第12話

「三カ月後に、大切なパーティーがあると聞きました! わたしもリュドヴィック様の役に立ちたいのです」


「……ディアンヌ。君がそこまでする必要はない」



リュドヴィックはディアンヌを気遣ってくれているのだろうか。



「契約結婚なのだから」



彼の言葉にディアンヌの心がズキリと痛む。

最近は彼との距離が縮まったように思えていた。

しかしなんだか突き放されたようで寂しい気持ちになる。

たしかに契約結婚ではあるが、ディアンヌはリュドヴィックの役に立ちたいと思っていた。


(契約結婚だとしても、わたしがそうしたいと思うもの……!)


ディアンヌはその気持ちのまま口を開いた。



「契約結婚ではありますが〝メリトルテ公爵夫人〟として最低限のことはやりたいんです!」


「……!」


「これから社交界シーズンだと伺いました。それにこんなによくしていただいているのに、わたしだけリュドヴィック様に何も返せないのは嫌です」


「……十分だ」


「何も十分ではありません!」



掴みかかるような勢いにリュドヴィックもスッと視線を逸らす。

そして咳払いをしつつ、あることを口にする。



「……ディアンヌ、契約結婚のことなんだが」



リュドヴィックが何かを言いかけて口を開いた時だった。

複数の足音とピーターの叫び声が遠くから聞こえたような気がして、ディアンヌは振り向いた。

ピーターが泣きそうになりながら、ディアンヌに突撃してくる。

ディアンヌとリュドヴィックが呆然としていると数人の講師たちが肩を揺らしながらピーターを追いかけてくる。



「ピーター様、まだまだやることは残っていますよ!」


「嫌だ……勉強なんてやりたくない」


「これからメリトルテ公爵家の公子として恥ずかしくないように学ばなければなりませんっ!」



講師たちが責めるようにそう言うと、ピーターの顔が曇ってしまう。

ディアンヌと同じで、これから公爵家の令息として過ごさなければならないため学ぶことはたくさんあるだろう。



「ねぇ、ピーター。ピーターは勉強は嫌い?」


「……うん。大っ嫌い」



どうやら無理矢理学ばせようとした結果、ピーターはすっかりと勉強嫌いになってしまったようだ。

それにメリーティー男爵家に行った時にもわかるが、ピーターは平民寄りの生活をしていたようだ。

あまり母親との話をしたがらないため、どこで暮らしてどんな生活をしていたのか未だに詳細はわかっていないらしい。

ピーターがメリトルテ公爵家に来てから三カ月は経つ。

このままでは公の場に出られないと嘆いている。

嫌がるピーターに周りがどうするか戸惑っていた時だった。

ディアンヌはあることを思いつく。



「ねぇ、ピーター。わたしもがんばって今からマナーを習おうと思うの」


「ディアンヌも……?」



ディアンヌのその言葉にピーターが反応する。



「わたしもメリトルテ公爵邸に来たばかりで、リュドヴィック様の隣に並ぶにはまだまだ足りないことばかりだから……」



ディアンヌは俯きながらそう言った。

このままのんびりと過ごしているわけにもいかない。


(リュドヴィック様に迷惑をかけるわけにはいかないもの……!)


このまま立ち止まってはいられない。

契約結婚だとしても、こんな風にうごいてくれるディアンヌ

社交界に出たとしても男爵令嬢だったディアンヌに対する視線は冷たいままだ。

一部の人からは優しくしてもらえてはいるが、まだまだ公爵夫人として認められていないのは事実なのだ。



「今日はわたしもピーターと一緒に勉強するわ」


「ほんと……?」


「えぇ! わたしも復習したいと思っていたの」

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