さあ、帰るときはきた
ポンコツ二世
さあ、帰る時がきた
議会の場は緊張の空気に包まれている。銀河の全種族の代表団は銀河連盟治安維持警察長官のほうをじっと見つめていた。長官はロメリウス星系の種族であり、猛禽類が食物連鎖の頂点に上り詰めた惑星だった。その翼は緊張かそれとも激務のせいなのか、はたまたそのどちらともなのかしなびていた。羽毛は弱り切り、くちばしは心なしか俺かかっているようだ。どの種族もこの老庁が長官の座にとどまり続けるのは不可能だと思っていた。
「ですので、我々は過去の過ちから学び、その…このような組織には慎重に対処すべきことだと判断いたしました…。」しなびた声で長官は言う。その声は翻訳機により全種族の言語に訳される。
「お待ちください。コリネウスにより我が惑星は計り知れない経済損失を被っているのですぞ。今、銀河警察が動いてくれなければ、我が星系の産業は破壊されかねません。そうなれば、我が星系は軍を動かなさねばならなくなります。」ムカデ型種族が抗議する。
それに続いて、様々な声が長官に向かい抗議の声を放った。
「そうだ。もう警察は無力だ。」
「軍を動員し、徹底的にコリネウスを破壊しよう。」
「お待ちください‥お待ちください‥。」老鳥の長官は小さな声でそう言う。しかし、周りの声の洪水に押し流され、翻訳機ですら長官の言葉を訳せなかった。もはや、長官はその場の支配権を失った。つまり、今回の議会の司会としての座を。
さてと、連合会長にはなんて説明すればいいんだ?なにも実りませんでした。銀河連盟治安維持警察長官は現状維持を表明。くそったれめが、こんなことで私はまた連合会長の多大なる不満を聞かなちゃいけないんだ。地球代表であるエド・スミスはそう心の中で悪態付いた。抗議の声はまだまだ続く。しかし、彼は抗議の声を言おうとしなかった。それは彼のスタイルではなかったし、また、地球代表としてそのような姿勢は望ましくなかったように思われていたからだ。
「皆さん‥静かにしてください。過去の過ちをお忘れですか?組織には全惑星にネットワークを張り巡らされているのです‥。これが何を意味するか分かりますか?組織の完全壊滅しようとすれば、全面戦争なりかねません。あの時の戦争時代に逆戻りです。」
あの時の戦争とは「第四次銀河大戦」のことであり、それは全惑星が最新兵器を使い、全惑星は荒廃状態に陥った。地球にも被害が及び、例えば、ニューヨークはかつての栄華は噓のように消え、スズメバチ型種族であるリザー星系軍の最新兵器によりニューヨークは約千年間は太陽が見えない,塵と灰に覆われた黒き都市に変貌した。
それに対応して、国際連合軍の作戦本部はある作戦を実行した。宇宙間音速ミサイに開発したスズメバチ種族専用の殺虫剤を大量に投入し、リザー星系の主要都市に落とした。リザー星系軍は抵抗能力を失い和平案を提出した。それは火星の植民都市を地球に譲るというものだった。そのような因果関係からいまだに地球とリザー星系の惑星間関係はいまだに正常なものとはなっていない。
終戦後は銀河連盟が結成され、価値観の違いを話し合いで行うというのを初めて取り決めた。そのほかには、いかなる場合にも群を別惑星に対して動員しないというものと、別種族を拘束したとしてもその惑星には裁きを下す権利はないというものだった。この条約が破られれば、二度と連名に加入することは許されない。しかし、そのような新秩序は終わりを迎えようとしていた。
その元凶は銀河犯罪組織であるコリネウスである。この組織には様々な惑星の種族が所属しており、銀河連盟条約により禁止されている麻薬である「イーダロス」を密輸している。それにより財を成し、今ではそれぞれの惑星の政治家を買収して犯罪王国を築き上げている。
銀河連盟治安維持警察は動こうとしなかった。銀河連盟治安維持警察の中にはコリネウスに資金提供してもらっている者もいる。もし動こうとすれば、資金提供は打ち切られ、自分が報復として犠牲にされるかもしれない。だから、動こうとしない。
こいつら全員撃ち殺してやればいいんだ。コリネウスの連中もこの役立たずの代表どもも。スミスは心の中でそう思った。やはり、種族の違いは乗り越えられない。あの時はどの種族も希望に満ち溢れていた。ついに野蛮なる時代は終わり、銀河史は新たな歴史を刻むこととなると。そこには戦争などない。そこには神もない。種族が種族として認められる時代が来ると。しかし、待っていたのはこの現実。汚職と密輸、犯罪の正当化。この現状を見たら、銀河連盟の創始者たちはどういうだろうな。怒り狂うだろうか、あきれるだろうか?スミスは三十二歳だった。アメリカのサンフランシスコに生まれ、父は雑貨屋を経営主だった。しかし、戦争で父は出兵。そこで行方不明となった。それはスミスが六歳となった。それからスミスは母と二人きりで暮らした。生活は芳しくはなかったが、それでもスミスには勉強ができた。それにより国際連合の外交官として職を得た。
「無駄な議論をしているほど、退屈なものはないですな。スミス殿。このような現状を知っているのなら代表団の任命など断っていましたよ。」後ろから声がした。
振り向くとそこには緑色のゼリー状の生物がいた。右へ左へ上へ下へ伸びたりしながらしゃべっている。ネーリス星系のアメーバ種族だ。
スミスは翻訳機を眺めながらこう言った。「ええ、あなたの言う通りです。大体といえば、このようなことは各々方の惑星政府に任せておけばいいことなのです。銀河連盟治安維持警察などに頼ることなど愚の骨頂ですよ。」彼はそのような考えを持っているアメーバ種族に同意した。心からだ。
このネーリス星系の代表団は上に大きく体を伸ばした。これは人間でいうところのうなずきを表しているということと彼は勝手に決めつけていた。「我々ネーリス星系は単細胞生物であり、多細胞生物が誕生することはなかった。そこが我々の強みだったのです。我々は種の存続では分裂をすればいいし、食料である繊毛虫は大量にいます。そして、われわれは戦前にその繊毛虫を自動育成することに成功したのです。これにより私たちは食糧問題という生物としての根本的な問題を解決することに成功したのです。ですので、私たちは争う必要はありません。無用なことは避け、今のこの現状を維持するために努力することのみが大切なのです。」そして、この代表団はこう言葉を継いだ。「あなた方、多細胞生物は少し物事を複雑に考えすぎている気が私にはしてなりません。わが星でなぜ多細胞生物が存在しなかったかというと、彼らは同族で争いを始めたからです。ですので、私たちのような単細胞生物のように知能を発展させずに力にその能力を使ったのです。」
彼はそのことについては何も返事をしなかった。ただ、このゼリー状の生物を見るだけにとどめておいた。彼はあまりアメーバ種族が好きではなかった。彼らの知識自慢には毎回うんざりさせられてきた。奴らは自身が優等であり、ほかの種族はそれに追随しなければならないというのが本質だ。生存競争をしなかったものはどうなるのかはこのアメーバ種族を見れば明らかだった。知識をひけらかし、相手を言いくるめようとする種族。彼は頭の中でアメーバ種族を殴った。殴ったところで貫通するだけだと思うが。
もはや、猛禽類の長官は何も言わずにただ自分に向けられている攻撃をただ受けている状態となった。長官はすぐ近くにいた、やはり同じ種族である幹部に告げられその場を対比することとなった。
議会が終わったスミスはカリフォルニアにある新国際連合本部の会長に結果を報告しようと宇宙間無線回路をつなげた。彼はパスワードを打ち、マイクに向かいこう報告した。「銀河連盟治安維持警察は活動中の犯罪組織コリネウスの対処は慎重に対処すべきことだとして、具体案は何一つ示しませんでした。軍の動員はいまだに認められていません。」彼はこれどもかというほどの官僚的口調な英語で話した。そこには一切の感情は挟まなかった。それが彼が地球代表になった時につかんだ術だった。
宇宙間無線回路をポケットにしまうと彼は地球の小型宇宙車を止めてある屋内駐車場へと進んだ。だが、そこへ一匹の生物が彼の道を防いだ。
そこに現れたのは茶色の毛におおわれ、鼻が前に伸びており向いており、その穴が彼の方向に向いていた。さらには腹が突き出し、耳がとがっている。口には小さいが牙がある。ミリニシス星系のイノシシ種族だ。このイノシシは目を見張るほど彼の顔を見て、こういった。
「突然の無礼をお許しください。エド・スミス殿。私はミリニシス星系の代表であるローザンと申します。今日はスミス殿にあなたの惑星である地球の連合会長に伝えてもらいたいことがあるのです。」ローザンは太い声でそう言うと大げさなほど背筋を伸ばした。そのせいで、さらに腹が突き出ている。「あなたの種族はいまだに我々のことを食料としてしか扱えない下等生物であると認識しているようですが、私たちはそれに異議を唱えたいのです。私の伝言を今すぐにあなたの宇宙間無線回路で連合会長に伝えてもらいたい。別の種族を食すというのは旧時代の話です。今は種族の違いを乗り越え、共生共存をしなければならないのです。さもないと…」このイノシシは話の効果を狙い、息をつきこう言葉継いだ。「われらが惑星はあなたの惑星を銀河連盟裁判で訴えることが可能なのです。われらが惑星はそのことを望んでいません。あなたの惑星が豚肉を食べることと、家畜化しているわが同胞、つまりあなたの惑星の言葉では豚を解放してください。彼らは奴隷化されるためではなく幸せになるために生まれてきたのですから。」
スミスはその場をすぐに去りたかったが、代表として別の代表の意見にはこたえなければならなかった。彼はあまり不機嫌な表情をせずにさっきのように無表情でこのイノシシの意見に答えた。「あいにくですが、ローザン殿。それは不可能です。我々は進化の過程で別の種族を家畜化することで生き延びることができました。その一つにはあなたの種族の肉により我々は食糧不足になることがなかったのです。確かに、昔はそのような宗教がありました。豚肉は食べないという宗教です。しかし、そのような宗教ははるか前に無くなりました。もはや、我々はそのような歴史をたどったので、あなたの意見を鵜呑みにしてしまえば我々はほとんどの料理を廃棄しなければなりません。」さらに彼はこう付け足した。「それに家畜化された豚はもはや解放されれば生き延びることはできません。彼らは我々の保護下のもと育ったのです。今更、解放したところで絶滅に追い込まれるのが明白です。」
自動音声翻訳機がそれをミリニシス星系語に訳されている。その翻訳を聞き終えたローザンは少し黙り込んだ。しかし、その眼はいまだにスミスの顔を見ている。そして、こういった。「しかし、それはあくまでもあなたの意見だ。あなたの種族は何百億といるでしょう。その中には有力者だっているはずだ。それにこちらのつかんだ情報によるとあなたの惑星でも倫理観再生運動というものが起こっているようですね。豚肉の即時撤廃を求めています。ですので、今日私が話した内容を連合会長に伝えてもらいたいのです。」その声には抑揚がなかった。
自動翻訳機が英語に直し、それを聞き終えるとスミスはこう締めくくろうとした。「わかりました。そのことを連合会長に伝えましょう。しかし、こちらにも条件があります。あなたの惑星が戦時中に鹵獲したわが巨大宇宙戦艦をこちらに返していただきたい。あなたの理論が正しければ、旧時代は終わりました。つまり、宇宙戦争はないのです。それなのに、あなた方はわれらが惑星の軍が作った兵器をいまだに返さないでいる。それは矛盾なのではないのでしょうか?」
ローザンは黙りこくった。その時のローザンの頭の中ではこう思っていた。撤退か、それとも呑むか。しかし、一回の代表団である彼にはそのような権限はない。統領に聞いてみなければならに。あの統領が怒り狂うさまは想像に難くなかった。多くの犠牲を出して勝ち取ったものを返せだと。
「わかりました。しかし、このような件は統領を介してではないと。すぐには不可能です。ええ、ええ、不可能ですとも。」ローザンはどもりながらそう言った。あの時の強気な姿勢はどこにもない。
スミスはここでやっと微笑んだ。「ご理解いただきありがとうございます。」
そして、立ち尽くすローザンの横を通り小型宇宙車のほうへと向かった。
車に乗り込んだスミスはエンジンをすぐにかけた。誰かに呼び止められては出発できないからだ。ったく、やってられないな。彼は心の中で悪態をついた。あの、アメーバ野郎の言うとおりだ。このようなことが分かっていたなら、代表の任命など断っていた。彼はローザンに戦艦返還の取引として、豚肉の廃止と、豚の自由化の条件を取り付けたが噓だった。そのようなことは倫理観再生運動の道徳主義者が勝手に言っておけばいい。戦艦についても同様だ。あのような戦艦はわが軍が持っていても宝の持ち腐れだ。きっと、ミリニシス星系もそれには応じないだろう。あれは自らの軍の強さを示すための一種のシンボルだからだ。彼はそう思いながら、小型宇宙車の行き先を地球のカリフォルニアに向かわせた。小型宇宙車は自動操縦なのだ。
議会が行われたのはルワーダレス惑星で、この惑星は地球の南極のようにどの惑星も領有していない中立惑星である。このルワーダレス惑星は温帯気候であり、人類にとっては住みやすい気候であった。
カリフォルニアには二十分足らずで着いた。そこには国際連合本部の銀のピラミット型の建物が見える。高さは百メートルあり,周りには不法侵入を阻むための頑丈な壁にその上にはさらに有刺鉄線がつけられている。さらには監視カメラや特殊部隊の警備員が配置されている。なぜここまで頑丈かというと十年ほど前に反宇宙一体化主義者であるテロリストが古い壁をよじ登り銃を発砲したからだ。幹部は死ななかったが、一人の秘書が殺された。
彼は小型宇宙車を駐車場に着地させると、そのまま本部のほうへ向かった。駐車所には屈強な体をした男二人のSPが待機していた。彼を迎えてきたのだ。その瞬間彼は簡単に本部には行けないと察した。
そこにいたのは様々なプラカードを掲げた人々の集団だった。何院がいるだろうか。およそ数十万くらい。何か主義主張を本部に向かって叫んでいる。警察がこれ以上の全身を阻むために肉の壁を作っているが、ひびが入りかけているのは明らかだった。倫理観再生運動が運悪く今行われているのだ。
「ありとあらゆる肉を即刻撤廃せよ。」
「彼らは我々と同じ生き物であり、同じ権利がある。」
「地球の他種族虐殺を食い止めよ。」
彼が目に止めたプラカードには一つの絵が描かれている。その絵にはローザンらしきイノシシが白い皿の上に横たわっている。そのイノシシの大きな目には一筋の涙が頬を伝っており、何かを訴えているようだった。下には赤い文字でこう書かれていた。
だれか私をこの残酷な世界から助けて‼
彼はそのイノシシの絵の目を見たがすぐに目をそらした。不思議にも彼は少し後ろめたさを感じた。そのような感情は彼がずっと幼少期からか抱えているものだった。何も考えずに行った行為や発言がある時をきっかけで罪悪感。その時の対処法は何も考えずに放心状態になることだった。しかし、このような人が作り上げた波の中ではそのようなことは不可能だ。
SPは彼の両側をガードし、気づかれないように本部へ急いだ。本当は裏口からのルートもあるのだが、そこにもデモ隊は集結していた。そこには連合の幹部が通るかもしれないと踏んだのだ。つまり、裏の裏をかいたのだ。
予測通り、彼に気づくものは誰もいなかったから、何ら面倒ごとに合わずに警察の肉の壁の前までたどり着いた。
警察はデモ隊に対したてにより攻撃をふさいでいたが、押されがちだ。
「私は地球代表としてたった今帰還したものだ。連合会長に話さなければならない。」彼は大声で目の前のヘルメットをかぶった警官に言った。警官は身分証明書の提示を求めた。
彼はスーツの内ポケットから青い身分証明書を取り出した。警官はそれを確認し、中へ通した。すぐにデモ隊はその穴を通ろうとしたが、警官の動きは素早くすぐにその道をふさいだ。
彼は本部の建物に入った。本部の中は外の世界とは隔離されたかと思うほどの静寂ぶりだった。中には人のいる気配がなく逆にそれが不気味だった。SPは本部にはいない。きっと、別の仕事に向かったのだろう。
彼はまっすぐの廊下を渡り、エベレーターに向かった。やはり、誰もいない。いつものならここには書類作成するために官僚が個室に行ったり来たりしているのにだ。あの時の騒がしさもうんざりだったが、この静けさも何か気に入らなかった。エベレーターで彼は三十一階を押した。連合会長の事務室がある場所だ。
連合会長執務室の持つ制の大きな木造のドアをノックすると、「入れ。」と鋭い声が聞こえた。入ると、そこには回転式の川椅子に座りながら、本を読んでいる連合会長の姿があった。連合会長は片目で江戸の方向を見ると、立ち上がって手を差し出した。整えられた口ひげを生やし、高級そうなスーツに身を包んだ彼はまるでクマのような体系だった。歴史の教科書に出てきそうな彼の手には指が一本なかった。親指が。連合会長は先の大戦で将校として最前線で戦ったのだ。
スミスは連合会長と握手をし、議会での報告を行ったが、ローザンの取引については心の中で決めたとおりに話さないで置いた。連合会長は椅子に腰を沈め、じっとエドの方向を見た。エドはまるで肉食獣に追い詰められた植物食性の動物のように凍り付いた。それほど、連合会長の目には動物的な恐怖心を植え付ける魔力があった。
「そのことは君の宇宙間無線回路によりとうの昔に知っている。そのようなことを議論するつもりはない。私が聞きたいのは君の考えだ。君はどう思う?あのような議論を?」連合会長は鋭い声でそう尋ねた。
彼には想定外だった。連合会長がそのように質問するなど。いつもの連合会長なら、ただ、愚痴をスミスに浴びさせるだけなのに。
間。
何か思いつくんだ。この目の前にいる大男を納得させるような何かを。冗談でもいうか?いいや、この人はただの報告には何も飾りをつけないのを好む男だ。それにエドのジョークはその場の空気を凍り付けるぐらいの力があった。
彼は声にどもりがないように努力しこう答えた。「私の意見はコリネウス対処法として、銀河連盟憲法に反しない限りの軌道守衛部隊を結成するべきだと思います。幸いなことに、憲法には緊急時においてのその惑星の軌道に軍を置くことができます。現在の地球はコリネウスや他の犯罪組織の抗争により軌道と植民惑星の治安が悪化しています。」
連合会長は満足したように首をうなずかせた。「私も君と同意見だ。これ以上、銀河連盟治安維持警察は頼りにはできん。しかも、その警察とコリネウスがグルとなって活動している。しかし、地球の警察はそれには屈しない。地球の警察はどの惑星よりも忠誠を誓っている。事実、戦時中には警官すらも志願兵として大多数が参加したんだ。私もその一人だった。警察がどのような存在なのかは私が一番よく知っている。」
スミスは半分聞かずにいたが、相手がしゃべり終えたのを聞いて「その通りです。」と答えた。
「でしたら私は銀河連盟会長にそのことを伝えましょうか?」とエド。
連合会長は手を振ってこう言った。「その必要はない。黙って、行動しておけばいいんだ。このようなことにいちいち連盟の許可はいらないんだ。エド。そのようなことをすれば、地球は連盟なしには動けないような傀儡政権のように見られてしまう。地球はほかの惑星の手本になるために自ら動かなくてはならない。」と連合会長ははっきりした口調で言った。
彼はその返答に少し戸惑った。連盟に相談せずに行動するというのは自殺行為だ。連合会長はそれは地球の尊厳を守るためだと言っているが、結果はその逆だ。すべての惑星は憲法を遵守し、たとえそれが憲法違反になっていないとしても連盟に許可を取るのが暗黙の了解となっている。それが新秩序だ。惑星は単独行動ではなく、合同で行動しなければならない。宇宙は一体なんだ。だが、彼はそのような考えを表には出さないでいた。ただ、真顔でその言葉を受け止めた。そのような権限は彼にはない。それに彼は官僚時代が長くしゃべるときも私情を挟まないとこを身に着けていた。
「その考えには同意します。それでは私は失礼します。」彼はそう言い、執務室を出た。
執務室から出たスミスは大きなため息をつき、エベレーターに向かった。結局、連合会長はどのような英雄だったとしても旧時代の人間だったということだ。自身の惑星と別の惑星は別世界の存在であり、そこから関係を作ることはできない。「地球統一」前の人間。
一階につくと、まだ外からはデモ隊の叫び声が聞こえた。やはり職員は誰もいない。彼は試しに警備室をのぞいてみようと思った。誰もいない。パソコンの前の監視カメラの映像を除いている職員すらいない。
「君は帰る時が来た。」後ろから声がした。
彼は本能的に後ろを振り向いた。そこにいたのは黒いオーバーコートを着、帽子を深くかぶった背の高い男だった。彼は直感で察した。コリネウスだ。それも同じ人類。手には拳銃が握られている。
彼はただそこに顔を青ざめながら呆然と立っていた。体は震え、冷や汗をかいてスーツの背中はびしょ濡れになった。
「君は帰るときが来たんだよ。君は生きている罪なんだ。そして、われわれはその罪を消そうと努力している。」男は近づき彼の耳元でそうささやいた。男の吐く息は少したばこと酒臭い。かすかな記憶だが、父のにおいとよく似ている。しかし、今彼のすぐ前にいるのは父ではない。
「お前が何を言っているのかはわからないが、ここは国際連合本部だ。君の行動はすべて監視されている。私を殺しても君はもう逃げることができない。」彼は震えながらもそういった。
男は少し微笑んでこう言った。「ああ、そうさ。私は監視されている。だが、私は逃げれることもできる。私には仲間がついているからね。」男はそう言ったかと思うと、銃を持っていない手をポケットから何かを取り出した。白い物体。錠剤?
彼はそれを見て逃げ出そうとした。イーダロスだ。イーダロスを飲まそうとしている。しかし、男は腕でスミスの首を壁に押し付けた。そして男はイーダロスを銃の穴に入れる。
スミスは口を開こうとはしなかった。しかし、首を絞められ酸素を入れようと彼の口は生物的本能により開いた。その口の中に拳銃を押し込んだ。彼の見ていた世界は真っ暗になった。
彼は目を覚ました。そこに見えるのは終わりの見えないような歩道と行き交う人々。皆がつば付き帽子をかぶり、スーツの上にオーバーコートを着て、革製のかばんを持っている。まるで、歴史映画のような光景。彼はそこに立ち尽くした。頭の整理が追いつかない。さらに彼は左にある建物の壁に目をやるとさらに驚くべき光景が目に入った。そこには高級そうなスーツを着たしわが入った男の白黒写真のポスターが張られていた。襟のバッジにはスミスが歴史の本で読んだ旧アメリカ国旗がつけてある。
フランクリン・Ⅾ・ルーズベルトをアメリカ合衆国大統領に‼
ポスターには大きな文字でそう書かれていた。
突然方に衝撃が発した。何かにぶつかったのだ。
「気をつけろ‼」男は怒鳴って、歩き去った。
スミスは歩いた。歩けば何かあるのではないかと思えたからだ。きっと、これがイーダロスの効果に違いない。イーダロスには服用したものを過去の世界に送るという作用があるということだ。しかし、そのようなことがあり得るのだろうか?まず、これは現実世界なのか?俺はこん睡状態でこの世界は俺の頭の中で作り出している世界なのではないか?しかし、そのような考えはすぐに消えた。さっきの男にぶつかった時の衝撃は確かに現実の世界でないと生み出せないものだ。ということはここは1930年代か1940年代のアメリカということになる。俺はそこに存在している。しかし、なぜ?なぜ、よりにもよって俺なんだ?
景色は変わらない。茶色いレンガ造りの店にその上には古びた看板、窓からはためくアメリカ国旗。
車道にはスミスの時代には考えられないような巨大な車輪を付け車高の高い黒い車が走っている。きっとフォード車だな。図書館の歴史本で見たぞ。彼は一つの好奇心を駆り立てられた。あの時の時代には写真や文章でしか想像することができなかった世界に彼は存在しているのだ。歴史好きな彼にとってこれは何よりも興奮させられることだった。ただ、始まりが最悪だった。彼の頭の中は今まで経験したことがないようなものだった。それは興奮と恐怖が入り混じった感情であるとすぐに検討がついた。
そして、再びこのように自分に問いかけた。なぜ、俺なんだ?コリネウスはただ敵対組織の人間と間違えたのではないだろうか?それにあの男・・帰る時が来たとか言っていたような‥。
スミスは三十分ほど歩いただろうか。いまだに結論はつかないし、さらに謎は深まっていくばかりだった。ふと、立ち止まった。改めて世界を見るとこは閑散としている。今まであったビジネスマンのような集団は消えている。まるでそこは時が止まっているかのような静けさだった。
すると、何やら遠くのほうで人の声が聞こえる。それも一人や二人じゃない。もっと、大多数の人。一万人を超えるぐらいの人。拍手喝さい。何かの集会が開かれている。彼は足を速め、その騒ぎのする方角へと向かった。
たどり着いた音源のもとは広場からだった。そこは人でごった返している。何かのプラカードを掲げている人や、アメリカ国旗をはためかせている者もいる。彼は人々の波を押しのけ何とか前のほうにありつくことができた。
その壇上にいたのは背の高いスリムで髪を後ろに整えている男前の男だった。初めて見る人なら俳優に見えるかもしれない。彼はその壇上のスターが誰なのかすぐに分かった。チャールズ・リンドバ―グ。人類で初めて飛行機での大西洋横断を成し遂げた空の英雄。
その空の英雄は壇上でマイクの前でこう力説した。「皆さん、アメリカ合衆国は再び危機に陥っています。ホワイトハウスの権力者たちは皆さんの子供が荒れ果てた戦場にて倒れることを望んでいるのです。第一次大戦の二の舞を演じようとしています。」とここで空の英雄は演説の効果を狙い一拍置いた。そしてこう言葉継いだ。「今、世界は一つの変革を迎えようとしています。我々が将来同盟関係を結ぶことになるのはアドルフ・ヒトラー総統のドイツ率いるヨーロッパであるのです。そのためになぜ、我々はそのような運命に逆らわなければならないのでしょうか?」
広場では拍手の嵐が巻き起こった。「チャールズ‼チャールズ‼」この壇上にいる男の名前が連呼され、それは一つの嵐となる。
「違う‼」誰かの叫び声が聞こえた。スミスはぞっとしたその声の持ち主は自分だったのだ。辺りは静まり返る。彼は続ける。「チャールズ・リンドバーグ‼お前は勝てない‼勝つのはフランクリン・Ⅾ・ルーズベルトだ。アメリカ国民は結局、彼をホワイトハウス入りさせる。そして、彼はドイツと日本と戦うんだ。彼は最も素晴らしき大統領としてアメリカを世界の中枢にする男となる。」彼は何を言っているのか自分でもわからなかった。
空の英雄はじっとスミスのほうを見る。その瞳には一種の嘲りを感じさせた。
屈強なコート姿の男二人が彼の腕をつかみ、集団から離そうとする。集団の一人一人の目にはスミスを敵意に満ちた目で見ていた。今でも殴り掛かってきそうだ。
スミスはあの時も、引きずられているときも、そして、今こうやって歩いているときもなぜ自分があんななことを言ったのかはわからなかった。彼には一つの恐怖があった。あの場で言っておかなければ、何やらまずいことになることを。何やら世界が変わる何かがあることを‥。
スミスは歩いていると一つのホテルを見つけた。そのホテルの看板は「カリス」と書かれていた。中にはいってみるとそこにはかび臭いにおいと、歌が流れている。その歌の内容はあまりにもイタリア訛りが強くうまく聞き取れないが何やら片思いの男の歌だった。
彼はホテルのロビーに向かい、若く肌黒いいかにも健康そうな顔つきのホテルマンに尋ねた。そのホテルマンはいかにも場違いな気がしたが。「今日は泊まれるのかね?」彼はいつもの官僚的な口調で言った。
「ええ、もちろんです。」男は少しの違和感もなく笑顔でそう言った。「ご案内します。」
案内されたのは202号室という部屋だった。彼は理を言うと、ホテルマンに礼を言いカギを受け取ると中に入った。
中は一つの白いベッドと丸テーブル、ラジオも備え付けてあった。窓には外の光景が眺められ、彼はなかなかいい部屋を当てたと思った。
それから彼はスーツを脱ぐと、ワイシャツ姿のままベッドに寝転んだ。どっと、疲労感が襲ってきた。まるで、敵陣営から逃れ、一つの友好的な村にたどり着いたかのようだ。この先はどうすればいい…。この世界にはどのような仕事があるのだろう?リンド―バーグとルーズベルトが選挙で戦っているということはヨーロッパは今戦時中だ。日本も中国と戦っている。世界はどこに行っても銃弾が飛び交っている。数か月後には日本が真珠湾攻撃を開始し、太平洋戦争が始まるか‥。彼は背筋が凍り付く思いがした。だとしたら、俺は戦争行きか?太平洋の島で日本軍と戦うのか?俺はごめんだぞ。なにがなんでも徴兵不可能証明書を手に入れてやる。
「まったく、君という男はとんでもないことをするな。」突然声がした。その声は黒のオーバーコートを着た、帽子を深々とかぶっている男。彼にイーダロスをぶち込んだ男だ。
彼はとっさに上体を起こした。再びあの時の恐怖が襲い掛かる。彼は近くにあるものを探す。
男は少しそれを面白そうに見つめてこう言った。「君に私は殺せはしないさ。君には少し見せたい場所があるから来たのさ。」男はそう言って、前と同じように銃を取り出して、天井に向かい発砲した。
目の前は真っ暗になった。しかし、やがて一筋の光が見えてきて、それは全体に広がった。
彼の目の前に映ったのは太陽の光を浴びた廃墟となり黒焦げとなった街だった。
「君は歴史に干渉してしまったのだよ。エド・スミス。」男の声が姿が見えなのに響く。実体のない声だ。「今から、君の行った罪について話そう。しかし、それは君のせいではない。すべてはあの世界戦の人間により行われたのだから。」
エド・スミスはわからず立ち尽くし、目の前の光景をただ茫然と見つめた。そして、ひとことこう答えた。「俺を帰らせろ。」
男はその声を無視し話し始めた。
「君は本来こちら側の人間だった。エド・スミス。君は1914年のサンフランシスコ生まれ。不動産会社の子供として生まれるんだ。そして、父と同じ不動産会社に就職。しかし、君は太平洋戦争がはじまると陸軍に入隊。そこで終戦まで戦い、伍長の地位で退役。そして、不動産会社に吹きいするはずだった。」そこで男は一拍置く。「だが、別の世界戦の地球では宇宙戦争が始まる。ご存知の第四次銀河大戦さ。その際の補欠隊員として、ある特殊部隊を結成し、君たちのような別の世界線の地球の住人を補欠隊員として誘拐した。はるかに小さいときにね。記憶が改ざんしやすいころに。しかし、その前に戦争は終わり、君たちのような存在は不都合の歴史として忘れされた。罪は隠蔽されたのさ。私たちの組織は君のような存在をもとの世界に連れ去るようにすることを使命として帯びている。」
彼は苛立ちながらこう反論した。「俺一人が消えたところでそのような大げさにはならないだろう。」
「いいや、君たちは「柱」なんだ。歴史という名の「橋」を支えるための。柱がなければ橋は崩れ去る。それと同じことが行われたのさ。君たちが連れ去れたことにより、本来の歴史は失われ、別の歴史が形成される。それは阻止しなければならない。」そして、こう付け足した。「その結果が今君の見ている景色だ。ここはサンフランシスコだ。大統領選挙はルーズベルトではなくリンド―バーグが当選する。彼は積極的な軍縮活動が行われ、孤立主義を掲げた。ヨーロッパはドイツ軍が勝利をおさめ、ソビエトの広大な土地をドイツが領有した。そして、リンドバーグのアメリカは騙された。ドイツ軍はアメリアに宣戦布告。戦争慣れしているドイツ軍と弱体化したアメリカ軍では戦いにならず、ついにはアメリアは降伏した。本当に悲惨だ。ドイツ軍は無差別爆撃をアメリカの主要都市に行い、最後には原子爆弾をニューヨークに落とした。」
彼は茫然とした。もしかしたら、あの時に俺がリンドバーグに叫んだことが事を決定的にしたのか?
「そのようなことはない。」男はまるでスミスの心が読めているようにそう言った。「それは大した問題ではない。君がどうしようと、連れ去れた人が戻らないとこうなっていただろう。」
彼は下を向いて、座り込んだ。
チャールズ・リンドバーグは歓喜した。ついにホワイトハウス入りを果たしたのだ。彼は勝利演説を行い、閣僚の指名にあたっていた。
「あなた、やったわね。これで死んだ子も浮かばれるわ。」チャールズの妻・アン・モロー・リンドバーグはそう言って、涙をハンカチで拭いた。リンドバーグの子供であるチャールズ・オーガスタス・リンドバーグは九年前に何者かに誘拐されてそのまま行方不明となっていた。
「まだ、わからないさ。私はあの子がどこかで幸せになっていると願っている。大統領になればFBIに最大限の協力を仰ごう。」彼は優しくいった。そして、アン・モローの頬にキスをした。
彼女は「ありがとう。愛しているわ。」彼女はそう言って、大統領執務室から出て行った。
一人になった、チャールズ・リンドバーグは書斎で書類に目を通した。そこには閣僚候補の人物の経歴が説明されていた。彼はそこに入念と目を通した。きっと、すべてうまくいく。あの時の大西洋横断のように。オーガスタはもう十歳になっているはずだ。もし、見つけられたらあの子に図鑑でも買ってやろう。彼はそう思った。
すると、何かの気配を感じた。並々ならぬ気配と視線。彼は書類から目を上げた。そこに彼の見た光景は信じられないものだった。
一・六メートルぐらいの鷲と何やらグネグネと動いているゼリー状の生き物が彼の書斎にいた。わしはじっと、座っているチャールズ・リンドバーグを見つめている。
彼は言葉を失った。恐怖で震えだし、言葉が見つからない。
その鷲は何かをしゃべっていたが何をしゃべっているのかはわからない。彼はそこに動けなくなった。まるで何かに縛り付けられているようだ。
鷲はそのゼリー状の生物に何かを指図した。ゼリー状の生物は彼に向かい、その体を書斎ごとに彼を包み込んだ。
彼の視界は真っ黒になった。チャールズ・リンドバ―グは死んだ。
「先程、情報が入ったがチャールズ・リンドバ―グは死んだ。これで歴史の再調整が可能となった。」男はそう言った。
その言葉に彼はさらなる恐怖を覚えた。が、いまさら何を恐れることがあるのだろう。彼の恐怖を感じ取る能力は麻痺していった。
「君の記憶は消され新しい人生が幕を開ける。というよりも元の人生に戻るんだ。君は1944年に戻ってもらう。今から三年後だ。そこで君はアメリカ陸軍として日本軍とガナルカナル島で戦ってもらう。」
男のその言葉が終わるや否や目の前の廃墟が消え、また光が訪れた。
エド・スミスは目覚めた。そこは塹壕の中で辺りには火の玉のように銃弾や、人々の叫び声が聞こえていた。彼は土や血で汚れた緑色の軍服を着ていた。手には小型の機関銃を握っている。
「おい‼何をボーっとしている‼見ろ、ジャップどもが逃げている‼俺たちが勝っているぞ‼」隣の無性髭が生えた男が彼の肩をつかんでそういった。
彼はその時変なことを思い出した。確か、選挙で勝ったのはルーズベルトだよな。そこで日本が戦争を仕掛けてきたから今こうやって戦っているんだな。
スミスはその無性髭が生えた兵士に対して「すまない。ちゃんとするよ。」といった。
その男はニヤリとして、こういった。「女のことは戦争が終わって勲章をもらってからにしろ。」
エド・スミスは自分の持っている機関銃を握り、日本軍の陣営に向かって乱射した。彼は今戦っている兵士としての自分に満足していた。
さあ、帰るときはきた ポンコツ二世 @Salinger0910
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