第15話

「シャーリー様、ごきげんよう」



ディアンヌの以前と違う様子に気がついたのだろうか。

するとシャーリーの表情が一気に強張ってく。

いつもの違うよそよそしい態度にしたのはディアンヌなりの気遣いだった。

お茶会の誘いを断ったことでシャーリーは諦めたのかと思いきや、こうして前に姿を現したことに驚いていた。


(どうしてわざわざ話しかけてくるのかしら……)


あれだけのことをしておいて、こうして普通に話しかけてくるシャーリーの神経がわからなかった。

ディアンヌがニッコリと笑みを浮かべてその場を去ろうとすると目の前に立ち塞がる。


シャーリーと名前を聞いたリュドヴィックがディアンヌを庇うように前に出る。

リュドヴィックに睨まれたシャーリーは勢いに押されたのか一歩後ろに下がった。

彼のいつもとは違う雰囲気にピーターもディアンヌを守るように前に出ている。


まるで騎士のようなピーターの行動にディアンヌが感動していると後ろにいたシャーリーの婚約者、ジェルマンが焦ったように彼女の腕を引いている。

固く手を握りしめたシャーリーはジェルマンの腕を振り払う。



「話があるんだけど、いいかしら……?」



リュドヴィックはチラリとディアンヌに視線を送る。

ディアンヌはわずかに頷いた後に前に出た。



「シャーリー様、なんでしょうか? 話ならここで聞きますわ」


「……ッ、そんなこと言わないで久しぶりに二人で話しましょうよ?」



どうやらシャーリーはどうあってもディアンヌと二人きりで話したいようだ。

何を言っても引き下がるつもりのないシャーリーはこれ以上、リュドヴィックとピーターに迷惑をかけられないと思った。

ディアンヌはリュドヴィックに目配せした後に二人きりで話すことを了承する。

そしてディアンヌはリュドヴィックに言われて、あることを思い出していた。


(……教えてもらったあの場所でなら大丈夫なはず)


二人でテラスに向かい扉を閉める。

ピーターとリュドヴィック、ジェルマンが焦っている姿がガラス越しで見えた。

ディアンヌとシャーリーの間には冷たい風が通り抜ける。

ここでならシャーリーの本性が出るはずだ。



「随分と調子に乗っているじゃない……!」


「何が言いたいのでしょうか?」


「アンタが公爵夫人なんてありえないわ。多少、見れるようになったとしてもその程度なのよっ!」


「…………」



すぐに本性を出してきたシャーリーには笑ってしまう。

ディアンヌはシャーリーの本音を聞いてため息を吐き出す。

やはりお茶会の誘いも、きっとディアンヌを失脚させるためのものだったのだろう。



「それを言いにわざわざ呼び出したのですか?」



ディアンヌがそう言うとシャーリーの顔が大きく歪む。

しかしリュドヴィックたちの視線があるからか掴みかかるようなことはなかった。


(文句を言うだけだったら、もう聞く価値はないわ)


ディアンヌがそう言って足を進めようとすると、立ち塞がるようにシャーリーが立つ。



「アンタの方が上だなんて認めないんだからっ!」


「……どういう意味でしょうか?」


「男爵令嬢のくせに調子乗ってんじゃないわよ」



鼻息荒く暴言を吐くシャーリーにディアンヌはため息を吐いた。

ディアンヌの冷めた様子にシャーリーの怒りは増していく。

シャーリーはただディアンヌが公爵夫人としてここに立っていることが余程気に入らないのだろう。

だからジェルマンの顔がみるみるうちに青ざめていくことも、リュドヴィックとピーターが怒りに顔を歪めていることも見えていない。

シャーリーはブツブツと何かを呟きながらディアンヌを血走った目で睨みつけている。

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