第14話

──そしてパーティー当日。



ディアンヌはドキドキとする胸を押さえていた。

鏡に映る自分の姿はまるで別人のように見える。

水色のドレスに銀色の金具に青い宝石があしらわれたネックレス。

同じ宝石をあしらっあ耳元で揺れているイヤリングを見つめながらローズピンクの口紅を塗ってから、髪を整える。

なんと銀色の髪飾りはメリーティー男爵家から届いたものだった。

気持ちのこもったプレゼントと手紙にディアンヌは感動して涙を流したのだった。


準備を終えると、正装したピーターがディアンヌの部屋へと足を踏み入れる。

ディアンヌのいつもとはまったく違う姿に驚いていたのは一瞬だけ。

すぐに笑顔でこちらに駆け寄ってきてくれた。



「ディアンヌ、とってもきれいだね!」


「ありがとう、ピーター。ピーターはとても凛々しくてかっこいいわ!」


「今日はディアンヌとがんばってきた成果をみせるんだ!」


「わたしもピーターとがんばってきた成果をみせるわ!」



先ほどまで緊張していたディアンヌだったが、ピーターのおかげて前向きな気持ちになっていた。

二人でがんばろうと気合いを入れていると響く扉をノックする音。


ララがすぐに扉に向かう。

扉が開くと正装したリュドヴィックが部屋の中へ。

銀色の髪はいつもよりキッチリとまとめられており、前髪があがっているせいか端正な顔立ちが全面に露わになっている。

黒のジャケットに銀色の刺繍が施されており、ところどころポイントで青が見える。

ズボンは白で艶のあるブーツがコツコツと音を立てている。


ディアンヌと目があった瞬間、リュドヴィックは動きを止めてしまう。

どこかおかしなところがあるのかもしれないと焦っていると、ピーターが前に出てディアンヌを綺麗だと誉めてくれた。

リュドヴィックは視線を泳がせた後に、ディアンヌの手を取った。

そして跪くと手の甲に口付ける。

顔を上げたリュドヴィックはディアンヌを見つめながら唇を開く。



「綺麗だ」



ストレートな言葉にズンと重みを感じていた。

嬉しくて恥ずかしくて温かい。

今まで感じたことない気持ちはリュドヴィックの前だけ。

特別な感情だった。

ディアンヌもその言葉に応えるように微笑みを返す。



「ありがとうございます。リュドヴィック様」


「ああ」


「このドレスも素敵すぎて……」



ディアンヌは改めてドレスのお礼を口にする。

するとリュドヴィックは当然のようにこう答えた。



「今度は一緒にドレスを選びに行こう。ディアンヌに似合いそうなドレスがたくさんあって選ぶのに困ってしまったんだ」


「……!」


「自分の選んだドレスを着てもらえるというのは、こんなに気分が高揚するのだな。知らなかった」



リュドヴィックが発する甘い言葉にディアンヌは頬を赤く染めた。

ピーターも準備を終えたのか嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。

三人で馬車に乗り込んで、パーティー会場へと向かう。


たくさんの馬車が並んでいるのをピーターと一緒に興奮気味に見ていた。

一歩外に出れば『メリトルテ公爵夫人』として振る舞わなければならない。


馬車が止まり、御者が扉を開く。

リュドヴィックとピーターが先に降りて、ディアンヌをエスコートするように手を伸ばす。

ディアンヌは二人の手を握り返して、馬車の二、三段の階段を降りていく。

小さな手と大きな手のぬくもりに幸せを感じていた。


三人で談笑していると「ディアンヌ、久しぶりね」と名前を呼ばれて振り返る。

そこには真っ赤なドレスと同じく金色のチェーンに赤い宝石がこれでもかと嵌め込まれたアクセサリーを身につけているシャーリーの姿があった。

ディアンヌは眉を顰めそうになったが、表情を取り繕いつつも挨拶をする。

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