第9話

「……メリーティー男爵領に関しては対策を考えます」


「おお、そうか! そういえば最近あの味が恋しいと思っていたんだ」



ディアンヌはピーターを抱えながら深々と頭を下げていた。

パーティーであんなことがあったのでどうなることかと思ったが、ディアンヌは見捨てられたわけではなかったようだ。


(神様、仏様、国王様……本当に本当にありがとうございますっ!)


感謝から目には涙が滲む。

ロウナリー国王が昔、メリーティー男爵家で育てているフルーツを気に入ってくれていて本当によかったと思った。


(お父様もお母様もきっと喜ぶわ。ロアンも王立学園に通えるし、ライとルイとレイにもたくさんご飯を食べさせてあげられる……!)


ロウナリー国王はディアンヌとリュドヴィックを交互に見ながら顎に手を当てて考えているようだ。



「ディアンヌは、このパーティーで結婚相手を探していたんだよな?」


「はい! どうにかメリーティー男爵家を救いたいと思っておりました」


「なるほど」



図々しい申し出ではあるが、自分が嫁ぐことでメリーティー男爵家を助けてもらえないかと思っていた。

それもロウナリー国王のおかげで解決しまったが。


(そうなると結婚相手はもう探さなくていいということなのかしら)


ディアンヌはこれから自分がどうすべきかを考えていた。



「たしかメルトルテ公爵領とメリーティー男爵領は隣同士か」



ディアンヌはロウナリー国王が何が言いたいのかわからなかったが、リュドヴィックは何を伝えたいのかわかったようだ。

焦ったように唇を開いた時だった。

ロウナリー国王は満面の笑みを浮かべながらこう言った。



「リュド、ディアンヌと結婚したらどうだ?」


「「……っ!?」」



その言葉を聞いたディアンヌは、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

リュドヴィックは言葉を詰まらせながらも額を押さえて、大きなため息を吐いた。



「陛下……思いつきで発言するのはやめてくださいと、いつも言っておりますよね?」


「思いつきではない。お前もいい年齢だし、ピーターに振り回され続けるだろう。このままでは仕事に支障が出る。実際、リュドの作業効率は落ちているだろう?」


「…………」


「総合的に考えても妻がいた方がいい。それは自分が一番よくわかっているはずだ。俺はディアンヌとリュドの相性はいいと思う」


「急にまともなことを言うのはやめてください」



ロウナリー国王とリュドヴィックの言い争いは徐々に激しくなっていく。

エヴァと顔を見合わせながら二人のやりとりを見守っていると、リュドヴィックと目が合う。



「ディアンヌ嬢の意見を聞かぬまま、決めるべきではないのではないでしょうか?」


「じゃあリュドはこんなにもピーターが懐いているディアンヌを手放して後悔しないのか? ここまで追い詰められているこの状況でピーターを救い、家族のために自らを犠牲にして動ける女性が社交界にはどのくらいいるのだろうな」


「くっ……!」




ディアンヌはあまりの急展開に驚き、言葉を失っていた。

そんな中、ピーターの気持ちのよさそうな寝言が静まり返った部屋に響いたのだった。



「ディアンヌ、リュドをよろしく頼む。メリーティー男爵領については任せておけ!」


「は、はい!」



ロウナリー国王はそう言って豪快に笑いながら部屋から出ていく。

ディアンヌはロウナリー国王の言葉の意味を深く考えていた。


(つ、つまりはメリーティー男爵領を救うために、リュドヴィック様と結婚しろと……そういうことよね!?)


二人の会話内容はいまいちわからなかったが、ディアンヌはロウナリー国王の裏の考えを勝手に読み取っていた。


(メリーティー男爵家を救うためならば……!)


元々、どこかに嫁ぐつもりでパーティーに突撃したのだ。

ディアンヌは腹を括っていた。

しかしながらロウナリー国王の大胆に見えるが緻密に計算された行動に震えるしかなかった。

彼の命令には逆らわない方がいいだろう。

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