第27話 疑惑

 父上への報告は何事もなく無事に終了。


 豊穣の女神メーテの件についても報告をしておいたが、これについてはしばらく黙っておいた方がいいというアドバイスをもらった。


 実を言うと俺も同じことを考えていたため、すでにゼリオル村長をはじめ村人たちには伝えてある。


 この世界にはよからぬ企みをする連中もいるからな。

 メーテの力を悪用しようと乗り込んでくることも十分考えられる。


 一方、ミリアとの挨拶も問題なく終わった。


 なぜか父上以上に緊張していたのだが、それが功を奏したのか両者は互いにリラックスをして話そうと声を掛け合い、最後の方は自然な会話ができていた。


 とりあえずやるべきことはやったので帰ろうとしたら急に父上から呼び止められる。


「すまないが、ソリスだけ残ってもらえるか? 親子水入らずで話したくてね」

「分かりましたわ。それでは先に馬車へ戻っています」


 ミリアとリタのふたりが部屋を出て、残ったのは俺と父上のふたり。


 親子水入らず……とてもじゃないが、父上の口からそういう類の単語が出てくるなんて意外だった。


 ――といっても、裏に隠された事情については筒抜けだ。


「あの子とはうまくやれているか?」


 やはりそこか。


 俺がミリアの機嫌を損ねてせっかくの婚約が台無しになるのを恐れているって感じだ。


「御心配には及びません。彼女とはとてもうまくやれていますよ」

「そうか……ならよいのだ」


 うん?

 なんだか引っかかる反応だな。

 

 てっきり「これからも頼むぞ」とか「くれぐれも機嫌を損ねるな」くらいは言うと思ったんだけど……あまり嬉しそうじゃないな。


 父上の――いや、アースロード家の悲願は国王陛下から爵位を授かり、正式に貴族となること。


 すでにその地盤は整っているが、もうあとひと押し足りないという状況が長年続いていた。


 その状況を打破する起死回生の一手が、伯爵家の御令嬢であるミリアとの結婚だ。


 ……それが実現しそうだというのに、なぜ父上の表情は晴れないのか。


 何か不安を抱えているというか、ミリアに対して何か思うところがあるのか?

 疑問は尽きないが、恐らくこの場で問いただしても答えてはくれそうにない。


 俺としてはあんなに可愛くて性格の良い子がいてくれたらとてもありがたいのだが、どうやらそうすんなりと運びそうになさそうだな。


 とはいえ、父上の方から婚約を破棄するなんて言い出せないだろう。

 それでは相手のグリンハーツ家に泥を塗ってしまうから。


 にもかかわらずあんな反応をしているのは……グリンハーツ家から何か言われたか?

 或いは向こうに何かしら怪しい動きがある?


 いずれにせよ、少し注意をしておくべきだろうな。

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