第2話
戦争の本当の恐ろしさを知っていますか?それは空襲でも進軍する敵の戦車でもありません。本当のあなたたちの敵は瓦礫となった廃墟に忍び寄る盗人たちです。
廃墟になった家から少なからずの財産をも奪おうとする非道な輩に対する防止策はあるのでしょうか?もちろんです。
我々国家保安警察本部が開発したリヒ―トをお使いください。これは粉上の製品であり膜と有毒ガスが数分間発生します。それにより盗人からあなたの貴重な財産が守られます。これは人間のみに効用を示しますので非人間物質には効きません。あなたの素晴らしき人生の財産を守りましょう。
僕たち三人は粉々になったテレビを見つめた。
僕は一瞬目の前が真っ暗になったよ。あまりにも目の前で起こった出来事が衝撃的過ぎて。目の前にあるのは機械だが、僕にとっては大事に自分のことを育ててくれた母親が殺された感覚だった。僕はこの事件の犯人を見つめた。まだ、凶器は彼の手に握りられている。彼はまるで何事もなかったかの表情でその残骸を見つめた。
僕はハジメの襟をつかんだ。「なんてことをしてくれたんだ。気でも狂ったのか⁉へ⁉また、わけのわからない理論を僕にぶつける気か?おかげさまで、僕たちはどうなるんだろうな?君のおかげで僕たち全員が収容所送りだ。」僕はまだ言いたかったけど、なぜか言葉が見つからなかった。うまく君には説明はできないけど、僕は心のどこかですっきりしていたんだ。それが何に起因するかはわからなかった。ハジメが前に僕に話していたエンドルフィンとかいうやつかな。僕たちの脳の中にある物質みたいな。
ハジメは僕のことをじっと見つめた。だけど、それははるか先を見つめているようだった。見つめているけど、見つめていない。まるで、透明人間になった気分だよ。
そして、彼はこう口を開いた。「私はこの国の正体がわかっているんだ。僕たちは監視されていないんだよ。ラッキー。あれは脅しだ。どこの国の政治家もが使う決まり文句だよ。この国の支配体制は噓の上で成り上がっているんだ。試しにテレビの残骸を見てみるといいよ。そこには監視カメラ回路なんて仰々しいものがあるのかな?まあ、この国のみんなは生まれてから一度もそんなものは見たことないだろうけども。ずっと、教えられただろう。親からも教師からも、派遣された地域党員からも。そして、彼らもそれを信じている。」そして、一回ため息をついてこう付け加えた。「いずれ、明るみに出るんだ。この今起こっている戦争のことも。」
僕は彼の襟から手を放して、テレビの残骸をじっくり観察した。読者の君も手伝ってくれ。もし、レンズのようなものが小型だとしてもあるのなら、それが監視カメラ回路なのだろうか?僕はテレビの専門家ではないからわからないが。ハジメもわかるのだろうか?しかし、そのことについては考える必要はなかった。表情から見るにはハジメもわからないのだろう。これはハジメの直感から引き起こされたのだろうか?もし、そうなら、彼がテレビにしたように、こいつの脳みそをぶちまけてやる。君も参加してくれて構わない。
でも、僕と君とで一つ一つの破片を見てみたが、レンズから出来上がったものはなかった。すべてはテレビの細胞である、ねじとよくわからない線のみであり、変わったものはあんかった。
「どういうことだ?やっぱり、一時的な感情に襲われてやったんじゃないだろうな?」僕はハジメにそう尋ねた。その声は自分なりに抑えてやっているつもりだった。
ハジメはソファに腰を沈めて座り、小さな丸テーブルの上にあるコーヒーを飲んでいた。「さっきも言ったはずだが、監視カメラ回路というものはない。政府が君たちを従順にさせるための作り話だよ。」ハジメの表情は硬かったが、どこか僕と君を見下しているようだった。そして、こう続けた。この時ハジメは初めて表情を柔らかくした。「あのマッカーシー党指導者だが、あれも偽物だと考えたことはないか?つまり、あれは生成AIであり本来の党指導者はいないと。そして、本当の支配者は共産主義が最も敵視するであろう大物財閥だと。巨大なる財力の裏に隠れているものはいつだって犯罪だよ。それとも」ハジメは微笑した。「テレビの前で脅されているのではないかな。党指導者の映し出されているカメラの裏には銃を持った誰かがいるとか。」
そして、ハジメはこういう歌を歌った。この国の言葉じゃない。だけど、 ハジメはよくこの歌を口ずさむんだ。だから、何を言っているのかもわからない。でもなんとなくわかったのはそれはこの国の上層に向けられた歌であるということだ。
Fe dej jedieh bisis risws
Rater rket ka merasr
Re rike kate kamer fers tures
Mireseu orugmt keresu ratis
Erd krtke thetrka romaeus
Robtufn wretr rainesw
「それ、よく歌うけど何の歌だい。」僕が尋ねても彼は黙っていた。僕には絶対に視線を合わそうとはしなかったが、こう答えた。
「知らない。どんな曲かは知らない。昔の国の歌だ。」とハジメ。
「よくもまあ、そんな歌を歌っていられるものだ。」僕はまた怒りが込み上げてきた。
「歌を歌うということは素晴らしきことだよ。特にこういう国ではね。だけど、君たちはそれを燃やしただろう。本も物語も、写真も。知識は燃やされ、そこに現れたの無知を力とする古代の権力構造。ならば、それを支えているのは何か・・」
行こう。もうこいつには付き合ってられない。
「おいおい、逃げなくたっていいだろう。ここからがこの話の面白いところなんだ。例えば、今行われている戦争というのは・・」
僕は読者である君を連れて家のドアを開けた。
外に出ることはいつだっていい。そう思わないかい。だけど、これは防空壕を出た時とはまた違う。もうあのようなすっきりした感じはどこにもない。逆に今の僕は恐怖と怒りに支配されておかしくなりそうだ。ハジメは何を言おうとしたのだろう。ふとそう思うがそんな考えはすぐに隅に追いやられた。とにかく空っぽになりたい。何も考えたくない。君ならこのような状況ならどうする?
歩いてみればわかるはずだけど、家の壁には必ず赤いチョークを使って党を称賛した一言を書かなくてはいけないんだ。これも憲法では明記されていないけど、党が望んだことだからやらなきゃいけない。ちなみに僕は「歴史を作りし党指導者万歳」と書いてある。昔、歴史の授業で習ったんだ。
原始的で、どこまでも野蛮な行いをする人肉食族である全体主義者から我が国を解放したのは紛れもないラインハルト・ハインツリヒ率いる共産党だってことを。先生は熱心にこのことを教えていた。教師も党から派遣された人間だったから。
僕たちは歩いた。変わらない茶色い屋根で白い壁の家が。どこにもあてはなかったが。しかし、歩いていると一つの灰色の建物にたどり着いた。
それは10メートルある、上に行けば行くほど鋭くとがっていく屋根を持っている。前には大きな門があるが、朽ち果てている。門の上には何かの文字が書かれているが、なにかは解読できない。中は広いが何もない。床も天井も灰色が。まるで何かに燃やされた痕跡がる。まるで、何か怪物が中に忍び込んでいたが、軍か警察が火炎放射器で絶対にここで仕留めるというように集中的に炎を浴びさせたような。
でも、ここには何か見覚えがある。それがいつのことだったかはわからないが、だけど、体がここに来たと伝えている。心臓の鼓動が早くなる。頭が痛くなる。僕は膝をついた。こんな声が聞こえる。
Fe dej jdieh bisis risws
Rater rkei ka merasre
Rew rtke kate kamer fers tures
Mireseu orugmt keresu ratis
Erd krtke tketrka romaeus
Robtufn mretr miture rainesw
炎が燃え上がる。人々が炎に包まれてもがき苦しんでいる声が聞こえる。あの時は何歳だった?でも、なんで、僕はそこにいたんだ?僕は頭を抱えた。おかしい?何かが僕に思い出そうとするのを食い止めようとしている。きっと、思い出したら死にたくなる。自分が何なのかをわからなくなる。そいう気がした。でも、僕はそんな悪魔のささやきには耳を貸さなかった。
大事な人と一緒にいたんだ。少ししか一緒になれなかったけど。でも、確かにいた。腕の温かみを覚えている。でっぱっていたおなかをさすっていた姿を覚えている。僕にそっくりだった。鏡の前で化粧に長い時間を使っていた・・。母さん。
そうだ思い出した母さんはここで死んだんだ。ほかの大勢の人たちと一緒に。不適物押収士や軍や警察に。
だけど、燃やされたんじゃない。母さんだけは兵士たちのゲームの材料にされたんだ。兵士三人に連れられて。妊娠していたから。兵士三人はナイフを持って、一人ずつ母さんの腹にナイフを突き刺したんだ。おなかにいる子にナイフが突き刺されば勝ちだというルールで。その勝者は中年の頭が前から退行してきていた兵士だった。ローベルトさん。
でも、僕は生き残った。なぜ。小さいからという理由からか?いや、党はそのようなことはしない。敵は一族を皆殺しにしなさいというのが党のモットーとして刻みこまれていた。助けられたからだ。
誰かが僕を抱きかかえて走って、逃げた。確かその時は捕虜収容所で集団脱走が起こっていた。その脱走をこの地域の人が協力したから皆殺しにされたんだ。
あの時の人を思い出せ。コートを着ていた。きっと、寒い国のコートだろう。とても暖かくて、生地が厚かったのを覚えている。少しやせ細っていたのかな?捕虜収容所の過酷な労働で。その人は不思議な名前をしていた。まるで、どこに行っても見かけないような名前。しゃべっている言語も不思議な響きがあった。そして、時がたつにつれ、彼は片言だったけど、僕の国の言葉を話した。少年ほどではなかったけど、大人っぽくもない顔つきだった。
で、その人はある一つの歌を歌ってくれた。今なら思い出せそうな気がする。Lasser.僕ははっと思いだした。天井を見上げた。ハジメだ。ハジメ・タナカ。
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