第49話 義兄トレドル

 このタイミングで義兄であるトレドル様がうちを訪ねてきた?

 いや、そもそも彼は次期当主の筆頭候補であるため、現当主とともに多忙を極める身だと聞いている。


 実際、トレドル様の名前を聞いてミリアやリタは驚きで茫然としていた。

 急に動かなくなったものだから抱っこされているメーテは気になってミリアの頬をペチペチと叩いているがまったく反応なし。

 それくらいの衝撃を受けていたのだ。


 まあ……直接本人たちから聞いたわけじゃないけど、兄妹仲はお世辞にもよかったとは言いづらいらしい。


 これは父上からの情報だが、トレドル様は非常にエリート志向の強い方で、他者を見下す傾向があったという。グリンハーツ家と初めて顔合わせをした時も、父上はトレドル様から品定めをするような冷めた視線を向けられたと振り返っていたな。


 たぶん、妹とはいえ貴族の称号を持たぬアースロード家と親戚関係になるのが不服だったのだろう。


 しかし……そうなるとますますなぜグリンハーツ家がうちとの婚約を認めたのだろうかって疑問が強まる。

 恐らく、トレドル様は大反対したはずだ。

 それでも半ば強行に近い形で縁談を汲んだその真意とは――スミゲルが情報網を駆使して調べてくれているけど、真相にたどり着けるかは不透明だな。


「いかがいたしましょう」

「……もちろん会うよ」


 スミゲルは心配そうに尋ねるが、俺としては会わないわけにはいかない。

 あわよくば、真相に近づけるヒントが得られるかもしれないし。

 

 ――と言っても、向こうはこちらを毛嫌いしているから、高圧的な態度でくるかもしれないと覚悟しておかないと。


 俺はミリアたちとともに一旦屋敷へと戻り、すでに応接室で待っているというトレドル様のもとへ。


 室内へ入ると、ソファに腰掛けるトレドル様を発見。


「やあ、待っていたよ」


 その第一声は――予想に反して柔らかなものだった。おまけに爽やかな笑顔まで添えられており、緊張していた俺は目食らった形となった。


「急に訪ねてきて悪かったね」

「い、いえ、とんでもない」


 握手を求められたのでそれに応えつつ、他愛ない会話をする――と、トレドル様の視線は妹のミリアへと向けられた。


「君たちふたりと……じっくり話したいことがあるんだ」


 い、一体何を語るつもりなんだ?

 妙な緊張感が応接室を包み込むのだった。

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