第38話「フォンデュとリサの野望」
「なんか分かったようなそうでもないような……」
知らない教授がカメラに向かって話すだけの分かりづらい動画を見終えたカリン。あんまり分かったような感覚は無いというのが正直なところらしい。
「拙者たちは、ある野望を叶えるために召喚魔術の練習をしているのでござる」
「まあ道のりは遠いんですけどね……」
少し悦に入ったような様子のフォンデュと、苦笑いを浮かべるリサ。
「よくわからないけど大変そうね……」
「はい……。まだ、私の家の倉庫にあったテキトーな本で練習をしている段階なのですが、全然上手くいかないみたいなんですよね……」
そういえば例の動画にも「本を触媒に云々かんぬん」みたいなくだりがあったような気がする。
「場所と主従の条件は外せないのですが、それだと魔力が足りなくて困っているのでござる……。さすがに寿命削ってまでやるのは嫌ですし、時間制限もかけたくはないでござる……」
「地脈の強そうな場所を調べてそこで召喚すれば運良くその場に出てきたりしないかなぁ、なんていろいろ試してはみましたが……。そう上手くはいかないみたいですね……」
いろいろ思考錯誤はしているようだが、どれも上手くはいっていないみたいだ。話が進むにつれて二人の顔が徐々に曇っていくのが見て取れる。
「しっかし、リサ氏も変な本を持ってきたものですな……。召喚用の触媒じゃなかったらちり紙交換に出すところでしたぞ……」
空気が重苦しくなることを避けるためか、フォンデュは触媒用にリサが用意した本のことへと話題を逸らした。
「いや、それ以前に他人の本でしょうが……」
「いや、私も最初に読んだ時同じことしようと思ったので、気持ちはおおいに分かります……」
「ええ……? どんな本なのか逆に気になってくるわね……」
あまりにも両者から酷評を受けるその作品が逆に気になってきたカリン。
「『ユーリ=ハサマールの冒険』って本です」
「気になって通販サイト『ガンジス』のレビューも見てみたのですが、驚異の平均星1でしたぞ。まあそれも納得のつまらなさでしたが」
「いったい何をしたらそこまで酷いことになるのよ……?」
ノアならこの作品も読んだことがあるだろうか? 怖いものみたさで、今度感想を聞いてみたく思うカリンであった。
「そういえば今更だけど、なんで召喚魔術なんかやってるのよ? 今時そんな需要もないと思うのだけれど……?」
今更ながら素朴な疑問を投げかけるカリン。
「愚問ですぞ、カリン氏。そんなもの一つしかないではないですか」
「そうですよ、カリンさん」
やれやれと肩をすくめるように答えるフォンデュとリサ。しかし、そういわれてもカリンには何のことだかさっぱり分からない。
「はぁ……? いったい何なのよ……?」
「我々の野望とはもちろん……『ぷりっち』のロゼちゃんを召喚することですぞ! そしてあんなことやこんなことを……デュフフ」
「身体の隅々まで『採寸』して、あんな衣装やこんな衣装を……ぐへへ」
カリンの質問に答えながらも、野望の成就を妄想して店のテーブルに涎を垂らすフォンデュとリサ。後で拭くのが大変だから心底やめてほしい。
「はぁ……そういうことね……。アンタたちに聞いた私が馬鹿だったわ……」
目の前でテーブルに涎の池が広がる光景を見ながら、カリンはため息をついたのだった。
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