第10話
その後、ピーターはディアンヌからピッタリとくっついて離れなかったため、そのままエヴァに手伝ってもらいながらメルトルテ公爵邸に向かう。
立派な屋敷の中に入り、ピーターが自室に運ばれていくのを見送った。
「ピーター様はとても元気なのですね」
「……ああ、そうだな」
静まり返る部屋の中、リュドヴィックが深刻な表情で口を開いた。
リュドヴィックの話によると、ピーターは彼の亡くなった姉の子供なのだそうだ。
それを聞いて驚いていた。
社交界に出ずに、情報に疎いせいかピーターはリュドヴィックの子だと思い込んでいたからだ。
前公爵は反対したそうだが。リュドヴィックがピーターを引き取ると決めたのが一カ月前。
ピーターの面倒を見ることを決めたのだが、宰相を勤めているため多忙だ。
ピーターがリュドヴィックのそばにいたいと泣き続けるため、城やパーティーに連れていくものの毎回のように騒ぎを起こす。
誰にも懐くことなく母親を恋しがるピーターに振り回されっぱなしなのだそうだ。
ロウナリー国王とリュドヴィックを育てたベテランの乳母のエヴァを呼んだものの状況は変わらずだそう。
「ディアンヌ嬢はどうしてピーターに好かれたのだろうか?」
「特別なことは何もしておりませんが……」
何故ピーターに好かれているのか、ディアンヌにはまったくわからなかった。
「今日はもう遅い。ゆっくりと体を休めてくれ」
「はい。何から何までありがとうございました」
リュドヴィックは侍女と部屋から出て行った。
一人になった部屋で、ディアンヌはホッと息を吐き出した。
ズキズキと足は痛むけれど、とりあえずはメリーティー男爵家の未来が繋がった安心感でいっぱいだった。
(今日はすごい一日だったわ……)
ディアンヌはそのまま目を閉じて眠りについたのだった。
* * *
翌朝。
「──ディアンヌ!」
遠くからディアンヌを呼ぶ声が聞こえたような気がした。
気のせいだと思っていたが、徐々にこちらに近づいてくる足音。
「ディアンヌ、ディアンヌ……ッ!」
「お待ちください、ピーター様っ」
どうやらピーターがディアンヌを呼びながら叫んでいるようだ。
しかし痛めた足ではピーターの元に行けない。
ディアンヌはどうするべきか戸惑っていると、小さな足音がこちらに近づいてくる。
そして扉が開くと、目を真っ赤に腫らしたピーターがディアンヌを見つけて突進してくる。
「ピーター様?」
「──ディアンヌッ!」
「グフッ……!?」
腹部に食い込む小さな頭にディアンヌの口から蛙が潰れたような声が漏れる。
侍女の「キャー!」と、叫ぶ声が聞こえたような気がした。
ディアンヌは勢いのまま後ろに倒れ込む。
「よかった……いなくなったかと思った!」
ぐりぐりと食い込んでいく頭に叫び声も出ないまま悶えていると。
「ピーター!」
「……リュド!」
名前を呼ばれたピーターは少しだけ顔を上げた。
ピーターは昨日と同じでディアンヌにぴったりと寄り添ったまま動かない。
ディアンヌはリュドヴィックの声がしたが起き上がることができずに腹部を押さえながら悶えていたが、ピーターを抱えながらなんとか起き上がる。
ピーターのディアンヌのワンピースを掴む手がわずかに震えていることに気づく。
それを見ていたリュドヴィックは深いため息を吐いた。
「ディアンヌ嬢、よければ私と結婚してくれないだろうか?」
「──ブフェ!?」
抑揚のない声から淡々と告げられる言葉に、ディアンヌの口から変な声が出てしまう。
「お互いを助け合う契約結婚とするのはどうだろうか?」
リュドヴィックの言葉にディアンヌは大きく目を見開いた。
「──よろしくお願いしますっ!」
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