第16話
「わたしの上に立つなんて許されないのよ……! あの時に没落していればよかったのにっ」
「……失礼いたします」
「──待ちなさいよっ!」
肩を掴まれたディアンヌはシャーリーの手を思いきり振り払う。
これはディアンヌなりの最後の警告だった。
シャーリーからお茶会の誘いが来た際、リュドヴィックはこう言っていた。
『次にディアンヌに危害を加えるようなら許さない』と。
そしてここのテラスは外に声が漏れる場所らしい。
つまりシャーリーとディアンヌな会話は外に筒抜けだということだ。
「どうしてよ……お前がわたくしより幸せになるなんて許さないんだから」
「離してください。これ以上はリュドヴィック様を呼びますから」
「何よ、何よっ……! アンタなんかいなくなればいいのにっ」
その言葉と同時にシャーリーはディアンヌの腕を引いてテラスのフェンスに押しつけている。
ここから突き落とそうとしているのだと理解できた。
皆が見ていることも忘れてしまったのだろうか。
そんなシャーリーにディアンヌは叫ぶように言った。
「……っ、こんなことをしてどうなるかわかっているの!?」
「アンタが消えたらそれでいいのよっ! わたくしの前に立つなんて許さない! 消えろ、消えなさい!」
シャーリーの叫び声は正気には見えなかった。
いつの間にかテラスに入ってきたリュドヴィックがシャーリーの腕を掴んでディアンヌから引き離す。
シャーリーは尻もちをついた。
そしてディアンヌを守るように抱きしめると、地を這うような低い声で言った。
「こんなことをして許されると思うのか?」
「だって、だって……こんなの嘘よ! メリトルテ公爵だってこな女を好きで結婚したんじゃないんですよね? 偽りの結婚なのよっ! みんながそう言っていたわ」
シャーリーはリュドヴィックに訴えかけるようにそう言った。
どうやら社交会では二人の結婚は偽りだと思われていたらしい。
けれどリュドヴィックは冷静に切り返していく。
「私はディアンヌを心から愛している」
「…………ぁ」
「これ以上、妻を傷つけるつもりなら容赦はしない」
「な、何を言っているんですか? わたくしはちょっと喧嘩をしただけで本当は仲のいい友人なんですから。ねぇ、ディアンヌ?」
「……」
「学園時代から助け合っていて……それでっ! ディアンヌがわたしを馬鹿にしたから頭にきてしまっただけなんです」
まだ言い訳を繰り返すシャーリーにリュドヴィックはあることを告げる。
「ガラスの外側を見てみろ」
ガラスの外側にはシャーリーの暴言を聞いて集まってきた貴族たちか眉を顰めながらコソコソと話している。
ジェルマンは俯きつつも首を横に振っていた。
もう終わりだと悟っているからだろう。
「え……? どういうこと?」
「今までディアンヌに吐いた暴言は外に筒抜けだ」
「は……?」
「それに困っているディアンヌにパートナー必須のパーティーに出席させて、安物のドレスやハイヒールを貸して、彼女に恥をかかせようとしたこともすべて知っている」
「…………な、に?」
「今まで悪どいことをしてきた報いを受ける時だ。シャーリー・カシス」
リュドヴィックの言葉にシャーリーは大きく目を見開いたまま動けないでいる。
ディアンヌのそばにはピーターもやってきて、両手を広げながらシャーリーを鋭く睨みつけた。
ディアンヌを必死に守るように叫ぶピーターを抱きしめた。
それにはシャーリーも唇を噛んで何も言えないようだ。
そして騒ぎを聞きつけたのか、騎士たちがリュドヴィックのもとにやってくる。
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