……鎌をかけたってことか?
いや、なんとなくだけど、そんな感じはしなかった。
あらかじめ情報を入手しており、それを確認するために尋ねた――俺にはそう映った。
だとしたら、彼の目的はメーテなのか?
けど、どうしてトレドル様がメーテを?
「それで……女神様は今どこにいるのかな?」
そう尋ねてきた彼の表情を見た瞬間、ゾクッと背筋が冷たくなった。
表情はニッコリと笑っているようだが……目の奥はそうじゃない。
底知れぬ闇がどこまでも広がっているような、筆舌に尽くしがたい邪悪さを感じた。
「お、お兄様、メーテは今日頑張ったので疲れていますの」
それまで黙っていたミリアが振り絞るような声で告げると、トレドル様は「そうなんだ」と残念そうに呟いてから立ち上がった。
「なら日を改めようかな。今日はもともと別件のついでに立ち寄っただけだしね」
どうやら帰るらしい。
正直、ホッとした。
これ以上突っ込まれたどう答えたらいいか悩んでいたし。
「では、見送りを」
「いいよ、ここで。じゃあ、また近いうちに……」
そう言って部屋を出ていくトレドル様。
残されたのは茫然とする俺と顔面蒼白となっているミリア。そして、そんなミリアの肩に手をかけて心配そうにしているメイドのリタの三人。
これは……只事じゃなさそうだぞ。
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